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天国と地獄(1)

「ここは…」

辺りを見回すまでもなく、目の前にそびえる建物は閻魔庁舎であり、『地獄 閻魔庁舎』の看板が目に飛び込んできた。

「戻ってきたのか…」


死ぬ直前に着ていた安物の背広はあちこちがほつれ、穴が開き、血も滲んでいた。

内ポケットに手を入れる――硬く、それでいてしなやかな猫のヒゲが6本。地獄の責め苦――いや、猫への愛を試される試練をクリアした証が確かにそこにあった。


感慨に浸っていると、スーツを着た女性職員(鬼)が近寄り、俺に声をかけてきた。

「最終関門のクリア、ご苦労様でした。最終面接がありますのでこちらへどうぞ」


案内されたのは、地獄の沙汰を言い渡された、閻魔の部屋だった。

事務鬼がドアをノックし「最終関門を突破した者を連れてきました」と告げると、

「入ってもらえ」

と穏やかな声が部屋の中から聞こえた。

「失礼します」

不安げだった前回とは違い、今度は堂々と部屋に入る。閻魔の大きな肩の上に、お沙汰の時に居た猫、ベルちゃんがだらんと寛いでいた。

「…ん?お前は……」

閻魔は俺を覚えていたようで、俺の顔を見て僅かながら驚いた様子を見せた。

「その説はどうも。地獄巡り、満喫させてもらったぜ」

「そうか。本当にねこ好きだったようだな…」

「ようやく信じてくれたか」

俺が不満げに言うと、閻魔は済まなかったと笑い、これでお前は天国に登ることが出来る、と言ってきた。

「今まで触れ合ったねこちゃん達の中で、お前が好きだと思ったねこちゃんが来ている。その子が天国まで案内してくれる」


なぁん


脛をこする温もりに足元を見やると、毛の内側が白い黒虎、ブラックスモークタビーの猫ちゃんがそこに居た。

「君は黒縄地獄で一緒に遊んだ子だね?」

頭を撫でようとして俺が手のひらを下げると、その子は自分の方から飛びつくように立ち上がって頭を手のひらに擦り付けてきた。

「愛されておるようだな。あの時はありがとう、だそうだ」

「言葉分かるのかよ?」

「当然じゃろ?閻魔だぞ」

「マジか凄ぇな。……勿論この子も一緒に天国に行けるんだよな?」

「…それは出来ん」


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