★孤独を救う月★
――お願い・・・・近づかないで・・・!
自分が壊れてしまう前に、皆を傷つけないために。
みどりは必死に走り、誰もいないのを確認すると、クリスタルを出現させた。
優しく、おだやかに、包み込んでくれそうな綺麗な緑色。
その色に目を奪われて、少しの間見とれていた。
(私、いつもこうしてるなぁ。)
すぐに消えてしまうというのに、みどりはいつもクリスタルの輝きに微笑みの表情をみせている。ただし、今日はその表情が重く、固い。
「ごめん。ルナ。私、ルナの力になりたいの。ルナを傷つけることはしたくない。たとえ私の姿が消えてしまっても、ずっとルナの友達だから。」
目の前の消えかけのクリスタルに力を入れる。するとクリスタルの光は次第に強くなり、同時に、みどりの体も光に包まれていく。
「みどり、みどり・・・!」
デビルがとりついたルナに、どんな酷いことを言っても、みどりは必死にルナたちを助けようとしていた。強い力がありながら、何も抵抗をせず、ただただみんなに呼び掛けていた。
「みんな、目を覚ましてっ!」
悪魔法の隠れ魔力を持ちながら、魔王に近き存在。
みどりはそんな自分を嫌いだったのかもしれない。何度も傷つけられて、だからこそ誰も傷つけたくない。そんなみどりの心情は、誰も気づくことができなかった。
だが、ルナたちの気持ちは全員同じだった。
たとえ、そうなってしまっても――。
「・・・!
みて!あそこっ!」
真っ暗な世界の中、みみが指さした先は緑色に強く輝いていた。
「きっとあそこにいるはずよ。急ぎましょう。ルナ。」
(みどり・・・!お願い・・間に合って!)
ルナは全速力で走り出していく。自分でも驚くほど速く。
「あなたは運動音痴かと思っていたけれど、魔力の力かしら?」
デビルは時々ふいに見せるルナの能力に驚きを隠せないようだ。
「ちがうよデビルっ!きっと、思いの力だよ!」
思いの力・・・?
デビルもルナも、みみの言葉に疑問を抱く。
だが、その力が本当なら、みどりを助けられるかもしれない。なんとなく、ルナはそんな気がしていた。本当に、なんとなく。
みどりはグリーンクリスタルの世界へ引き込まれていく。
クリスタルの光は、徐々に強さを増していく。強い光に包まれて、みどりは視界がほぼ見えなくなっていた。意識が別のどこかへ飛んでいく感覚があった。
「うう、ここ・・・どこ?・・・お母さん、お父さん・・・!」
これは、小さいころの記憶・・?
よく覚えていないけど、幼稚園の時の記憶だったかな。
人が行き交う街の中で、みどりは泣いていた。親とはぐれてしまい、行き場がなく路地裏にうずくまって泣いている、自分の姿がうつる。
この頃から自分は、一人が怖かった。周りにどんなに人がいても、その誰もが自分のことを知らなくて、誰もが自分とは違う。
そんな考えが、小さいころからずっと頭の中に付きまとっていた。
自分のすべてを知るのは、家族だけだ。両親以外の人間は、自分を知らない。自分のいつ爆発してもおかしくない力を知らない。
ずっと孤独だ。私はこうやって孤独を背負っていかなければならないんだ。一生。
そこまで考えていたかはわからないが、みどりはそんなことを、日々過ごしていく中で考えていた。孤独感に押しつぶされていた。
そんな時だった。
「だいじょうぶ?」
声が聞こえた。幼くて、少しか細い。でも、みどりにははっきりと聞こえた。
ざわざわとした街。人ごみの中で、はっきりと聞こえたその声。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
そこには、綺麗な金髪をした、自分と同じくらいの女の子だった。純粋な瞳は、光に見守られているような、月のような輝きを放っていた。
そう、悪魔王の使いである自分とは真逆だった。
「まいご?」
少女はみどりに向かって手を伸ばす。
こんな小さな子になにができるのだろうか?何もできないのではなかろうか。
そんなことを思いながら、それでも、自分も手を伸ばしていた。
こんな大きな光なら、私を救ってくれるかもしれない。
孤独な私を救ってくれるかもしれない。
そんな希望が、闇で沈んでいた気持ちをかき消していった。
「なまえは?えっと・・・わたしはルナ。」
ルナ。
月を連想させるその名前は、まさに彼女にぴったりの名前だ。
「み、みどり。」
ルナの手を強く握りながら、ふり絞るように言った。
「すぐそこ、こうばん、あったと思うんだ。」
そう言ったルナは手を握ったまま路地裏を出た。
なんてしっかりとした子なのだろうか。友達もきっと多いに違いない。
自分とは違う世界の人間だ。
――でも。
繋いだ手が、孤独だと思っていたみどりの心を溶かしてくれる。
ああ、孤独じゃない。私は今、孤独じゃないんだ。
初めての気持ちだった。この子は自分のことを何も知らない。自分の通う幼稚園の子の方が、自分のことをある程度知っている。
なのに、いつも感じている孤独を感じなかった。
初めて、自分は誰かと一緒にいる感覚になった。
「どうして、どうしてルナちゃんは、私を助けてくれたの・・?」
この子なら、自分を変えてくれるかもしれない。
「みどりちゃん、泣いてた。だから、みどりちゃんのえがおが見たかった。それだけだよ。」
この子なら、自分を闇の底から救ってくれるかもしれない。
「えがおを見て、どうするの・・・?」
この子なら、友達になれるかもしれない。
「だって、みんながえがおになると、せかいがへいわになると思わない?」
この子なら、孤独だった自分の世界を変えてくれるかもしれない。
――ルナなら、助けを求めてもいいのかもしれない。
(なんで、今まで忘れてたんだろう。私。)
いつの間にか、また孤独になっていた。
ルナが悪魔に取りつかれて、自分から離れていって。
一番の親友で、私にとっての月は、遠くへ行ってしまった。
それが約1年も続き、いつの間にかあの時の気持ちを忘れていた。あの時の記憶もどこかへ消えてしまった。
でも、クリスタルは覚えていたんだ。クリスタルの中には、私のあの時の思いは消えていなかった。
「みどり!」
声が聞こえる。
あの時の自分を救ってくれたルナの、まっすぐな声が聞こえる。
クリスタルに包まれていた視界が元の現実に戻る。
そこには、ルナに、ゆかに、さえに、みみに、ささに、ななに、そしてホワイトクリスタルで身を包んだデビルが、緑の前にいた。
「みどり、私はみどりがどんな風になっても、必ず――」
みどりは大きく息を吸う。
あの時思ったことが間違いでなかったのなら。
あの時の気持ちが本当だったのなら。
今、ルナが言おうとしていることが自分が一番言ってほしいことなら。
自分を、ルナを、ルナの友達を、信じていいのだろう。
「――助けてーっ!!」
自分は、一人ではないのだから。
助けを求めてもいいのだ。
力いっぱいの大きな声で、みどりは助けを求める。
いつの間にか、涙があふれていた。心からの、叫びを、初めて口にしたようだった。
そして、みどりの、その声を聞いたルナは、微笑んでこういったのだ。
「必ず助けるよ。」




