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アポカリプス Apocalypse   作者: 秦 元親
【第二章】The Time They Are A-Changin
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【二章第十九話】 君の為なら捨て奸る

 あの一件から一週間とちょっと、俺たち学生の配属部隊が発表された。


 俺の学校の生徒は殆どが中段より後方への配属となっていた。


 底辺改め、血気盛んで出世欲に富んだ若者が多い学校の生徒の殆どは前線部隊に配属されるようだ。


 相変わらずうちのクラスは変わりない。あと数週間でクラスの半分ほどが死地に出向くというのに内のクラスの半分を占めている貴族様達は我知らずと今まで通りの生活を送っていた。


 御貴族様たちが戦場に行かなくて済んでいるのもお金持ちの親が軍に一定額の御布施を渡すことによって部隊の一員に駆り出されるのを未然に防いでいるからなのだが。

 勿論俺たち特別入学組にはそんなことはさせて貰えないが、いくらコネを作った貴族が御布施の肩代わりをしたところで。



 軍の高官の子息などを含めてざっと十数人の生徒は初めから戦場に出ることが決まっていた。


 逆に貴族特権での入学組は皆学校に留まると思われていた。

 だがテストが終わった次の日には貴族特権で入学した莉乃が戦場に出る事を表明したためにクラスと言わず学校中を巻き込んだ一大ニュースとなった。


 前日はお祭り騒ぎの様に俺を褒め称えていたもの共も皆もっと興味深い事案を見つけたようで俺に絡んでくる人間なんてものは殆どいなかった。しかしあの頭のおかしい連中だけは値踏みをするように俺の一挙一動に眼を光らせているような感じだった。


 その表明をした直後教員もクラスの一員も大人も皆莉乃のその表明を取り下げるよう説得しまわっていた。


 しかし自分が土岐家の当主の養子だと説明して土岐家の徽章を見せた瞬間に大人たちは諦めて帰っていったというのを莉乃から聞いた。


 この話をしていた莉乃は終始自嘲気だったのが今でも頭の中に焼き付いている。


 莉乃の騒動あってか、俺達A組の生徒はバラバラに分割される事無く精鋭を揃えての偵察班としての中段から後方に配属されることとなった。


 莉乃を守るためであろう、班の編成は先のテストの模擬戦の一位から五位までが取り揃えられていた。



 土岐家の養子が死んでしまったら政治的問題は避けられないからな……。

 しかし、何故か俺達の部隊は後方寄りの中段、言いようによっては後方の初段に配置されていた。


 別段それに突っ込みを入れるモノもいなく、莉乃も納得したような様子だ。

 配属場所が決まってから俺たちは毎日毎日顔合わせや打ち合わせ、作戦の確認や役割の確認などを行った。


 毎日毎日これから配下となる瀬戸家が用意した班長との打ち合わせに明け暮れた。


 今回の戦は四大派閥が揃い踏みで出陣して互いに連帯を取りあって一宮を奪還しようとする戦。


 偵察班の指揮は村木家と瀬戸家になっている為、偵察兵の大部分を賄っている瀬戸家所属として俺たちは戦場に投入されることなった。


 ただし、あの復讐者共は動員兵力の殆どを偵察や工作、看護などの花形でない所に回している瀬戸家に配属された事を心底嫌い、殆どの動員兵が前線であり四大派閥から動員される前線部隊の半分を占めている村木家への移動を熱望していた。

