大焦熱地獄(1)
気が付いたのはとても狭い空間だった。目の前には2つ折りの、かすみガラスが入ったアルミフレームの押し扉。横には空の籠とバスタオル。
これはもしや――風呂か。
風呂に入れるという事か!
いや――ここで急いてはいけない。風呂桶に飛び込んだら氷水だった、とか…地獄だという事を考えれば硫酸で満たされている、という可能性も否定できない。
そろりそろりと風呂場のドアを開ける。
風呂桶にフタはされておらず、なみなみとお湯が張られている。ご丁寧に入浴剤も入っているようで、ラベンダーの香りがした。
俺は一目散に服を脱ぎ捨てると浴槽へと飛び込んだ。
――だが、俺はとんでもないことを失念していた。
俺の身体はありとあらゆるところに、猫ちゃん達の爪による傷がまんべんなく付いており、塞がってもいない状態だという事。それを思い出した時には、俺の身体は宙に浮いており、着水までコンマ何秒という状況だった。
だっぱ――――ん
「いでえぇぇあぁぁぁぁ――!!!」
湯が!湯が傷口に!沁みるうっぅぅぅ――!!!
釣り上げられた魚のようにビチビチと浴槽の中で暴れ転がっていると、風呂桶の縁に何かがやってきた。
猫だ。
なぁおぉ――――
顔が丸く、顔の横の皮がタプンとした、愛嬌たっぷりスクリューテイルの三毛猫が俺を見つめていた。
なおぉー
暴れては猫ちゃんに水しぶきがかかってしまう!
俺は必死に痛みを堪え、努めて冷静に、その猫ちゃんへと声をかけた。
「ど、どうしたんだ?」
なおー
「まさか…ちゃんと入れって言ってるのか?」
なぁお (ちゃんとキレイになるまでチャプチャプするにゃ)
「ぐっ…!頭が勝手に日本語字幕を…っ!」
勿論、猫ちゃんの言葉が分かる筈は無い。もしかしたら『何故お前は水に入っているんだ?』と注意を呼び掛けているのかもしれない。
だが、どう考えたところで、ここで体を動かせば猫ちゃんの足が濡れてしまう。そんな事をしたら、猫に嫌われてしまう。結局のところ、猫が飽きるまで我慢するしかない、という事か。




