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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の五・・・合流
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第63話 『月』だけではない

 中納言はおばあに連れられて、宿舎代わりの元の病棟に戻っていきました。そこにはまだ十人もいます。村との相談は進んでいて、空き地を分けてもらい、自分たちの小屋を建てることになっていました。場所が決まれば、そこらあたりから自由に材木を調達し、自分たちで建てることができます。必要なら大工の手を借りることも。十人で建て、落ち着いたら六人は一旦村を出る算段でした。まずは自分たちが村の中で自立することが目標です。病棟は今や彼らにとってもそれまでの宿舎ということになっており、食事も自炊になっています。そんな所に中納言一人が戻ってきました。

 姿を見て、十人ともギョッとしました。寝床を隅にたたみ、広い場所で輪になって野良仕事や小屋の建築のことでワイワイ言っていたのがしーんとなりました。

 「衝立はご入用ですかの?」

 新しい寝床を一つ用意しながら、おばあが中納言に聞きます。

 「いや、要りませぬ。人は、多い方が良い」

 中納言がそう言うと、「さよですか」と用意を終えたおばあは「ほな、ごゆるりと」と言い残して病室を出ていきました。

 「お・・・お早いお戻りで」 隊長が驚いたままの顔で声をかけてきました。

 「色々と面倒をかけ申した。そなたらのことは、ここに来る道々、立ち話に村の方々から聞き申した。どうしておるかと問うたら、全て話してくれたのでおじゃ・・・ござる。帰る者やらここに残る者がおることとかの。そう聞くと、話が早いのでござるよ」

 そう答えると、中納言は折りたたまれた新しい寝床を引っ張って男たちの方に近寄せました。

 その隣にあぐらをかくと、いつもの習慣か頭に手をやり、取るべき烏帽子も鉢巻も既になかったと思い出し、知らぬげに着物の襟元に手を動かしました。額のコブもほとんど治まっています。そして着物をあらかた脱ぎ捨てて、白い下ごろも一つになりました。改めて十人を見渡します。

 「逃げてきたでおじゃ・・・ござる。京から」

 

 タケはタケルを探しまわりました。菓子を持って家を出るときには既にタケルは工房に出かけていたので、その前にタケルにもいくつか持たせて送り出したのです。工房に行ってみると・・・

 またタケルは横笛を持って出ていったと言うのです。もう、滝が練習場であることは誰もが知っています。

 「また、こんな時に」

 タケは少し腹を立てながらも川へ向かいました。滝へは洗濯場から登って行くしかありません。

 若い頃はぴょんぴょん飛び回っていたような岩の上を、足元を確かめながらゆっくりと登って行きます。タケルもタケと似たようなものでしょう。もうそろそろ滝通いなんかやめたらいいのに、と思っているのですが・・・。

 やがて滝の流れ落ちる音に混じって、笛の音が聞こえてきました。最近は岩棚の上まで登らず、滝のそばまで登り詰めたその場所で吹いているようです。いつ頃からそうしているのかタケには知るよしもありませんが。

 「タケル!」

 タケルが笛を口から離して振り返りました。タケがそばまで来ました。

 「異変じゃ! 来てくんろ!」 すぐそばで、滝に負けじと叫びます。

 「何事じゃ⁉︎」

 タケルが叫び返しますが、タケは構わずタケルの腕をつかむと、そのまま強引に引っ張って戻り始めました。

 この歳になって二人して水にはまる訳にはいきません。ゆっくりと慎重に岩を渡って行きました。


 かぐや姫は中納言が持ってきた五人分のお題を前に、ただじっと見つめていました。まだ一つ一つを手に取ってみる気持ちにはなれません。それよりタケが戻ってくるのを待っていました。中納言を病棟に戻して帰ってきたおばあと、留守番のようにそこにいたままのおじいが姫を心配そうに見ています。見たこともないほど、姫が弱々しい姿をしているからです。心なしか、光の広がる範囲も狭くなったように思えます。新調の小袖に着替える気持ちにもなれないのか、隣の部屋にたたんだまま、着慣れた娘っ子のような小袖に身を包んだままです。それが余計に痛々しく見えます。おばあが声をかけてもただ「大丈夫です」と小さく答えるだけ。

 「そうは見えんが?」 おばあが言った途端、

 「かぐや!」

 タケの声が響きました。その後からタケルも戸口をくぐって入ってきます。

 姫はタケを見て安心したのか、ほっと肩の力を抜いたような感じになると、

 「おタケさん・・・助けて・・・どうしたらいいのか、わからない」 すがるような目で言いました。

 タケは姫の横に座り、タケルはお題の品を挟んで向かい側に座りました。

 中納言の話はタケが戻る途中でタケルに聞かせていました。

 姫はタケの肩にもたれかかり、タケは姫の手を握りしめています。

 タケルは改めてタケも『月の人』であるという話を思い出しました。同じ『月の人』同士が、この地上でただ一人の仲間を求め合っている?

