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かわいい子には地獄見せろ  作者: 鶴ヶ友護


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5/23

第5話 弱点探しただけなのに

 翌日。

 まだ誰も登校していない教室にて。

「というわけで、仕返し会議です」

 来てくれたふたりに向けて、私はビシッと宣言した。

「今日は千尋の弱点を探りたいと思います」

「はーい」

「弱点って……千尋ちゃんにあるのかなぁ?」

 元気よく手を上げる美惚ちゃんと首を傾げる茉陽瑠ちゃん。

「あるよ。千尋だって人間なんだし、ひとつやふたつくらいあるでしょ」

「そ、そうかな……」

「うん、たぶん……」

 聞き返されると、ちょっと不安になってきた。

 あいつ、完璧だからな。

 弱点なんてありませんって平気な顔して言いそうだよな。

「それで、探すってどうやって探すの?」

 美惚ちゃんが当然の疑問を口にする。

「とりあえず、千尋を尾行する!」

「はーい」

 またしても元気よく返事する美惚ちゃん。

 本当に楽しそうだなこの子。

「茉陽瑠ちゃんもわかった?」

「う、うん」

 小さく頷く茉陽瑠ちゃん。

「尾行ってことは、また忍者だね!」

 目をキラキラさせて言う美惚ちゃん。

 いや、違うけど。

 でも、こんな純粋な子を否定するのは……。

「うん。そうだね」

 とりあえず、優しく頷いておいた。

「それじゃあ、ふたりともがんばるぞー!」

「おー!」

「お、おー!」

 ──こうして、作戦が始まった。

「千尋発見!」

 廊下の向こうに、教室へと歩く千尋の姿が見えた。

 やっぱり、目立つな。

 この人混みでもすぐにわかる。

 なんていうか、オーラが違う。

「とりあえず隠れよう!」

 慌てて三人で廊下の角に身を寄せる。

 めちゃくちゃはみ出てる気もするけど……。

「誰かに話しかけられてる」

 美惚ちゃんがひょこっと顔を出す。

 その視線の先で、千尋は見知らぬ誰かと話していた。

 でも、ほんの少し言葉を交わしただけで、すぐに別れてしまった。

「なに話してたんだろうね?」

 茉陽瑠ちゃんが小さく呟く。

「うーん……ここからじゃ聞こえないね」

 千尋の声を聞くために、もっと近づいた方がいいのかな……。

 そんなことを考えていると──

「あっ」

 美惚ちゃんが間の抜けた声を漏らした。

「どうしたの?」

 疑問に思い尋ねると、美惚ちゃんは前を指さす。

「バレたっぽい」

「バレた?」

 指に従って視線を移す。

 ──千尋と目が合った。

「やばいよ。めっちゃ見てる」

「ね、どうする?」

「どうしよう」

 狼狽えて、美惚ちゃんと顔を合わせていると、茉陽瑠ちゃんが声をかけてきた。

「ふたりとも、千尋ちゃんこっち来てるよ」

「「え?」」

 茉陽瑠ちゃんの声に視線を上げると──

「なにしてるの?」

 困惑した表情の千尋がいた。

 ……この顔、昨日も見た気がする。

 いや、今はそんなことどうでもいい。

 とりあえず、なにか答えないと。

「な、なんでもないよ……」

「…………」

 千尋は、私達をじっと見つめる。

 ──この顔、絶対疑ってるなぁ。

 そりゃそうだよね。

 誤魔化せてないよね。

「あのね──」

 突然、美惚ちゃんが口を開いた。

 やばい。

 この子、なに言うかわかんない。

 尾行のこととか、仕返しのこととか、全部バラしちゃうかもしれない。

 慌てて、美惚ちゃんの口を塞ぐ。

「んぐっ!」

「あー、えっと、その……」

 ダメだ。

 なにも思いつかない。

 終わった……。

「ふーん……」

 千尋が少しだけ目を細める。

 ……もしかして、バレてる?

 尾行のこと、全部気づいた?

