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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の六・・・幸ありて
33/135

第33話 夢か現か幻か

 『京』の人々の哀しみ、

 計略と駆け引きに満ちた生活・・・

 この村を決してそんなものに巻き込ませてはならない。

 タケル、おとう、おかあ、村の衆・・・

 皆の平安を見届ける。

 この命が続く限り・・・ 


 ・・・おまえは・・・

 

 タケは白い夢の中に漂っていました。

 何も、何もない夢・・・

 タケルノカミはどこ・・・?

 何も言ってくれないの・・・?



 『月』は何も語りかけませんでした。

 今回のことは、完全に逆効果になってしまったようです。

 世を悲しんで帰還を望むどころか、

 返って地上へのこだわりを強めてしまった・・・

 さらに、送り込んだ魂さえも癒し、昇天させてしまった・・・

 失敗だ。

 なぜ、女は男の生を奪い切れなかったのか。

 まさか、『タケ』が飛んでくるとは予想だにせず、 

 何もかもが中途半端だ・・・

 甘く見過ぎたのかも知れない・・・。


 『月』は決めました。

 今回のことはなかったことにしよう、と。

 女が現れたことも、『タケ』がその場に移動してきたことも。

 そうすれば、『タケ』の強化された感情も体験しなかったことになる。

 幸いなことに、『タケ』はそれを夢の中の話として片づけようとしている。

 あとは、本人の記憶を消すだけだ・・・

 

 そして、他に方法はと、『タケ』を自らの意思で帰還させるための『月』の模索は続くのです───。


             ****


 タケが突然、目の前から消えた───。

 実家ではおとうとおかあが大騒ぎしていました。敷物の上に湯呑みだけが転がっています。家の中でバタバタしたあと、二人とも外へ飛び出して行きました。取るものもとりあえず、「タケがおらんようになったあ」と出会う村人ごとに訴えてまわります。いつも冷静でドンと控えているようなところがある朱野(あけの)までが、まだ雪の残る中を草鞋一つでうろたえていることに、皆がうろたえました。みんな、そんなバカな、夢でも見たんと違うか? などと言い合いながら、雪をザクザクと踏みしめて実家まで来ました。

 おとうが五、六人の心配した村人を連れて、実家の戸に手をかけた時、

 ガラリ、

 と、戸板が勝手に開かれました。

 「あ?」

 と目の前にタケが立っていました。敷物を手にしています。

 「お茶、こぼしてしもうた」

 タケは涙の跡で目をしょぼしょぼさせながらそう言って外に出てくると、敷物を物置き場の梁に干しました。

 「タケ、おるぞ?」 誰かがおとうに言いました。

 「心配し過ぎて悪い夢でも見とったんと違うか?」

 「いや、そんなことは・・・」 おかあが首をひねります。確かにタケは目の前からふわっと消えたのです。

 「タケ、大丈夫か?」 おとうが戸口に戻ってきたタケの両肩をつかみました。

 「大丈夫なわけなかろう、タケルが戻ってくるまでは」

 タケの胸の内は悲惨なままでした。そのまま家の中に引っ込んでいきます。

 「あ・・・あの時分から出かけたから、今日は一晩小屋で泊まって、帰りは明日の昼頃じゃな」 誰かがわかりきったことを言います。中のタケに呼びかけるように。

 「タケルが戻って来よるなら、出会う場所次第じゃ、今晩かもしれん。松明もたんと用意しとるしな」 他の者も言いました。まるで言い訳するようです。

 「そうじゃ、山のあたりもだいぶ雪も減っとるで」 根拠もなしに言います。

 「あ〜〜〜ん! タケルぅ!」 

 中からタケの泣き声が響いてきました。

 「あかん、さわらん方がええ」

 村人たちは退散して行きました。

 おとうとおかあはあわてて家の中に戻りました。


 タケルはあわてて小屋の外へ出ました。

 「雪?」 空から地面からあたりを見まわします。

 ・・・確かに昨日、ちらちらと降り始めよったけど、

 タケは「大雪」じゃと・・・?

 地面にはうっすらと積もっているだけです。普通の草鞋でも十分歩けそうです。

 タケルはとにかく桶を置いた場所まで行ってみました。女を助けた場所です。

 桶はそのままありました。中の土の上にも雪がかぶさっています。

 タケルは中の雪を取り出して土だけにすると、桶を抱えてまた小屋に戻りました。

 村の衆が迎えにくる・・・

 タケはそう言うとった・・・夢の中で?

 夢にしてはあまりにも現実味が過ぎるのですが・・・

 「もうじき」ということは、今夜は小屋に泊まるつもりで来る・・・?

