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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の二・・・呼び水
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第46話 尋問

 翌朝早くから取り調べが始まりました。

 山賊たちと弥作は一緒に獄舎の前に引き出されました。検非違使が二人打ち揃う前で黄金に関しての放免の尋問に、山賊たちが「こいつが持っとったんじゃ!」と全員が声を揃えるように叫ぶのに対して弥作がうなだれたまま反論せず、ただ小さくうなづくばかりなので山賊たちは牢に戻されました。どうやら、あの黄金の一袋だけで山賊たちの押収品を上回ってしまったようで、彼らは後回しということになったのです。

 弥作への尋問はただ一つ。

 あれだけの黄金をどこから持ってきたのか?

 街なかでの被害と、弥作と山賊たちの自白によっては返還すべきは返還されるよう明らかにせねばなりません。

 後ろ手に縛り上げられた弥作は地べたに座らされ、ずっとうなだれています。

 放免が閉じた扇で自分の首の付け根あたりをポンポンと叩きながら弥作のまわりをゆるゆるとまわり、幾つかの穏やかな質問にも弥作はただ首を横に振るばかりです。

 「京で盗みを働いたんか?」

 これには弥作は一際激しく首を振りました。

 「なら、どっから持ってきたんじゃ?」

 弥作はうつむいたまま歯を食いしばり、黙秘しました。もう何回めかの同じ質問です。

 「なあ、弥作よ」

 同情するかのような優しげな放免の呼びかけに、弥作は思わず顔を上げました。途端にシュッと顔面を何かが横切り、激痛が走りました。弥作は声を上げる間もなく横倒しに倒れ込みました。

 放免の閉じた鉄扇の要の先が横ざまに振り切られ、両側面の鉄板が弥作の顔を横断するように二本の線を両目の下あたりと鼻っ柱に引いていました。

 線からじわじわと血の滴が落ち始めています。

 「どっこらしょ」

 放免は片手で弥作の着物の前の合わせ目をつかんで起き直らせると、

 「あんまりわしに辛抱させるでないでな。見かねてこの扇が何をやり出すかわからんで」 ペタペタと閉じた扇で弥作の頭を叩きます。「今もほれ、ちっと暴れてしもうたがな」

 左右に分かれて台座に腰掛けている二人の検非違使が「早うせい」と、用意されている拷問道具の方に目をやります。

 放免はそっちをちらりと見ながらも、気にせずに自分のやり方を続けました。できるだけ大層な拷問をせずに言葉と扇だけで吐かせるのが放免の得意とするところでした。その代わりそれなりの時はかかります。相手を疲弊させるのも手でした。あんまり先に拷問で弱らせてしまうと、あとあと使いものにならなくなる、ということもあります。今、自分が放免でいられるのも、早々に取引きで拷問を逃れたからこそのこと。それでも検非違使たちは放免のやり方をあまり快くは思っていないようです。

 「あの黄金をどうするつもりじゃったんじゃ? 何かやりたいことでもあったんか?」 放免は質問を変えました。

 そう言われて弥作は涙が込み上げてきました。本来の目的が改めてこの身を押し潰さんばかりにのしかかってきたのです。

 「何じゃ、泣いとるのか」

 うつむいたままポタポタと血の涙を落とす弥作に、放免はしゃがみ込みました。

 「どうじゃ、わしに訳を言うてみんか? 事と次第によっちゃ、その重しを軽うしてやれんでもないかもしれん」 囁くように言います。

 ・・・言うてはならん・・・絶対にあの村のことを知らせてはならん・・・!

 ただただ弥作は黙秘し続けました。

 放免は弥作の表情を伺いつつ立ち上がると、その前を右に左にゆっくりと歩き始めました。何度か往復すると、

 「あれだけの黄金がありゃ、大勢のもんが助かろうのう」 遠くの山々を眺めながら言います。

 はっとして弥作は顔を上げました。思わず放免の目を見てしまいます。素直に引っかかってしまったようです。

 「ふん、そういう黄金か」 放免は勝手に納得しました。

 そこからはもう解きほぐされ放題でした。

 「で、そういう黄金じゃから皆に分けてやってくれと誰かに頼まれたんか、それとも自分で分けるためにどっかから()ってきたんか」

 「誰にも頼まれてない!」 自分以外の誰かを作ることもできんと瞬間的に頭の中を走って、弥作はそう口走ってしまいました。気持ちは放免の『軽うしてやる』という言葉にすがりつきそうになっています。

 「ほう、皆を助けるために盗っ人をやらかしたと」 放免は感心したように言いました。「盗られたもんはさぞ困っとろうのう」

 「困っとらんわ!」 弥作はまたしても叫んでしまいました。途端に、しまった!と唇を噛みました。

 「何と?」 放免は弥作をじろりと睨みました。

 「あれだけの黄金を盗られて困りもせんとは・・・一体どこに忍び込んだんじゃ。それほどの大金持ちは・・・」

 放免は危うく言葉を呑み込みました。検非違使の手前、『宮中ぐらいのもんぞ』など言えるものではありません。

 弥作はガタガタと身を震わせ始めました。絶対に言えないのです。それだけは。たとえこの場で死んだとしても。

 二人の検非違使が立ち上がり、放免も寄って行って三人で何やらボソボソと話し合いを始めました。

 その間、弥作は放置され・・・まさに地獄の苦しみを味わっていました。死ぬまで拷問された方がマシだと思えるほどの。少なくとも拷問の間はこの苦しみからは逃れられ、死ぬ瞬間には『自分はあの村を守れた』と安堵して死ねるのでは・・・?

 やがて放免が弥作のそばに戻ってきました。しゃがみ込み、うつむいて震えている弥作の顔をのぞき込むようにして、

 「相談なんじゃがのう・・・まあ、これからお上が押収品の中身を重々調べてからのことにはなろうが・・・もし、あの黄金が丸々その何かわからん大金持ちのもんじゃということになったら、その黄金はお前がやろうとしてる通りに使うてやろうじゃないか。お前が配りたいもんに配ってやる。やりたいことを代わりに叶えてやろうぞ。その大金持ちが別に困らんと言うんならな。その代わり・・・わかるな?」

 放免は扇の先を弥作の顎に当てて上を向かせ、そのまま頬をペタペタと叩きました。

 そのまま弥作は元の牢に戻されました。すぐに返事をしろというわけではないようです。十分苦しんで考えろ、とでもいうのでしょう。

 替わって、例の山賊たちがワーワーと騒がしく引き出されていきました。

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