「と、とにかく! 私達用事あるからー!」

 そのまま、美惚ちゃんの手を引いて走り出す。

「茉陽瑠ちゃんも!」

「う、うん」

 三人まとめて、その場から全力で逃げ出した。


   ***


「はあはあ、危なかったね」

「うん。ギリギリセーフ」

「結構アウトだったと思うんだけどなぁ……」

 千尋から逃げてきた私達は女子トイレの個室に身を隠した。

 三人で、ひとつの個室……。

 狭い!

 めちゃくちゃ狭い!

「ちょ、近い近い」

「しょうがないよ~」

 どさくさに美惚ちゃんが抱き着いてくる。

 まあでも、ここなら千尋は入ってこないし、安全なはず。

「それで。唯恋ちゃん。これからどうするの?」

「うーん……」

 茉陽瑠ちゃんの質問に、唸り声を上げる。

 千尋の尾行。

 思ったよりも難しい。

「とりあえず、もう少し尾行を続けよう」

「おー」

「うん」

 そうして気合を入れなおし、トイレから出ると──

「おつかれ」

 千尋がいた。

 廊下の壁に寄りかかりながら、楽しそうに笑っている。

「うげ」

 なんでいるんだ、こいつ。

 ていうか、これも前にあったな。

「どうして逃げたの、みんな?」

 こちらに歩いてくる。

 まずい。

 今、千尋に会うなんて思ってなかったから、言い訳なんてなにも準備できてない。

 どうしよう……。

「千尋ちゃん!」

 後ろから茉陽瑠ちゃんが声をあげた。

「三原先生が千尋ちゃんのこと探してたよ」

 その言葉に、千尋は怪訝そうな目を向ける。

「ほんとに?」

「う、うん。ほんと」

 じーっと茉陽瑠ちゃんの顔を見つめて──

「茉陽瑠の言う事なら信じるよ」

 軽く笑う。

「じゃあ、私三原先生のところ行ってくるから」

 そう言って、軽く手を振りながら、職員室の方へと歩いて行った。

 その足音が聞こえなくなるのを確認して──

「茉陽瑠ちゃーん!」

「わぁ!」

 思い切り抱きついた。

「ありがとう! 茉陽瑠ちゃんがいなかったら、私どうなってたか……」

「どうなってたの?」

「あ、えっと……その……」

 自分で言っておいて、具体的なことがなにも出てこない。

「なんか、酷いことされてたかも……」

「酷いこと!」

 茉陽瑠ちゃんの顔が、一瞬で赤くなった。

「茉陽瑠ちゃん?」

「ううん、なんでもないよ」

 赤い顔を隠すように、手をパタパタと振っている。

「そ、それより、千尋ちゃん大丈夫かな。先生に、変に思われたりしないかな」

「大丈夫でしょ。千尋、先生から信用されてるし」

 ──こうして、朝の尾行は終了した。

 収穫は……ゼロ。

 いや、むしろマイナスかもしれない。

 それでも、ここで終わるわけにはいかない。

 次は昼休み。

 千尋の弱点を見つけるために、がんばるぞー!


   ***


「よし、今度こそ千尋の弱点見つけるよ」

「おー!」

「うん」

 空き教室にて、掛け声を上げ士気を高める私達。

 千尋には、用事があるって言って逃げてきた。

「それで、千尋なにしてるかな」

 教室を覗いても千尋がいなかったので、校内を探し歩く。

「あ、いた」

 中庭のベンチ。

 千尋がひとりで座って、お弁当を広げていた。

「今がチャンスだね」

「うん」

「おいしそー……」

 近くの木陰に身を隠し観察する。

 けれど、変わった様子は特にない。

 ……弱点、なさそうだな。

 ぽたぽた。

 ん?

