表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいい子には地獄見せろ  作者: 鶴ヶ友護


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/27

第25話 新しく始まる日々②

 夏休み明け最初の日ということもあり、本日の授業は二時間目まで。

 体育館で校長先生の話を聞いたり、教室で担任の先生の話を聞いたり。

 そんな、いかにも始業式の日みたいな時間を過ごしているうちに、あっという間に学校は終わり、私と千尋、美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃん、四人揃って教室をあとにする。

「美惚ちゃんは、今日は部活ないの?」

「うん。今日は休み。明日からまた大変なんだよ~」

 ふんわりとした茉陽瑠ちゃんの声に返す美惚ちゃんの声は溶けるようで、サッカー部の練習のキツさをそのまま物語っているみたいだった。

「すごいね。美惚ちゃん!」

 そう言って笑顔を向けると、

「でしょ~」

「ちょっ……!」

 美惚ちゃんは嬉しそうに笑って、抱き着いてきた。

 それを千尋のようにひらりと躱そうとして──失敗。

 そのままがっしりと捕まって、日に焼けた腕の中へと収められた。

「逃がさなーい!」

「もう……」

 苦笑交じりのため息をひとつ。

 まあ、いいか……。

 じたばたするのも面倒なのでそのまま力を抜き、引きずられるように歩いていると下駄箱が見えてきた。

 さすがに抱き着いたままだと靴を履きづらかったのか、美惚ちゃんは私を解放してくれた。

 靴を履き替えて外へ出ると、うだるような暑さが全身を包み込んだ。

 エアコンの効いた教室とはまるで違う、全身を茹で上がらせるような暑さに思わず顔をしかめた。

 しかしそんな暑さを気にしてないように、前を歩く美惚ちゃんがぐいっと腕を引いてきた。

「ねえねえ」

「うん?」

「さっきの続き!」

「え、なに?」

 暑さで頭が回らない。ということも考えられるが、美惚ちゃんの急な発言の意味は本当にわからず、首を傾げるしかなかった。

「お泊りの話に決まってるじゃん!」

 美惚ちゃんは目をキラキラさせ、勢いよく迫ってきた。

「みんなでお泊りする話?」

「違う! それもあるけど、そっちじゃなくて」

 そっちじゃない。

 じゃあ、なんの話だ。

 皆目見当もつかず再び首を傾げると、美惚ちゃんは続けざまに口を開いた。

「唯恋と千尋が二人でお泊りした話!」

「あー……」

 そっちか……。

「だから、宿題やっただけだよ」

「嘘だー。絶対なんか楽しいことしてたでしょ!」

「してないって……」

「ふふ」

 私達の会話を聞いていた茉陽瑠ちゃんの笑い声が、前から聞こえてきた。

「私も気になるな~」

 柔らかい口調で発せられた言葉に、美惚ちゃんの勢いはさらに増す。

「ほら! 茉陽瑠もそう言ってる!」

「いや、ほんとになにもないし……それに、千尋も言ってたでしょ。なにもなかったって。ね?」

 視線を送れば、千尋は軽く頷いて。

「うん。ただ宿題して寝ただけ」

 さらりと言った。

 けれど美惚ちゃんは納得いかない様子で「う~ん」と唸り声を上げている。

「でも……」

 少し溜めるように間をおいて、

「ふたりとも、なんか近いんだもん!」

「……へ?」

 放たれた言葉に、思わず声が漏れた。

「教室の時も近かったし、今も!」

 そう言って美惚ちゃんは、私を指さす。

 ──いや、正確には私と千尋を。

 ふたりをさしているはずの指が、自分をさしていると勘違いしてしまうほど、千尋は近く。今にも腕が触れそうなほどの距離だった。

「…………」

 意識した途端、急に恥ずかしくなってくる。

「べ、別に普通でしょ」

「え~、普通じゃないって~」

 ニヤニヤしながら美惚ちゃんが覗き込んでくる。

「ね~?」

「うん。ちょっと近いかも」

 茉陽瑠ちゃんまで同意した。

「そ、そんなこと……」

「いいじゃん、別に」

 狼狽する私の声を遮るように、千尋はあっさりと言ってみせる。

「これくらい普通だし」

 そう言って、わざとらしく距離を詰め、するりと腕を絡めた。

「ちょッ……!」

 完全に触れた。

 というか、絡まれてる。

 そんな私達を見て、目の前のふたりはニヤニヤし始める。

「はい、かくて~い!」

「ね~。これは確定だね~」

「うるさい!」

 顔を真っ赤にしながら、たまらず声を上げる。

 それでも、弄るふたりは当然のことながら、隣の千尋も止める気配はまったくなくて。

「別に、確定でもいいよね」

 私を見つめて、楽しそうに笑った。

 ──こいつ。

 顔がいいんだから、そんなふうな笑顔を向けられると……ドキドキする!

 前に告白してきたこと。

 告白の返事を、いくらでも待てるって言ってくれたこと。

 それらが一瞬で頭に浮かび上がってくる。

 ……ああ、そうだ。

 こいつ……待てるって言っただけで、なにもしないとは言ってないんだ。

 だからこうして、私をドキドキさせようとして……。

 顔を上げ、睨みつける。

 けれど、そのまま視線が千尋の綺麗な笑顔とぶつかって──ドキドキして、顔を逸らした。

「やっぱりなにかあったんだね」

「ね~」

 そんな私の反応を楽しむ美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃんの声は、高鳴る心音に乗って頭の奥にまで入り込んでくる。

 ドキドキと鳴る心音と、揶揄いの声。

 ふたつの音から遠ざかろうと歩いていると、いつの間にか駅にたどり着いていた。

「じゃあね、また明日ねー」

「ばいば~い」

 元気に手を振る美惚ちゃんと柔らかく微笑む茉陽瑠ちゃん。

 ふたりは振り返り、上り方面のホームへと足を進める。

「それじゃあ、行こうか」

 千尋の声を合図に振っていた手を下ろし、私達は下り方面のホームへと向かう。

 ふたりとは、家の方向が逆なのだ。

 ……ちょっと、寂しいな。

 同じ方向だったら、もっと話せていたのに。

 そんなことを思いながらホームへの階段を下りれば、ちょうど電車が駅に到着したようで、そのまま乗り込んだ。

 学校から私達の最寄り駅までは、たったの二駅。

 だから千尋と少し話しているだけで、最寄り駅に着くのはあっという間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