 どちらにしろ、今から帰るのも危なっかしい。

 タケルは一晩たってすっかり消えている囲炉裏に再び火を入れました。

 村の衆が来てくれることを当てにして、また餅と根菜の雑煮の用意を始めました。

 この小屋ではそれぐらいしか作れないのです。


 ちょうど雑煮が出来上がる頃、

 「タケル〜〜、おるかあ」

 何人もの呼ぶ声が遠くから聞こえてきました。小屋に到着する前から呼びかけているようです。

 思いのほか、山道の雪は少なめでした。道の周辺も適宜探索しながらも急ぎ足で難なく来ることができたのです。何だか、村にだけドカ雪が降ったような感じです。お天道様は何をしでかして下さることやら・・・。

 タケルはタケの言う通りになったことにほっと息をつき、わざと出迎えませんでした。

 程なく、戸口がガラリと開けられました。

 「何じゃ、おるでないか」 

 先頭の男が目を丸くしてそう言うと、蓑やら笠やら着込んだ面々がわらわらと土間に入り込んできました。総勢六名の捜索隊でした。

 「すまんな。えらい心配かけてしもうた。ええ塩梅に雑煮が出来上がったわ」

 タケルが飄々と言いました。辛そうな顔を見せるよりはと思ったのです。

 雑煮は人数にしたらちょっと少なめかも知れません。しかし材料はまだあります。いつも来る度に食材は多めに置いていくのです。次はいつ来るかわからないので、傷んでしまうことは承知の上ですが、傷んだらそれはそれであたりの採掘場以外の土に埋めてしまいます。付近には食材となる草木や時には薬草なんかが自生していたりするので肥料代わりです。

 そして、今回のようなことも稀に起こったりするのですから、多めに置いとくに越したことはありません。

 男たちは装備を脱ぎ捨てて囲炉裏端に集まりました。タケルの無事に、一気に気持ちがほどけてしまったようです。小屋にはケガなどに備えて酒も置いています。

 タケやおとうたちの心配をよそに、心ばかりの飲み会が始まりました。


 タケルがいなくなって二晩をタケは過ごしました。タケルのために沸かした風呂はせっかくなので、おとうとおかあに入りに来てもらいました。今日こそは・・・とまた新しい湯の用意をしています。

 昼近くになって、男たちが東の隠し山道から列を成して現れました。もうあれから雪は一粒も降ってないのですが、全員蓑と笠ですっぽりと身を包んでいます。

 山道を途中まで見に出ていた村人の「帰ってきたぞー! タケルも無事じゃ!」という一報を受けて山道近くまで迎えに出ていたタケは、タケルの姿を探しました。何人で出かけたのかは聞いていません。

 タケのいる方に近づいて来て、その行列は通り過ぎて行きます。

 「タケル・・・ タケル・・・?」 

 タケは蓑の下に桶を背負った一人の方へ行こうとしました。焼きものの仲間はなぜか背が高い人が多いので、タケルも埋もれてしまいます。すると、通り過ぎざま、蓑の間から手が伸びてきて、タケの手を捉える者がいました。タケはその手に引っ張られて行きました。皆、それぞれ自分の家の方向へと分かれて行きます。タケルの桶は他の者が背負っていました。

 笠を少し手で押し上げると、その顔がタケに向かってニッと笑いました。うっすらと髭が覆っています。

 「もう・・・」 

 タケはその体を肩で小突きました。とっとっと、と手をつないだままもろともに大袈裟によろけます。タケルはそのついでに笠を後ろに外しました。無精髭に薄く覆われた美貌が現れました。

 「おまえ・・・小屋に来んかったか?」 立ち直ると言いました。

 「は?」 何のことかわかりません。

 「そうか・・・やっぱり夢やったんかな」 

 「わしが・・・夢に出て来たんか?」

 「まあな。すぐそばにおった」 他の女も、とまでは言いません。

 「わしは・・・タケルの夢は見んかったな」

 「・・・・」

 タケは何も夢を見ていない間に自分がしたことなど何も覚えていませんでした。ただ、ぼんやりとおかあが入れてくれた薬草茶を飲んでいて・・・どれぐらいの間ぼんやりしていたのかはわかりませんが・・・「冷た!」と気がついたら湯呑みが下に転がり、なぜか敷物の自分の膝の下が濡れていました。そして、いつの間にかおとうもおかあもその場からいなくなっていたのです。何がどうなったのか何もわからないまま、敷物を干しに出て・・・村の衆に何やかやと言われてギャン泣きしてしまいました。慰めてくれたには違いないのでしょうが・・・。

 しかし、もう終わったことです。タケルは帰って来ました。自分のもとに。

 「風呂、沸いてるで。あったまり」 タケはタケルに寄り添いながら言いました。

 タケルは蓑の片方を広げて、その中にタケを包み込みました。

 「髭も剃ってやるわ」 蓑の中でタケルを見上げます。

 「似合うてないか?」 自分の頬や顎を撫でます。

 「ジョリジョリは嫌じゃ」 膨れっ面をして見せます。

 タケルはそのほっぺたをタケのほっぺたにぎゅーっと押しつけて、スリスリしました。

 ゾワゾワッとしたタケは「なーにするんじゃあ!」と叫びながら、

 道の端に積み上げられているとけ残った雪の山に、タケルを押し倒すようにもろともに倒れ込みました。

 しばらく雪に埋もれたままでした。


 二人がコロコロと家へ帰っていくのを見かけた村人たちは、

 「さっそくじゃれ合うとんのかい」

 「ほんにあの夫婦(めおと)は・・・」

 と、あまりの無邪気な姿に呆れ返っていました。

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