 勿論それは却下された。

 しかし俺はそんなことは露知らず班長の萩原四朗少尉との顔合わせや大体の流れの打ち合わせなど全てを終えた。



 そして兵たちには現世への整理をつける三日間が与えられた。

 恋人と愛を育んだり、遺書を残したり、趣味に没頭したり、賭け事でお金を儲けに行ったり、お世話になった人にお礼などをする三日間だと班長に言われたが。

「ってもなぁ。あと三日何しよっか」


 莉乃に昇進祝いで新調して貰った、土埃にも汚れていないまだ体にすら馴染んでいない軍服を着た俺はとぼとぼと路地を歩いていた。



 恋人、いる訳が無い。


 遺書、白紙のを提出しておいた。


 趣味に没頭、何時もしてる。


 賭け事でお金を……。没落したが御貴族様と言う便利な財布がいるので大丈夫。


 お世話になった人、いない。


 はぁー、三日間何しよっかなぁ。



 法師は帰り際にあの四位の槍の人と五位の人に呼び出し喰らってたし、莉乃は行く所があるらしいのでただいま俺は絶賛一人だ。

 なんだかんだでこの一年間一人で帰る機会は少なかったのかもしれない。


 俺はと言うとまぁ時間も全然あるしこの制服を着慣れる為にも末森城に向かっていた。


 剣を振るっている時が一番楽になれる。余計な事を全く考えなくていいからだ。そして剣を振う度に昔の自分とは変わったということが明確に伝わってくるのがいい。



 あんな弱っちい人間なんかには二度と戻りたくはない。


 二度とッ……。




「外したか」


 咄嗟に俺は体を後ろに引いていた。


 どこかで見た事のあるような同い年位の女子が突如木剣で奇襲をかけて来たのだ。


 誰だよこいつ、しかし今の俺は丸腰だ。武器ならあるがこいつらに使うもんじゃない。


 どうする? 武器を奪うか。


 彼女はそんな隙を見逃すことなく追い打ちを掛けてくる。

 彼女による大段上からの斬りかかり。



 此奴は俺に当てる気なんかで来ていない。確証はない、だが俺の勘がそう言っている。戦場と言う場を踏んできた俺の直感がそう言っているのだ。


 俺が躱すこと前提で……。


 全身が違和感を訴え掛けてくる。


 剣戟を躱し……。


 そこで初めて違和感の正体に気が付いた。


 いけるか? ああ、まだ遅くはない。

 死角からの研ぎ澄まされた一撃。

 耳に全てを委ねた予想の上での回避。後方に自らの足を数歩下げていた。


 剣先が俺の腹の前に突き立った。

 こっからはこっちの反撃だ。


 突きを外した木剣の峰を締めあげ剣を伝い見えぬ敵へと回し蹴りを放つ。


 回し蹴りの勢いで剣は巻き上がり見えぬ敵から離れこちらの手元に収まった、ただこの衝撃回し蹴りはガードされただろうな。


 来る。


 ガッキン。


 弾かれた衝撃を力に変えて逆向きでの回転をし、刃を握りながら彼女の一撃を柄で防いだ。


「ぐっ」

 握った刃をそのまま自分の脇に差し込み後方から攻撃してきた低い声の恐らく男であろう人物の肉に木製の穂先を突き立てる。


「なぁ、まだやる気か? それほど納得がいかないっていうならお前らが認めるまで戦ってやるよ。その代わり身の安全が保障されると思うなよ」

 持っているところを中心に刀を回し刃が下を向いたところで手から剣を離した。


 木刀は重力に引っ張られるままに地に落下して持ち手の所が手の中に入ったところで柄を握り締めた。


 一人は武器なし、一人は武器持ちそしてやっと俺は真面な体勢を取ることが出来ている、これでやっとフェアなのだ。


 さぁ来い、掛かって来い。

 相手になるぜ復讐者。俺の勝ちを認めないっていいうのなら勝ち負けの差をハッキリさせてやろうではないか。

 俺の心の準備が完全に整ったころ彼女は構えを緩め剣を引いた。


「ええ、黄平貴方の言う事は強ち間違ってはいなかった様ね」

「ああ、そうさ。そこの貴族狩りの強さは戦った者にしか分からないだろうな、それで文句はないな瑞穂みずほ千種ちくさ


 少女の後ろから一人の男が現れた。その後ろには同じクラスの復讐者達が群れを成していた。

 4位の槍の人だ、えーえっと名前は……。


