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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の二・・・呼び水
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第45話 捕縛

 役人らしき男が小屋からのっそりと出てきて、戸口の前の男を突き飛ばし、三人の方へ追いやると、まわりの弓矢の囲みが一回り縮みました。四人の男たちにはもうどうすることもできません。

 「ぬかったな」 役人は勝ち誇ったように言いました。役人は『放免』でした。検非違使に使われる下級刑吏で、元犯罪者。罪を許される引き換えに犯罪者の掃討に協力している者です。探索して捕縛するのが役目です。

 まさに、どこでどうぬかったのか、同業には同業の鼻が効くようです。小屋がバレていたのですから、この追っ手は気絶している男ではなく、自分たちに向けられているのは間違いないのでしょう。四人は抱えていた男を落とすと、それぞれ地面にへたり込んでいきました。ほとぼりを冷ましている間も色々と調べは続いていたようです。

 弓矢の間から放免を手助けするためか、何人かの下っ端役人らしき男が加わってきました。早速四人に縄を打ちます。小屋の中は既に手入れ済みで、あとは数々の盗品を運び出すだけです。もちろん、中には少なからず黄金も混じっていました。品物の量や状態が確かめられたので、回収隊を別途派遣するよう、一人が京へ伝令に走っています。捕縛が終わると、弓矢の一隊は矢を下ろして片膝をつき、その場での待機に入りました。

 「よう暴れてくれたのう」 放免は四人を舐めるように眺めると、全く違ういでたちで転がっている男のそばにしゃがみました。

 「こいつは何じゃ? お前らの知り合いか?」 手にしている閉じた扇でペタペタと男の腹を叩きます。予定外の人間に少なからず戸惑っているようです。

 「放免殿!」 カゴの中の袋を調べていた男が叫びました。カゴごとそばまで持ってきます。

 「何じゃこりゃ?」

 放免は中身を見せられると片眉を吊り上げて、不審げな声を上げました。

 「こやつらも持っとりました」 別の男が男たちから回収した黄金を、手ぬぐいを広げた上に一人分ずつ固めて並べます。

 放免は四人を睨みつけました。

 「これは、どっから盗ってきたんじゃ?」 不気味な静かさで質問します。

 カシラはぶすっとしたまま何も答えません。

 「だんまりか」 放免は言いながら一旦四人から視線を逸らすと振り向きざま、扇をカシラに向かって投げつけました。鉄の骨で作られた扇は要を先に矢のように空を切り、カシラの目の上あたりを直撃しました。

 「ググッ」 カシラは後ろ手に縛られて、当たったところを抑えることもできないままのけぞりました。元の姿勢に戻ると、血が二筋、じわりと瞼を越え伝っていきました。放免を不敵な笑みを浮かべて睨み返します。他の三人は怯えたようにカシラの方を見ていました。

 「そうか、お前が大将か」 放免もニヤニヤしながら「小屋の中にあるもんだけならまだしも、こんなまとまった黄金・・・どこを襲うたんじゃ? それとも何軒も襲うたんか?」 期待せずに問い詰めました。

 その時、何度も殴られてずっと気を失っていた男が唸り声を上げ、身をよじりました。

 「そいつじゃ! その袋も、地べたの黄金も丸ごとそいつが抱えとったんじゃ!」 カシラが都合がいいとばかりに言い捨てました。

 「何じゃ? 盗っ人の上前をハネたんか?」 呆れたように言います。

 「ふん、出どころが知りたきゃそいつを詰めるんじゃな。わしらの知ったこっちゃねえ」

 「ははん、たまたま出くわしたんで襲うてみたら、こんなもん持っとったてか?」 放免は全体を把握したようです。ゆっくりとカシラの傍に落ちた扇を拾い上げます。

 男ははっきりと目覚めて、びっくりして起き上がりました。途端に首から後頭部に痛みが走り、思わず両手で首の後ろを抑えました。

 「大丈夫かい? よう寝とったのう」 放免は男のそばにしゃがみました。ニコニコ笑っています。

 「早速で悪いんじゃがのう、この袋は何なんか教えてはくれんかのう」 そばまで袋を引きずり寄せます。弥作にはまだ自分がどうなったのかつかめませんでした。襲われたことは確かで・・・。

