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大焦熱地獄(2)

「な、なぁ…もう湯船から…でででで出たいんだが…」

しかし、そう声をかけたところで動いてくれるわけでもなく、猫ちゃんは暢気に浴槽の縁の水分をペロペロと舐めた後、浴槽の角にちょこんと腰を下ろし、俺の事をじ――――っと見つめてきた。

「こ、これは…『にゃるそっく』!」

人間を観察するように見つめ続ける猫――人はそれを某警備会社に譬え『にゃるそっく』と呼んでいる。これに見つめられたら最後、(猫が)飽きるまでそれは続けられるのだ。


その間にもお風呂のお湯が全身の傷を焼くように苛んでくる。


なあぁおん(ちゃんとはいるにゃ)

「あぁ、分かってるよ…くっ…いてててててててて」

しかものぼせてきたのだろうか。頭がボーッとしてきたんだが……


そして、湯船がほんのりと血で染まったような気がしてきた頃、ようやく三毛猫は浴槽の縁からトンッと床に降り、テクテクと浴室から出て行った。

「よし!出るぞ!」

俺は飛び上がるように浴室を飛び出した。バスマットの上でタオルで体を拭く。少しゴワゴワめのタオルが傷を苛んでくるが、それよりもあの苦痛から脱出できたことの安堵の方が強かった。


にゃー


猫の声に顔を上げると、洗面台の上に先ほどの三毛猫がちょこんと乗っていた。

「なんだ、そんなとこに居たのか。もうあがって良かったんだよ、な…?」


ぴょん


「あだだだだだだ!ちょっ!まっ!今防御力ゼロおぉぉぉ!それにお前大きいんだから少しは加減してくれぇぇ!爪がグイグイ刺さって痛ぇぇぇ!」

三毛猫は俺の肩に飛び乗ってきた。しかも体制を崩したのか爪を立てて肩に居座ろうとしてきた。だが大声を出すでもなく小声で抗議してしまう辺り、猫への対応に慣れてきた(よくできた下僕)という事なのだろう。


三毛猫は俺の頬にスリスリした後、また爪で踏ん張って肩からぴょんと跳ね降りると、テクテクとどこかへ歩み去ってしまった。

三毛猫の乗った肩に触れると血が滲んでいた。

「やっぱり地獄なんだな…でも天国なんだよなぁ…」

つぶやきながらパンツを履こうと身をかがめると、肩の上から何かがポトリと床に落ちた。

「あ、猫のヒゲだ。ってことは…クリアって事でいいのか…?」

パンツを膝で留めたまま拾い上げる。

「ん?ってぇ事は……」


ぴんぽーん 焦熱地獄、クリアー


「ちょまっ……!まだ着替えてな――」


ばこん


「こうなると思ってたさあぁぁぁぁ――!」

こっちの都合などお構いなしな落とし穴に、俺はパンツもロクに履かない恥ずかしい格好のままで落ちていった。


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