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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の六・・・幸ありて
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第34話 竹取前夜

 今、タケのまわりには色々な歳の子たちが集まり、薬草庭園の文庫の部屋を拠点に共に楽しく遊び、学ぶ日々が続いています。

 あの祝言の催し以来、タケとタケルの技に憧れて手ほどきを受けたいとやってくる者が歳のほどに関わらず次々と現れ、二人はそういう者達の相手をするのに忙しくもなっていました。

 タケルは焼き物や木工や横笛において技法や手法的なものはある程度伝えることができますが、タケの場合は・・・何をどう伝えたらいいのかわかりません。何しろタケ自身が思いつくまま、何の技とも思えぬ出任せを演じているのですから。タケとしては何かを伝えられるとすれば、文章に綴る方法ぐらいでしょう。『語り』は実際にやって見せるしかありません。もちろん、語る時も前もって紙に大筋を記してはいますが、それをもとにその場で気の向くままに展開していくのです。そして語ったあと、書物に記す場合はそれを思い出しつつ文字にして清書していきます。ある程度きっちり物語として仕上げてから語ったのは『竹取の姫の物語』が初めてでした。初めての正式な『舞台』での語りでしたし、何よりもタケルの横笛がつくことになったので、そう自分勝手に暴走するわけにもいかなくなったのです。

 語りに音をつけたことが、他の音曲士たちを焚きつけることにもなり、『竹取の姫の物語』はタケが思いもしないような舞台に大化けしてしまいました。いつもよりちょっとだけ大げさなタケの語りに、ちょっと笛の音が色を添えるだけ・・・と思っていたのに。

 タケルにしても何だか計画をぶち壊されたような気分にはなりましたが、タケの語りが彼らのお陰で冴えて来たので、自分も負けていられないという気持ちなり、その渦の中に飛び込んだのでした。終わってみると、自分とは思えないほど冴えた演奏ができていたようです。


 ―――タケとタケルが祝言を挙げてのち、『竹取の姫の物語』を正式な書物として書き上げた頃に、祝言の舞台での二人の凄絶な美しさに感銘を受けた村の絵師、タケルに絵の手ほどきをした人物の一人でもあるのですが、その絵師がどうしてもこの美しさを後々までも残したいと二人に似顔絵を描かせてほしいと懇願してきました。そして、物語の巻末を飾りたいと。もちろん、舞台の様子も他にも何人かが思い立って何枚も写生していたりしたのですが、どうも誰も満足のいく出来のものはなかったようです。それで絵師はせめて二人の容貌ぐらいは残したいと、改めて思い立ったのでした。

 二人とも仰天しました。人相書きじゃあるまいし、作者の似顔絵の載った書物など見たことも聞いたこともない、と。絵師は、似顔絵があれば作者の人となりにも思いを馳せて物語を楽しむことができるなどと説得を試みました。それでも頑として拒否されるので、では、どのくらいお前さん方の美しさを写し取れるか、わし自身のためにひとつ練習台になってはくれまいか、とこじつけて、まあそういうことなら、と何とか描かせてもらったのでした。

 一枚に寄り添うように描かれた二人の襟元から上の姿を、タケとタケルはそれぞれを見比べ合って「よう描けとる、生き写しじゃ」とお墨付きをもらいました。もちろん、絵師にとっては渾身の自信作ではあるのですが、本人たちの承諾を得られないのでその絵は封印され、絵師の手元に眠ることになりました。しかしそういう思いが止められず、その後何年かして絵師は息子に遺言したのでした。「もし二人ともいなくなるようなことがあれば、追悼の意味も込めて、この似顔絵を物語の巻末に差し込んでほしい」と。二人が拒否する理由が、ただ単に前例がない、もしかして照れくさいから?以外に絵師には考えられなかったからです。そしてそんな理由は大したことではないと思えました。きっと、笑って許してもらえるだろう。