 そんなことを思いながらも、タケルは目の前の品々を調べ始めました。

 一つ一つを手に取って見ている限り、焼き物職人として、玉の枝も、竜の首の玉も、仏の御石の鉢も、作ろうと思って作れるものではない、と思えました。その輝きといい、美しさといい、どうしても人の手に成ったものとは思えません。玉の枝など、細い黄金色の木の枝に真珠がその身内から本当に生えているようであり、竜の首の玉は何で磨いたのか見当もつかないほど滑らかで五色のうごめくまだらな輝きをその内部に秘め、玉そのものの材質もタケルには未知のものでした。ガラス玉とも違うようです。そして中身を取り出して空になったはずの鉢の中にも小さな光が点々と漂っています。虫か何かがいるようでもなく、手でつかもうとしてつかめない、中空に浮いているような不思議な光なのです。鉢自体は自分にも作れそうな焼き物に思えるので、それが光をたたえているというのが余計に不可思議です。まさに、タケが物語に記した通りのものが並んでいます。

 「どうやらこの三つは本物みたいじゃ。わしには人が紛いもんで作ったようには思えん。お天道様の為せる技か・・・。じゃが、この皮衣と子安貝はわしにはわからん」 タケルが検分の結果を述べました。

 「貝は本物の燕の巣から取ったちゅうとったから、多分本物じゃろう」 タケが言います。

 「それを確かめるならこうね」

 うなだれていた姫がいきなり立ち上がって皮衣を取り上げました。そして乱暴にも鍋のかかっていない薪むき出しの囲炉裏の火の上に乗せました。まだ薪は十分火を保っています。少しばかり灰が舞い立ちました。

 「本物なら燃えないはず」 姫は挑むような目で見つめています。

 タケもタケルも、三人のやることを端で見守っているおじいとおばあも息を呑んで待ちました。

 燃え上がる気配は少しもありません。焦げるような臭いもせず、色目の変化すらありません。

 タケルが皮衣を取りました。

 囲炉裏の火が消えていました。すっぽりと被さった訳ではないのに薪は消し炭のように黒く沈黙しています。まるで炎そのものがこの皮衣に吸い込まれてしまったかのように。皮衣の火に当たっていた面ですら熱くもならず、炭の汚れを払うと、傷一つついていません。

 「本物・・・」

 呆然とつぶやいたのは姫でした。

 「私は・・・あの方のもとへ行かねばならないの・・・?」 タケに尋ねます。

 「かぐや、それはない。月へ帰らねばならんのじゃから、いくら何でもそれは月が許さんはずじゃ」 タケがあわてて立ち、姫のそばに寄り添いました。

 「でも、月へ帰る日まではその男のそばにおることもできるとしたら?」

 タケルからの問いかけでした。二人はタケルをぎょっとしたように見上げました。

 「タケ・・・前にわしが言うたことがあったじゃろ? タケルノカミの上にも何かおる、て」

 「ああ・・・姫の上に月がおるなら、ちゅう・・・」 タケが思い出すように言います。

 「このお題の品がどうやって現れたか、ちゅうことになったら、その『何か』が中納言が見つけるように置いたとしか考えられんのでないか?」

 「その『何か』が私たちの物語の邪魔をしているとでも?」 姫が怒りをにじませるように言います。

 「邪魔しとるっちゅうなら、わしらかて物語の通りのことはしとらんで」 タケルは姫をたしなめるように言いました。「かぐやも物語の通りの姫にはなっとらんじゃろ。子守で走りまわったり、洗濯場で泳いだり。あの貴族らにしても偽もんを持って来るどころか約束自体をすっぽかしよった。まあ、貴族らは物語なんぞ知らんからしょうがないっちゃしょうがないが・・・寄ってたかって物語で遊んどる」

 「遊んどるて・・・」 タケはあまりなタケルの言いように言葉もありません。

 「それは・・・この村がそんな村だから・・・」 姫は言い訳のようにつぶやきました。

 「村のせいにする・・・?」 タケルが飽きれ顔で言います。「ええか? タケ。お前に言いたい。お前が最初の家で育てられずにここへ来たんも、その『何か』が手を出したんでないのかな。もう、そこから始まっとったような気がする。今となってはな。物語ができて姫も現れたのををええことに、わしらが好き勝手するのに一緒になってその『何か』も何かやっとるんじゃろ」

 「そう言えば・・・子安貝を取るのに失敗して死んでしまうはずの中納言までも生きて帰ったどころか五人分全部持って来よった・・・どうしたらええんじゃ・・・」 タケが泣きたいような気持ちで問い返しました。

 「どうするもこうするも、わしらがその『何か』に対して何かできるわけでもなかろ。正体もわからんのじゃから。次に何をしてくるかもわからん。『月』が本気でかぐやを帰らせるつもりなら、何とかするんでないか?」

 「『月』に祈るしかないんか? 物語を無事に終わらしてくれと」

 「もうあんまり動かん方がええかもな。いつ迎えが来るんかわからんが・・・それまで何も知らん中納言に『月に帰ります』て訳のわからん返事するわけにもいかんじゃろ」

 「むげに断るわけにもいかんしのう」 タケも悩ましげに言います。

 姫が、はあっと両手を口に当てて息を呑みました。

 「まだ帝が残ってるわ」

 「そうじゃ、迎えが来るのはその後じゃ!」 タケも思い出したように叫びます。

 「中納言の話じゃと、黄金絡みで大軍が攻めてくるとか・・・帝が引き連れて現れるんか?」

 タケルが、二人が一番聞きたくないことを言いました。目的が姫ではなく黄金でやって来るとしたら、危ないのは村なのです!

 

 その後、五つの品は村じゅうの様々な技士(わざし)や物知りたちによって検分され、見定められましたが、どれ一つとして誰も「人が作った紛い物」という判断を下せる者はいませんでした。

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