「そうだな」

 もう一人の方の男の襲撃者が口を開いた。

 やはりそうか。思っていた通り、俺たちはお前の勝利なんて認めないぞ、っていう復讐者共が徒党を組んでけしかけて来た襲撃か。


「これで分かっただろ。もう用が済んだなら俺は行くぞ、いいか?」

 木刀を地面に落した。

 彼らの事なんてそっちのけで歩みを前に進めようとする。


「待て草薙」

 4位の槍の人が俺を止めた。


「俺はお前と話がしたい」

「俺はお前となんて話したくないの。ハイ話終わり」

 なんか面倒事に巻き込まれそうな感じなんで一刻でも早くこの場を去りたい気分だった。


「手短に終わらすから頼む」

「俺はお前らの話なんて興味ないの」

 男を冷たくあしらっておく。


「調子に乗るなよ貴族狩り」

 男の後ろに位置している数人の集団から罵声が飛ばされた。


「止めろ」

 槍の人がそれを止めた。


「興味が無いのは昔から分かっていた。眼中にないんだろ同じクラスだったのに俺たちの事なんて」


「いやそこまでは……」


「なら俺の名前を言ってみろ。共に戦ったくらいなんだし勿論分るよな?」

 男は俺を試すようにそして尚且つ諦めるように呟いてた。


 勿論俺はこの男の名を言い当てることが出来ないので口を開くことが出来なかった。

 男の眼は一層諦めに変わり、それ以外の人間は無知を攻める様な眼で俺を睨みつけていた。


守山黄平もりやまこうへいだ以後お見知りおきを。貴族狩りのそして学校最強の草薙大和准尉」


「皮肉はいい、聞いてもらいたいなら本題を切り出せ。気が変わらないうちにな」

 男は自分の腕を腹に当ててぺこりと礼儀正しそうに腰を折った。


「感謝の極み、それでは先程のいきなりの強襲への非礼を最初に詫びさせていただきます」

 男の後ろに最初に斬りかかって来た女とよく見たら見覚えのある多分のあのテストの5位であろう男が槍の人こと守山黄平の後ろに下がった。


「私達は此度の戦いの配属場所に不満があります。私達は偵察兵など、私たちは通信兵など、私たちは貴族の御守りなどしたくはない」


 男は怒りを露わに明らかに目に復讐の火を浮かべながら語り始めた。


「私達は武勇に秀でた学生の筈、それなのに軍の配置場所はなんとも虚しく私たちの能力を生かし切れない後方ばかり、何故軍は私達を前線に送り出してくれないんでしょうか」


「それならば何故あのテストで本気など出したんだ? 初戦で散れば中段送りだったのにな。ああ残念残念」

「階級が欲しかったからだ。私達は早く身を立てて部隊を持ちたいのだ、鬼を倒すために、思い通りの戦をするために」

 まぁその点は俺も同じだ。俺も早く部隊が持ちたい、人を指揮できる階級が欲しい。


「そうか、諦めろ。あそこで勝っちまったもんの宿命だ。俺たちは軍に期待されてるんだ。初戦で戦死してはい御終いって訳にはいかないんだ」


「俺たちは諦めん」

 男は力強く言い放った。

 闘志と何があっても諦めぬ心と屈しない心、そして己が道に突き進んでいく覚悟。歴戦の猛者がやっと手に入れれるそれらの物を眼の前の人間達は持っていた。


「学校長にも取りあったし、話せる限りの軍の高官たちとも話してきた。あと一押しだ。あと一押しで俺たちは前線に行ける」


 前線に出たい出たいってやっぱこいつ等狂ってるな。俺には持っていないモノをこいつ等は持っている。

 さぞかし羨ましかった。彼らを羨ましいと思った。

 彼らは俺なんかよりも何百倍も綺麗な理由で仇討ちをしようとしているのだ。


「お前も俺達と同類の筈だ。お前もそこに行くのを渇望している筈だ。だから今から村木大将の所に陳情に行く。草薙お前も来てくれ」

 男は誰も否定できないような真の友情をもってして俺に語り掛けた。

 そんなものはいらない。

「行かない」

 そう俺は一言言い放った。


「この臆病モノめが」

 後ろの5位の人が俺に罵声を浴びせた。

「ハァン? 躾けの成っていない飼い犬だ。なぁ曹長、お前は階級と言う名の首輪はもう付けられてるんだよ。お前はもう軍のイヌだ、飼い犬は主人が吠えろと言った時だけ吠えてりゃいいんだよ」 

