衆合地獄(3)
そしてどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
こねこ達はごはんを食べ終え、懸命にお口をニチャニチャとさせながら顔を洗ったり、思い思いの場所でこねこ団子を形成し、眠りに就き始めていた。
「…何とか乗り切ったな…」
床に大の字になって寝転がり、体のあちこちに血を滲ませながら男が言った。
「あぁ…アンタのアドバイスが無ければ生き残れなかったかもしれねぇ」
そういう俺も、腹の上で眠るこねこが落ちないよう手を添えながら、床に倒れ込んでいた。俺の手足はもちろん全身は、まるでヤバい病気ですとでも言わん限りに赤いポチポチが出来ていた。わずかに動くだけで皮膚表面に痛みが走る。
「初めに聞いてきたよな。『アンタ妙に詳しいな』って」
「あぁ」
「…この地獄のクリアー条件は『2人でミッションを完了する事』なんだ。そうすると最初に居た1人が次の試練へと送られる。もう一人は残って次の罪人を指導するシステムなんだ」
「そうだったのか…」
「だが俺ぁ…これに5回耐えられなかった…」
「5回も…」
「それでもその人は何も…文句ひとつ言わなかった。そして6回目、ようやく耐え切った時、その時の相棒は笑ってこう言ってくれたんだ」
「…何て言ったんだ?」
「6回も余計にこねこ達にご飯をあげられた。こんなに嬉しい事はない。お前のお陰だよって…怒りもせず笑ってくれたんだ」
「そうか…本当に猫が好きな男だったんだな…」
「俺の時間はここまでだ。次はお前が新入りに教える番だ。」
男の前に何かがポトリと落ちてきた。男はそれを拾い上げ、ニコリと笑って懐へしまい込んだ。
「どうした?」
「あぁ、これは『ねこのヒゲ』さ。地獄をクリアした証になるらしい』
「そうか。ただのラッキーアイテムじゃなかったのか」
「…拾ってきてるよな?」
「勿論だ。桐の箱に保管しておきたい位だぜ」
男が立ち上がる。
「じゃあな。短い間だったが、幸せな時間だったぜ――相棒」
数歩後ずさって俺との距離を開ける。
「またどこかの地獄で会おう」
「あぁ。地獄で会おう――相棒」
床がカパっと開き、男は笑顔のままどこかへと落ちていった。名前は聞かなかった。いや、名前など不要だ。彼はこの困難を共に乗り切った、相棒なのだから。
ブン――という音と共に周囲に居たこねこ達の顔ぶれが変わった。いや――これは俺の方が移動したという事なのだろう。すでにお腹を空かせているようで、俺を見ると登ってくる人懐っこいこねこ達もいる。
ドサリという音に振り返ると、そこには新しい罪人が尻餅をついていた。
次は俺の番という事か。
「これは…今度もやっぱり地獄なのか?」
男は怯える表情を浮かべながら辺りを見回している。
「あぁ。地獄にようこそだ。相棒」
俺は何匹もの子猫達に頭や肩の上を占拠されながら応えた。




