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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の二・・・呼び水
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第47話 守るべきもの

 まさに弥作にとっては究極の選択を突きつけられたようです。このまま自分が何も言わなければ、あの黄金はどこにも生かされることなく金蔵に没収されることになる。が、その出処(でどころ)を追われることはない。多分、自分はまさに『吐くまで』牢からは出られないだろう。吐くまではあの村を守れる。吐くことなく死んでしまえばいいこと―――。

 だが、そもそもあの村を出てきた目的である故郷の村を助けるには、あの村のことを吐くしかない。

 どちらの方がより守りたいのか・・・?

 世の中に絶望した者が探し当てて、新たな幸福を得ることのできるあの村か、

 せめて争いごとがなくなるように、暮らしを楽にさせてやりたい故郷の村か―――。

 誰ともわからぬ他人が幸福になれる場所か、幼い頃からの友人や知り合いが寄り合って貧しく暮らしている場所か。

 自分が自白するまであの村は守られ、故郷は苦しみ続ける・・・。

 自分が牢から解放されて、せめて故郷から「行きたい」という者たちを引き連れてあの村へ戻ろうとしても、後を追われて既に役人たちも村へ迫っているだろう。何としてでも山越えをやり遂げるに違いない。そしてあの小屋の大量の黄金が見つかったら、村はどうなる―――!

 そうなれば、故郷の友人たちに新しい幸福も提供できなくなる・・・。

 ・・・しかし、見つかったら見つかったで、村々を豊かにするために使うてほしいとお上に直訴することはできまいか? あの役人が「望み通りに使うてやる」と言う通り。元々、宮中の予定にはない、想定外の黄金なのだから。まさかそれを欲しいままにするほど腐ってはおらんだろう。だが、それを隠し持っていたと役人が決めたら、あの村にはそれ相応の罰でも下されるに違いない・・・。そして、年貢など、いずれは宮中の支配下に取り込まれる―――。

 他の村々と同じものになってしまう・・・!

 いずれにせよ―――。

 そこまで考えると、弥作は何だか希望の光がかすかに灯ったような気がしました。もう、役人が最終的にあの村をどうするかまで悩んでいても仕方ないような気がしてきたのです。もう考えることに疲れてしまったような・・・。拷問された方がマシだったかも・・・。

 そう思うと、知らず知らず弥作はくっくっと抑えつけたような笑いをもらしていました。

 何日ぐらい考えていたのか・・・。

 相変わらずな山賊たちの騒ぎも、だんだん力尽きてきたのか、静かになってきました。完全に彼らとは別件になったようで、何度か彼らだけが引き出されていきました。

 陽の光も射さず、たまに食事を持ってくるような、人が来るときだけ松明が持ち込まれる真っ暗な牢屋に、時を見計らったかのように放免が現れました。

 「弥作よ」

 松明の光の中、牢の前で放免が声をかけてきました。

 うずくまっていた弥作は格子のそばまでにじり寄ってきました。立ち上がろうにも力が入りません。眩しい松明に目を開けられないまま、格子にすがりつくように両手をかけ、弥作は自分から言い出しました。

 「『伝説の村』じゃ・・・」


 放免はその言葉をすぐには信じませんでした。もちろん、世間に広く伝わっている言葉ではありますが、現実のものではない、という話も大きいのです。宮中や京の住人でその村を目指した者がいたという話も聞いたことはなく、巷の村々の中に行った者があったとしても元々誰も帰ってこないというのですから、その村が『ある』と証言できる者もいないのです。弥作を除いては。 

 しかし、宮中の知る限り、あれほどの黄金を自分たちに知られずに蓄えることができる者などいるはずがなく、弥作によると、それでもその者は別に困らないと言うのだから、蓄えはそれ以上に、莫大なものがあるはず―――。

 もしそうなら、『京』とは別の巨大な勢力が密かに興っている、ということか。

 実際に目の前に黄金がある以上、もし、そういう勢力としての『伝説の村』が実在するなら捨て置くわけにはいかない―――。

 それが宮中の結論でした。

 とにかく、『伝説の村』の実在を確かめねばなりません。そのために偵察としての『先遣隊』がまずは送られることになり、弥作はその案内役に駆り出されることになりました。大昔の山崩れで道が失われて以来、新しく道が造られることもなく、『村』の噂も相まって人々にはなかなか手の出せない山々でした。しかしここに来て弥作のような男の出現で、少なからぬ人数が山越えをせねばならない事態になったのです。必要ならばそのために新たに道を開く、ということまで計画されました。

 弥作は牢から出され、案内役が勤められるように普通に寝起きできる小屋の一室とマシな食事が与えられるようになりました。事の成り行きによってはあながち『罪人』ではなくなるかもしれないし、ただ一人の証言者でもあるからです。

 先遣隊が出発できる日まで、弥作に対する聞き取りは続けられました。できるだけ『伝説の村』の情報を聞き出そうというのです。

 弥作は自分が村へ行った理由と、村ではまだ年季の浅い新入りであまり色々なことは教えてもらえてないこと以外多くは語りませんでした。地元の村で重税に苦しんだ果ての追放劇の結果、妻を失い、伝説の村に逃げ込む形になったと言うと、聞き取りの場は一瞬、白けたような空気が流れましたが、誰もそれに関して質問を重ねることはありませんでした。聞きたいのは弥作の事情ではなく、『村』の内容なのです。弥作は撹乱にでもなればと、敢えて『かぐや姫』のことは言いました。ただ「この世のものとは思えぬ美女がいる」とだけ。

 もちろん、黄金が竹から生み出されることや、姫の出自までは言いません。そんな不可思議な話は今語ったところで信じてもらえる訳もないし、村に行ってからわかってもいいことです。前もって黄金以外の余計な期待感のようなものを持たせておけば、姫が男たちを骨抜きにして撃退しやすくなるのでは? と思えたのです。ひなを失ってからしばらくは(おなご)と関わる気になれなかった自分でさえ当分立ち直れなかったのですから。嫁を持ちたくなったのもかぐや姫のお陰なのかも知れません。ひなも、もう許してくれるだろう、と。

 姫が村を守ってくれる・・・。

 弥作は自分のやらかした結果を姫に埋め合わせてもらえたら・・・と心の裏で思うようになっていました。

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