 男は拳に力を込めて前に出てこようとした。

「待て待て止めろ」

 手を付だし進路を阻み准尉が曹長の蛮行を止めた。


「お~やれば出来るじゃねぇか、ちゃんとマテで待っているし、今みたいに今回の戦も待てよ」


「今の事はすまんかったからもう煽るようなことは止めてくれ草薙。俺たちは話し合うために来てるんだ」

 んなこと言っても最初から襲ってきたりとこちら側からすれば十二分に話す気無しと捉えられるんだが。


「それで……。どうして行きたくないんだ」

 男はこれ以上話を悪い方に拗らせないようにと丁寧な口調で話し掛けて来た。


「俺はもう軍の一員だ。上の決定に従うのみだ」

「上が間違っていると思ったら意見するのが従う者の役目だ」

「別に間違っていないじゃん、お前達のそんな自己中心的な考えに付き合ってられるほど大将様は暇じゃないと思うぞ」


「その件については大丈夫だ。とある貴族の力を使って面会の時間を割いて貰った」

 はぁそれはそれは将来有望な彼に入れ込んでいる家もあるようで。

 それに比べてウチのはもう没落しているお貴族様だからなぁ。協力者も正直どの程度いるか分からないし、大将との面会の時間を作って貰うなんてものはほぼ無理だろうな。


「ふーん、そうか。じゃぁ上手く事を進められると良いな」


「もう一度問おう、行かないんだな」

 男は真剣な顔つきで此方を見た。

「ああ、俺は行かない」


 男は諦めたような、そして軽蔑するような眼に切り替わった。


「この臆病モノが、お前はあのクラスの恥だ。我々特別採用枠の恥だ」

 男は冷めたような目で俺を眺めた。


「それで? 臆病者でも助けられた恩を返すために……。 国家の危機が訪れたら自ずから志願してやるよ。そして空母でも戦艦でも鬼の大軍の中心にでも飛行機に乗って突っ込んでやるよ。どっかの小説のようにな」

 男達は俺の事を無かったようなものとして扱い撤収し始めていた。

 なんだよ、吹っかけて来たのはお前らの癖にこんな雑な返し方をしやがって。


「守山……」

 去り際の彼の背中に俺は一言声を掛けた。


「実力が有っても動けん臆病者と話す話などないわ」

 彼に変わって彼の周りの人間がそう答えた。


「分からんか? 今回の戦い何か違和感を感じないか。俺達には経験を積ませるとか言って後方に配置しているが前線は新兵ばかりじゃないか」

 あの集団の中でただ一人准尉の階級を持つ男だけが此方を振り返った。


「新兵は経験すら積んでいないのだぞ。それなのに経験値の高い兵士を後方に配属させて……。まるで敗戦の色が見えだしたら前衛を捨てて逃げる為に作られているような配置ではないか」 

 手を突き出し一気に拳を固めた。


「この戦一度絶対に負けに傾く。そして軍は退こうとするだろう。チャンスはその時だ、面白いのは、功取りが出来るのはそこだ。軍が引く寸前を見極め、人々が諦め絶望し繋がれた首輪を取ろうとしたその瞬間に毛ほどでいいから希望を垂らせ」


 男以外は聞く気が無いと判断して足を留める事無く前に進んでいる。


「確実に人々は一斉にその希望に縋りつくぞ。死ぬ気で、死地を踏み越えてでも。なぁ准尉前線に行くのは止めろ、中段に来い。俺についてこい」

 准尉の眼をしっかりと見据えて語り掛けた。時より笑みが零れていたかもしれないがまあいいや。


「お前はお前の信じる道を進めばいい。俺らは俺たちの信じた道を行くだけだ」

 男は俺に背を向けて小走りに仲間の元に向かって行った。

「そうか残念だ。きっと面白いものが見られるのにな」

 彼らに背を向けて俺は歩き出した。


 彼らと自分の距離が一歩歩みを進める度に二歩分遠ざかっていった。


 今回の戦、後方で確実に何かが起こるだろう。それに色々と触れられていないが市長が出陣するっていうのも可笑しいはずだ。


 後方に集中している兵力、連戦連勝、戦上手で有名な瀬戸家の兵の殆どが今回の戦に動員されていない件、前方から中段に固められた村木家所属の新兵たち、後方に固められた土岐家の兵士。


 今回の戦絶対に何かが起こる。


「此処に居たのね草薙君」

 末森城まで目と鼻の先の距離……。後方から知った声がしたので思わず振り向いた。


 今日はやけに人に会う日だ。 


「何か用か美浜」

 何気なくいつもの様に銀雪に話しかけた。

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