★死を望む孤独★
みどりは、その重たい表情のまま、話を続けた。
「私は、この隠れ魔力がなければ・・・。」
みどりは今にも消えそうなグリーンクリスタルを、強く握りながら、さらに話す。
「私は、自分でもコントロールができない強い魔力を持っているの。小さい頃、魔力封じの魔術を、左腕にかけられて・・。」
すると、みどりは服の袖をゆっくりとめくり、紋様をルナたちに見せた。
その紋様はみどりの左腕を巻き付けている。まるで、ツタのように、蛇のように固く、締め付けているように。
しかし、それは今にも消えてしまいそうで、光っては消え、光っては消えを繰り返している。
「これは、私の魔力を封じている紋様。でも、それももう、長くない…。もし、この紋様が消えてしまったら・・・。」
みどりは、話すのをやめた。
言えないのだろう。
言うのが怖いのだろう。
その代わりに、デビルが声を出した。
「・・・人を殺すかもしれない。よね?」
みどりはコクンと頷いた。自分が言おうとしていたことをデビルが続けたことに驚きもせず、ただ、静かに頷いた。
グリーンクリスタルが消え、みどりのなかに戻ったとき、静けさの中、デビルは話を再開した。
「なるほど。あなただったのね。以前から魔王の使いの話は聞いていたわ。魔王の力を授かった人間が必ずどこかにいる。そう悪魔王が言っていた。その力は人間を殺すことも、魔獣を生み出すことも、町を壊すこともできる。つまり、闇の力なのよ。魔王の使いは、魔王の子と言ってもいいほど、強い闇の力を秘めているらしいわ。」
「魔王の使い・・・。」
ルナはみどりの苦しみを、なんとなく理解した。
ずっと、隠していたのだ。
みどりが授業や緊急時以外で魔法を使っているのを見たことがない。
ずっと、ずっとその力を恐れていた。
ルナたちは悪魔たちが見当たらない小さな公園に向かうと、そこで話を続けた。
今まで黙っていたみどりは、顔をあげ、口を開く。
「魔力を封じているとはいえ、少しでも基本魔法以上の力をだしたら、コントロールできなくなるほどの魔力が溢れ出すかもしれない。お母さんにも、医者にも言われて…。」
「あれ?じゃあ、みどりは元々呪文魔力者だったの?」
ゆかは、ルナの言っていたことを思い出した。
「そうよね。たしか、ルナは努力でてに入れたのが呪文魔力だと言ってたかしら?」
さえも、不思議そうに言う。
もちろん、ルナもそのことについて気になっていたのだ。
みどりは慌てた様子で首を横に振りながら話す。
「これは違うの!・・・これは呪文魔力なんかじゃない、立派な悪魔力だから。呪文魔力は、その後手に入れたの。悪魔力の中のわずかな光を取り出して、基本魔力くらいなら、操れるようになった。でも、それ以上の力を出すと、きっと・・・危ない。」
わずかな光。
どんな力にも、光はあるのだろうか。
なら、どんな光にも、闇はあるのだろうか。
ふと、そんな疑問がルナの頭をよぎった。
「みどりさん。」
デビルはいつになく厳しい声色で、みどりの名前を呼ぶ。
「あなたは、仮のクリスタルを取り出して、何をしようとしていたの?私が考えていることで合っているのかしら?」
「・・・うん。」
みどりはうつむきがちに、小さな声で返事をする。
「デビルが自分の魂をクリスタルという形にして強い力を封じ込めたとき、私は思ったの。私もデビルのように、魂をクリスタルに封じ込めることができれば、封印が解けた時、皆に迷惑をかけずに、悪魔王倒しに必要なクリスタルだけを残すことができると思って。そうすれば、クリスタルも具現化するはずだから。」
みどりはあの時、皆に何も言わずに、自分の魂をクリスタルに封じ込めるつもりだったのだ。
「それは死を選ぶことと同じということよ。私と違って体を持っているあなたが、ルナたちに悪魔王と戦わせて、自分は安全なところに逃げる。そういうつもり?」
「ちがっ!」
厳しいデビルの言葉に、みどりはぶんぶんと首を振る。
「ただ、力が暴走してみんなを傷つけたくない。大好きな世界を、自分の手で壊したくないの・・・!皆を・・・。っわかってよ!」
みどりは目の前のルナを突き飛ばして一人で走り去ってしまった。
あんな荒れたみどり、見たことがない。
ずっとデビルと共にみどりを見てきた。デビルと会う前から親友だった。
そんなみどりのあんな顔を、ルナは初めてみたのだ。
ずっと抱え込んでいたのだろうか。
ずっとその気持ちをしまい込んで、一人で考えていたのだろうか。
さよならも言わずに死を選ぶほど、悩んでいたのだろうか。
「気付いてあげられなかった・・・。私がもっと早く気付くことができれば・・・。」
少しはみどりの気持ちを変えられたのかもしれない。
みどりは、死を望んでいる。
みどりには違和感を感じていた。謎があった。その違和感や謎は、きっとこのことだったのだ。
(早くとめないと・・!)