 タケもタケルも、その絵師が単に練習で描いた絵を大切に保管しているなどとは思いもかけないことでした。───


 その後もタケとタケルが共に創り出す物語と器の組は村人たちを魅了し続け・・・

 わずかな趣味の者が寄り合うだけだった窯場は、今やもう二基の窯が増設され、小屋も多くの者が寝泊まりできるような大きなものに建て替えられていました。木工の作業場も造られています。タケルのおかげで陶芸や木工を修めようとする者が続々と現れ、老若男女、子たちまでが打ち揃い、窯場を盛り立てています。窯場、というより、もはや土と木の工房、という方がいいでしょう。みんなで互いに教え合い、手伝い合って気の向くままに楽しむ。誰か工房を仕切る者がいるわけでもなく、張本人のタケルもその中の一人に過ぎません。タケルは他の者たちより少しだけ多くのことを伝えられる、というだけです。事実、タケルも工房にだけ通うのではなく、気が向けば横笛を手に音曲の集まりに出ることもあります。すっかり舞台として定着してしまったタケの『語り』には、例の琵琶や打楽器やタケルも含めた笛などが定番で添えられるようになりました。それらがほとんど即興で行われることは変わりありません。同じ物語でも毎回違うものになっていくのです。それが余計にタケの作品を際立たせることにもなりました。

 音曲士たちの集まりもまた、あの舞台で見事な演奏を披露した者たちのもとに多くの者が集まるようになっていて、練習用の建物も新設されていました。

 それでも、今でもタケルの笛はタケだけのものであることは変わりません。というのも、あの二人だけでの遠出の時に、桜の木の下で奏でた調べだけは、他の誰にも聴かせていないタケだけの調べだからです。タケルは時折り、タケと二人の時に笛ではなく鼻歌でその調べを辿ったりします。それもまたタケにとっては愛おしい時間でした。

 そうして村人たちは様々な工房や練習場や集まりを縦横無尽に渡り歩き、自分が気に入ったものをその時々で極めていく・・・。一人が色々なものを手がけるので、村の文化は今も変わらずにまるで人口が二倍も三倍もいるかのように村全体を更新し続け、潤していきます。そして様々な新しい考えや発見がある度に文献にまとめられ、文庫の蔵書を更なるものにしていくのです。これが昔から変わらぬ村の生き方でした。

 確かに、タケルが実用の器を村人たちに提供し、それが大いにもてはやされ、そしてタケと一体となって夢の世界を繰り広げることが、その更新を加速していることは間違いがないようです。


 ある日、タケは子たちの書き散らした絵や文章を一つ一つ冊子にして渡してやるべく、整理したり製本したりしていました。子たちは自分たちの書いたものがある程度たまると書物の形にしてもらえることを楽しみにしていて、家で書いたものを持ってきたり、毎日文庫に通ってきたりします。これはタケの発案でした。子たちのために・・・。

 もちろん、一緒に作ってくれる若い者たちもいるのですが、夕刻になると、それぞれ帰っていきます。タケルもこの二、三日、窯に火を入れたとかで毎度ながら工房に泊まり込んでおり、家に戻っても一人です。

 タケはあと一息となった今回の作業を仕上げてしまおうと、二つの燈台に火をつけ、机の両側に置きました。開け放たれた敷居戸に向かうように机は置かれています。

 月明かりが煌々と差し込む頃、予定の冊子は仕上がりました。

 タケは座ったままぐーっと伸びをすると、よっこらしょと立ち上がり、前の廊下を渡って前庭に降りました。音もなく降り注ぐ天上の星々に、また伸びをするように両手を伸ばしました。両手の間に月の光があります。

 我が身を分けた子らでなくとも、この子たちは自分の、タケルの、村の衆それぞれの想いを未来へとつないでくれる。それぞれの個性で磨きをかけて。

 ・・・これぞ、宝と言わずして何と言おう!・・・

 

 ただ、月だけが天上からタケを見下ろしていました。

 何だか月が笑っているように思えました。


 

 ・・・タケの真っ白な夢にタケルノカミが語りかけてきました。

 

 ・・・おまえは人の子でないからのう、何とでもできるらしい・・・

             

                           


                     ・・・・竹の章  了・・・・


ここまで辿り着いてくださいました皆様、御礼申し上げます。

次章からいよいよ「竹取物語」に突入していきます。これまでのストーリーは「竹取物語」出現に向けた前振りでした。物語に沿うか沿わずか流れていく「現実」に翻弄される人々・・・そんな世と、その裏に潜む大きな「意識」(でも「神」のようなものではない)のせめぎ合いの世界が繰り広げられます。乞うご期待!!

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