第26話 新しく始まる日々③
「ふあーーっ」
改札を抜けて、ふたりで並んで歩いていると、ふとあくびが口からこぼれ出る。
「眠い?」
そんな私を見て、隣にいる千尋が声をかけてきた。
「ちょっとね」
「昨日遅かったもんね」
「うん。なんだかんだ話してたしね……」
昨日の夜を思い出して小さく笑う。
「ていうか、千尋は大丈夫なの? 眠かったりしないわけ?」
「うん。大丈夫」
千尋──またの名を完璧美人は、睡眠時間が少なくても万全に動けるようだ。
まったく……とことん高性能な奴め。
頭の中でしょうもないことを考えていると、千尋は再び口を開いた。
「ねえ、このあとってなにか予定ある?」
「うん? ないよ」
千尋は私の返事を聞いて小さく頷く。
「なら、少し遊ばない?」
「ん?」
「まあ、私夜に用事あるからあんまり遅くまでは遊べないんだけどね」
「夜に……用事……」
それって……。
その言葉の響きに少し引っかかりを覚える。
絶対いかがわしいことじゃん!
え、だって夜だよ。
女子高生がそんな時間に用事って、絶対変なことに決まってるじゃん!
言葉の響きから変なことを想像してしまい、それが顔に出ていたようだ。
「なにその顔?」
隣から呆れた声が聞こえてきた。
「なにか変なことでも考えたの?」
「や、いや、そんなことないよ!」
取り繕っても誤魔化せず、バレバレなリアクションに千尋は笑い出した。
「あははは、なにその反応。わかりやすすぎでしょ」
「そんなに笑わなくてもいいじゃん」
お腹を押さえるほどの笑い様に声をあげても、それすらも面白いようで千尋の笑い声はもう少し続いた。
「別に、親戚が来るから顔を見せるだけだよ」
「そ、そっか……」
まったく見当違いの変な考えに恥ずかしさを覚え、私の頬が赤くなっていく。
その頬を両手で隠し顔をそむけると、千尋はまた笑い声を漏らした。
「ぶふっ」
「もう!」
「ごめんごめん」
全く反省を感じられない謝罪を口にした後、千尋は無理やり笑いを収めるように、大きく深呼吸をする。
「それで、遊べるの?」
少し落ち着いてから、千尋は改めて聞いた。
「うん。遊べるけどなにする?」
「うーん。今からどこか行くか、それとも唯恋の家で昨日の夜の続きをするか」
「言い方! 夜の続きじゃなくてお喋りの続きね!」
「ふふ、そうとも言う」
「そうとしか言わないってば! はあ、わかったよ。もう駅から離れちゃったし、私の家でいいでしょ」
「うん。ありがと唯恋。大好き」
「っ……」
思わず胸がドキッとした。
……まただ。
千尋に愛を囁かれて、何度この反応をしてきたことか……。
まあでも、これがいつもの揶揄いなのだということはすぐにわかった。
だって私の反応を見る千尋がまた笑っているのだから……。
「はいはい。そうだね。知ってるよ」
そっけなく返してみるけど、千尋が話を流してくれることはなく。
「知っててくれて嬉しい。唯恋は私のことなんでも知ってるんだね。そう思ったら、もっと好きになってきたよ」
追撃のように気持ちを伝え始めた。
「唯恋かわいいよ。愛してる。結婚しよう」
こいつ……。
待てるって言ったよね⁉
やっぱり、あの言葉は嘘だったの⁉
こんなに攻め攻めで……。
ドキドキとうるさい胸を誤魔化すように耳を塞いで足を速める。
「わあー。聞こえないー。聞こえないったら聞こえない!」
大きい声をあげて逃げるように前へ進む。
「待ってって」
後ろから千尋が追いかけてくる。
「待たないよー!」
振り返らずに言い返すと背後の足音が少しだけ早くなった。
「捕まえたっ!」
千尋が手を伸ばし、私の肩を掴んだのと同時に。
──ブブッ。
ポケットの中でスマホが震えた。
「ん?」
思わず足を止めて、スマホを取り出す。
「どうしたの?」
「ちょっと、バイト先から……」
後ろから覗き込んでくる千尋に返事をしつつ画面を見れば、メイドカフェの店長からだった。
『ごめん。今日人が足りなくて……急なんだけど出れたりしない?』
「え……」
思わず声が漏れる。