ルナはみどりが走った方向へ追いかけようと、かけだした。
「あ!ルナ・・・!待って!」
さえが大声を出したが必死なルナには届かなかった。
「追いかけよう!ルナは責任みたいなもの、感じてるみたいだし・・・。」
ゆかはそう言うと真っ先にルナのあとを追いかけていった。
めずらしく、デビルはルナが追いかける間、何も話さなかった。
ルナには気にする余裕もなかったが、デビルはきっと、みどりとルナで解決してほしいと考えているのだろう。
みどりはきっと、ルナの言葉なら聞いてくれる。
耳を傾けてくれる。
それは、ずっとルナとともにみどりを見てきた、デビルだからこその答えだった。みどりはルナが悪魔に操られている間も、ずっとルナに語りかけていたのだ。それで何度かデビルはルナの中から追い出されそうになったこともあるくらいに。ルナにとりついたのがデビルでなかったら、ルナはみどりによって救われただろう。
「みどり・・どこに・・・。」
たしかに緑の髪はこの方向へ向かったのに、ルナは見失ってしまった。
足が人より遅くて、体力もないルナは、その場で立ち尽くしてしまった。
この道には分かれ道がいくつもある。周りは悪魔だらけだ。いくらデビルがいるとはいえ、ゆかたちともはぐれてしまったら、後に引けなくなる。
「みどりさんなら大丈夫なはずよ。隠れ魔力の力は強大と言われているわ。少なくとも悪魔にとりつかれることはないから安心しなさい。」
わかっている。
そんなことは当然ルナにはわかっていた。だけど、一人でいることがどんなに苦しいことなのか、一番知っているのはみどりのはずだ。
スタスタスタスタ・・・!
後ろからの足音で、ルナは後ろを振り向いた。
みると、ゆかの後ろにさえ、そのあとをみみ、なな、ささが追いかけていた。
「ルナー!・・・大丈夫!?」
ゆかはかけつけてすぐ、ルナのもとに忍び寄っていた悪魔たちを魔法で眠らせた。さえが辺りを見回すがみどりの姿はない。
「みどりちゃんは・・・?」
「それが・・・見失ってしまって。」
目の前には分かれ道が三つ。前に進むか右か左か。
「手分けするしかないわ。ゆかさんとみみさん、さえさんと・・・」
「ちょーとまった!!」
デビルが二人ずつのペアを指名していると、横からゆかの大きな声が聞こえた。
悪魔を驚かすほどの大きな声だったのか、遠くの悪魔たちがこちらに向かう足音が聞こえる。
「一応年下だし、友達なんだし、私もさん付けよりは呼び捨てで呼んでほしいなーて思って・・・。」
悪魔たちの足音が大きくなるにつれ、ゆかの声は小さくなっていく・・。
「そうよ。友達なんだから。」
さえの微笑みはデビルに見えたのだろうか。デビルはぼそっと呟く。
「友達・・・。そうね。そうよね。」
デビルは少しの間を空けてから、再び話し始めた。
「ゆかとみみは右の道、さえとささは左、私とルナとみみは真ん中を通る。これでいいわね?」
かなり強引に決められたが、悪魔が近づいている以上、これ以上ここで立ち止まっているわけにはいかない。そう考えた一同は、それぞれの道を進んだのだった。