 何やら近くで水音がする。

「なんの音……っ!」

 音のした方向──隣で、美惚ちゃんが滝のような涎を垂らしていた。

「うわ! 美惚ちゃん!」

「へぁ……」

 完全にお弁当に意識もってかれてる。

 いやもう、尾行どころじゃない。

「ちょ、美惚ちゃん! よだれよだれ!」

「はっ!」

 我に返った美惚ちゃんが慌てて口元を抑える。

 けれど、もう遅い。

「そこのバカふたり、丸見えだよ」

 びくりと肩を震わせ、視線を向けると。

 ……めっちゃ、目合ってる!

「やばい……」

 これ完全に、バレてる。

「……に」

 堪らず、ふたりの手を握って

「逃げろー」

 ──全力で逃げ出した。

「あいつ、勘鋭すぎでしょ」

「ふたりが騒ぎすぎなだけだと思うけどなぁ……」

 息を切らしながらぼやくと、茉陽瑠ちゃんに容赦なく突っ込まれた。

 ……ぐうの音も出ない。

 なんとか千尋から逃げきった後、懲りずに尾行を再開する。

 すると──

「いた」

 今度は体育館の方へ向かっていく千尋の姿を見つけた。

「なにしてんだろう?」

 昼休みの体育館。

 こんな時間に来る理由なんて、普通はない。

 ……ってことは。

 まさか。

 まさかだけど──。

「弱点⁉」

 思わず声が漏れる。

 ついに、見つけたかもしれない。

 千尋の弱点!

 自然と胸が高鳴っていく。

 そんなことを考えているうちに、千尋は体育館の裏へと回り込んでいく。

「行くよ」

 茉陽瑠ちゃんと美惚ちゃんに声をかけ、後を追う。

 足音を殺して。

 気配を消して。

 さっきの失敗を踏まえて、今度こそ慎重に──。

 壁に身を寄せ、そっと顔を出す。

 体育館裏を覗き込むと、そこには──

 見知らぬ女子が立っていた。

「あ……あれ先輩だ」

「先輩?」

「うん。サッカー部の先輩」

 美惚ちゃんが頷く。

 サッカー部の先輩。

 そんな人が千尋に──?

 それも、妙に真剣な空気で。

「……ねぇ」

「うん?」

「あれって……」

「そうだよね……」

 茉陽瑠ちゃんと顔を見合わせる。

「「告白!」」


   ***


「愛浦さん、急に呼び出してごめんね」

「いえ。それで、用ってなんですか?」

 目の前の女性は、指をもじもじと絡めながら、落ち着かない様子で視線を泳がせている。

 声は少し震えていて、頬もほんのり赤い。

 ああ、これは。

 ……告白だろうな。

 入学してから、このようなやり取りは何度も経験してきた。

 恥ずかしそうに想いを伝える人。

 勢いに任せてぶつけてくる人。

 いろんな人がいた。

 さて、なんて言って断ろうか。

 できれば、傷つけたくないし。

「あのね……」

 目の前の女性は覚悟を決めたように、ギュッと拳を握った。

「私、愛浦さんのことが好きなの!」

 赤くなった顔を隠すことなく、まっすぐとこちらを見つめる。

 想いのこもった言葉に、突き動かされるように自然と口は開き──

「「きゃー」」

「……」

 後方から歓声が聞こえてきた。

 はぁ。

 思わず、こめかみに手を当てる。

 ……やっぱり、まだついてきてるのか。

 朝からこそこそとついてきて、今まで害がなかったから強く注意してなかったけど。

 これはさすがに──。

 勇気出して気持ちを伝えてくれている人を面白がって見るものではない。

 後でちゃんと叱らないとな……。

「あ、あの……」

 目の前の女性は不安そうにこちらを見つめている。

 そうだ。

 今はこの人に向き合わないと。

「えっと──」

 口を開きかけて、ひとつのアイディアが浮かんだ。

 ……これなら、唯恋も少しは大人しくなるだろう。

 ほんの少しだけ、口元が緩んだ。

「ごめんね。あなたの気持ちは嬉しいんだけど……」

 一度、息を吸い込む。

 音が消え去ったような、わざとらしい静けさが一瞬落ちて──

「私、好きな人がいるんだ」

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