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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の一・・・事の始め
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第81話 桃から生まれた桃太郎

 村では大騒ぎになっていました。

 赤子が人以外のものから生まれる―――。

 村にとっては初めてのことではなかったからです。口伝えで誰もが知っていることであり、文庫にもきっちりその記録が残っていました。


 『竹取の姫の物語』

 

 もう百年余り前、『篠坂タケ』という大作家が村にいました。自らの手による物語を舞台で演じ、村の娯楽の一番の担い手でした。彼女のお陰で多くの書き手や演じ手たちも育っていきました。

 彼女が引退して穏やかに暮らしていた頃、事件は起きたのです。

 

 竹から生まれた『かぐや姫』

 

 ある日、本当に、幼い女の子が竹の切り株の中に座っていたのです。彼女が書いた物語の通りに。

 それから、実際に物語の出来事が起こり始めました。当時の村人たちは物語に合わせて事を進めようともしたのですが、ほとんどは好き勝手な行動をとってしまっていました。そのためか、女の子も物語の通りの『かぐや姫』には育たなかったのです。

 やがて物語の進展に連れて、隠れ暮らしてきた村が京の都にも知られることになり、黄金とかぐや姫の話によって(みやこ)から貴族や帝や軍隊までもが現れ、戦さながらの事態に陥ってしまいました。不思議にも作者のタケと合体し、人智を超えた力を持つようになった『かぐや姫』のお陰で、何とか軍隊の戦意を削ぐことはできたものの、『かぐや姫』が月よりの帆掛け船に乗って昇天すると、軍隊によって文庫の建物に火を放たれ・・・と思った途端に、取ってつけたように突然の激しい雷雨に襲われ、文庫は焼失を免れました。

 そして、様々な書き手たちによって、その事件は記録されてきました。考察した解説書まで出ています。しかし、それらが「的を射ている」かと言えば・・・

 誰も『星』の意図するところになど思い及ぶはずもないのです。

 そして今回の『桃』からの赤子の誕生―――。

 『竹取の姫の物語』の再来か? とも思われました。

 しかし、今回は(しるべ)となる『物語』などどこにもありません。

 お天道様は何をしようというのか、

 村に何が起ころうとしているのか―――。

 それでも、赤子が授かったからには見殺しにすることはできないのです。


 「桃から生まれたんじゃから桃太郎じゃ!」

 

 『篠坂タケ』が偶然にしろ、篠坂与助と朱野の夫婦から『タケ』と名づけられて、その実、本当に竹から生まれていたように、今回の『桃から生まれた男の子』に『桃太郎』と、当然のように村人たちは命名しました。

 何のために桃から生まれてきたのか、これを示す『物語』がほしい・・・。

 誰もがそう思いました。『竹取の姫』の時は、まず物語があって、後から出来事が起こったのです。

 しかし、今から誰かが『桃太郎』の物語を書いたからといって、どういう筋立てがいいのかも、果たしてそれに沿って進んでくれるのかもわかりません。 

 何もないなら、前のように『月に帰る』などというのではなく、素直に村の一員におさまってくれるのが一番いいのです。

 それを願って、誰も『桃太郎の物語』には手を出しませんでした。

 日常の、自然の成り行きでいい。決して大それた出来事など起こらぬように―――。


 そして人々は桃太郎が桃から生まれたという証拠を残すべきかどうか迷いました。が、一夜明けて現場に戻ってみると、岩棚の上に引き上げておいたはずの皮も種も一連の二葉も、すっかりなくなっていたのです。まるで何事もなかったかのように。

 確かに『かぐや姫』も生まれた竹は跡形もなく消え去りました。しかし、他の竹から黄金が出続けるという事態が起こりました。

 そこで何も証拠がなくなってしまった今回の『事件』を文庫の記録とする印のためにも、洗濯場の桃を割った地点の近くに小さな祠を建てることにしました。が、桃太郎が普通に育つなら、わざわざ「桃から生まれた」と教えることもないでしょう。

 桃太郎が村に大した騒ぎももたらさずに普通の村人になってくれるよう望むためにも、祠は建てるもののその謂れは特に皆に広めるようなことはせず、後々も、文庫で書物に触れればわかる、という形に留めることになりました。

 

 案の定、人々が内心恐れていた通り、桃太郎は普通の赤子ではないことがそう月日がたたないうちにわかってきました。何だかやけに育つのが早いのです。

 乳飲み子の間は特に親を決めずに皆で育てていたのですが、あっという間に乳離れしてしまい、半年たたずに立ち上がり始めました。村人たちは慌てました。『かぐや姫』のように三月(みつき)で幼子から成人の儀を迎えるほどではなくとも、普通の倍ほどの速さには感じられるのです。

 とりあえず、他に子供のいるような若い者ではなく、子育てを終えて悠々としている一組の、まだそこはかとなく若さの残る初老の夫婦にその後を受け持ってもらうことにしました。何か起きてもあまりあわてることのないように。もちろん、その息子娘たちにも了解済みです。皆、すでに家族を持って違う家に住んでいるので、弟として接するかどうかは、これからの育ち方を見て決めることにしました。

 そして、偶然にもその夫婦も『篠坂』という苗字を名乗っていました。というより、与助の弟から繋がる家系の者で、タケルの流れの『篠坂』が絶えたこともあり、母親役となる女の方が『篠坂』の苗字を持ってこの父親役のもとに嫁いでいたのです。朱野の姉が『雪橋』を繋いだように。

 一度生まれた苗字は可能な限り絶やさない、というのが村の生き方なのです。そうやって、互いの家系の流れを考えながら、妻か夫か、どちらかの苗字を繋いでいくのです。個人的にどちらを名乗りたいかではなく、苗字そのものを次へと繋いでいくことに重きを置かれているのです。

 そして、同じ『篠坂』で不思議をつなぐ、というのも何か『物語』と深い(えにし)があるようにも思えるのです。

 

 それにしても、黄金を京の人々に引き取ってもらって以来、京からは何の音沙汰もないのです。細々(こまごま)と書き記されている村の史書によると、「沙汰を待て」などとエラそうに言ったきり。

 これ以上、手を出さないことにしたのか、それとも何かあったのか・・・。

 確かに、あのあと、未曾有の大地震に襲われたと言うので、こちらはどうだったか、無事か?というような問いかけの遣いが一度だけ京からやってきたのですが・・・地震などここではありもしなかったので、どう答えることもできませんでした。もちろん、「救援」などと言われても訳がわかりません。その後、京がどうしたのかは全くわからないままです。そのまま、百年余り───。

 その時にやってきた十人の京の人らも、それぞれ、必要最小限の家族を呼びに京へと戻り・・・嬉々として妻や子と共に戻ってきた者と、例の大地震とかで失われてしまった家族の形見だけを手に戻ってきた者、結局戻って来なかった者・・・悲喜こもごもだったのです。そして、彼らが探り出してきた京の情報は、「黄金を地震からの復興や救援に使った」ということぐらいでした。彼らにしてももはや京に深入りも長居もしたくないのです。

 そして新しく幸せを求めて外からたどり着くような人はそのまま、何年かに一人、二人とやって来ます。特にその数が増えることもなく。そういう人たちから何か話を聞こうにも、京の考えていることなどその人たちにもわかるわけはないのです。京に住んだことがあるという人もいないのですから。

 前のように、またいきなり何か言ってこられても困る───。

 村は決断したのです。

 時には外の世界の情報もこちらから取りに行くようにすべきだと。 

 『桃太郎』の出現は、もしかしたらそんな役目でも負っているのではないか・・・?

 村の人々は何となくそんなことを思い浮かべていました。


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