 何とかおさまってきた痛みに顔を上げ、地べたに縛られて座っている四人の、まさに山賊然とした男たちを見て改めて背筋が凍りつきました。

 「お・・・お前様は・・・?」 男は恐る恐る放免を見上げました。

 「わしか? わしはな、京の探索方のもんじゃ。こいつらが散々悪さしたでのう。小屋を押さえてお帰りをお待ち申し上げとったのよ」

 弥作はだんだん黄金を皆に配ることができなくなったことを把握し始めました。が、どう話したらいいのか、話してもいいのか、考えがまとまりません。

 じわじわしている男に、放免は、やれやれ、と言いながら立ち上がりました。

 「立ち話も何じゃで、役所でゆっくりと聞かしてもらおうぞ」

 そう言うと、開いた扇を高々と振り上げて合図をしました。犯人確保に参集していた全員が立ち上がって出立の準備を始めました。


 回収隊が来るまでの小屋番に二人を残し、放免の一隊は途中の村々で適宜雇い入れた農民たちがそれぞれ労賃を与えられて散って行ったりして、京に到着する頃には半分以下の人数になっていました。四人の山賊ともう一人の身元不明の男は後ろ手に縛られたまま、更に一本の荒縄で繋がれています。それぞれ横に一人ずつ、短刀を構えた男が見張り役についており、そういう格好のまま、山奥から平地の京まで休むこともなく歩かされました。夜も更け、先頭の男と最後尾の男がそれぞれ松明を灯して、都大路とはかけ離れたはずれに位置する寂しげな獄舎を目指します。その姿を見る者など誰もいません。雲の切れ目に時々現れる月だけが煌々と光を投げ下ろしてくるだけです。

 洞窟を利用した獄舎に到着して、薄暗く異臭の漂う中、山賊たちはまとめて一つの牢に、不詳の男は別に一つの牢に一人放り込まれました。他の牢も無人ではないようで、それぞれイビキや寝言とも唸り声ともつかない雑音が充満しています。新たに放り込むために住人が整理され、まとめられていました。

 役人たちが去って行くと、壁に掛けられていた松明も持ち去られ、あたりは真っ暗闇になりました。そんな中で例の山賊たちがやいのやいのと内輪揉めを始めました。殴り合うような音まで聞こえてきます。「うるせーぞ! 何もんじゃ!」 誰とも知れない怒鳴り声も響きます。それでも騒ぎはおさまりません。

 弥作は湿った、もぞもぞと何かが這い回っているような地べたに横になる気にもなれず、手探りで壁を見つけると横向けに身をもたせかけ、両耳を手で覆うようにして身を縮め、とにかく眠ってしまおうと暗闇の中で目を閉じました。

 こんなことなら村を出て来なければよかった・・・。

 今さらながら後悔の念が渦巻きます。今頃はちゃんとした布団の中で大の字になって心配もなく寝入っていただろうに。

 大量の黄金を見て、色気心を出したばかりに・・・。

 『村』に馴染むための心根に、自分はなり切れていなかった・・・五年もたっているのに・・・。ひながいたら、『村』から出ることなんかなかっただろう。ひななら絶対に反対した・・・いや、ぶん殴られたかもしれん。『比奈田弥作』・・・名前までもらっときながら、何と言うことをしてしもうたのか・・・。

 二度目の人生をくれたような『村』・・・その『村』がこれからどうなるかは、自分が白状するかどうかにかかっている・・・。

 弥作に涙が込み上げてきて、とても眠りに落ちることはできませんでした。

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