第24話 新しく始まる日々①
ついに、二学期が始まった。
教室の扉を開けると、楽しげな声が一気に流れ込んでくる。
久しぶりに顔を合わせるクラスメイト達の盛り上がる声があちらこちらから聞こえてきて、教室はちょっとしたパーティーのような賑わいだ。
「唯恋―!」
「うわっ、ちょっ……!」
聞き慣れた声が勢いよく駆け寄ってきて、私を抱きしめる。
美惚ちゃんは、帰宅したご主人様を迎える大型犬のように、全力で再会を喜んでいる。
その後ろでは、茉陽瑠ちゃんが手をふりながら優しく微笑んでいる。
「唯恋ちゃん、千尋ちゃん久しぶりー」
「久しぶり!」
そんなふたりに、私も明るく笑顔で返す。
「海以来だねー。元気してた?」
「もちろん! 元気もりもりだよ。茉陽瑠ちゃんも元気だった?」
「うん。すごい元気だったよ」
美惚ちゃんはひとしきり私を抱きしめて満足すると、ぱっと体を離して、今度は千尋に抱き着きに行った。
しかし千尋は、飛びついてきた美惚ちゃんをひらりと躱す。
飛びついては躱し、躱されてはまた飛びついて。
目の前で繰り広げられるじゃれ合いを微笑ましく思いながら、私と茉陽瑠ちゃんは話を続けた。
「唯恋ちゃんは海の後どこか遊びに行ったりした?」
「うん。夏祭りに行ったよ」
「夏祭り⁉ いいなー!」
千尋に敵わず諦めた美惚ちゃんが、テンション高くこちらの話題に食いついてきた。
「で、なにしたの? なに食べたの? 花火見たの?」
興奮そのままに、勢いよく質問が並ぶ。
「う、うん。色々食べたし、花火も見たよ」
「いいなー! 私も行きたかったなー!」
ぴょんぴょんと跳ねながら気持ちを素直に表現する美惚ちゃんは、見ていてとてもかわいい。
「それ、誰と行ったの?」
「千尋と」
「いいなー!」
茉陽瑠ちゃんの問いに答えて、美惚ちゃんがまた弾んだ声をあげる。
「いいでしょ」
そんなふたりを煽るように千尋は表情を緩めて、するりと腕を私に巻き付けた。
「ちょっ……!」
突然の抱擁に驚きの声を漏らしても、千尋が離してくれることはなく、続けて口を開いた。
「それに、お泊りもしたしね」
一瞬、空気が止まった。
「「え⁉」」
少し遅れて、美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃんが目を丸くして、驚愕の声をあげた。
「なにそれずるい⁉」
「いいな~お泊り~」
勢いよく詰め寄る美惚ちゃんと、ふわりと笑う茉陽瑠ちゃん。
表現の仕方に違いはあれど、ふたりの気持ちは一緒のようで、四つの瞳が私と千尋を捉えて逃がそうとしない。
「え、ちょ、違う……いや、違わないけど……」
ふたりの視線にしどろもどろになりながら言葉を探す。
「宿題! 昨日宿題が終わらなくて! それで千尋に泊まって手伝ってもらったの!」
自分でもわかるくらいに狼狽えている。が、それにしてはなかなかにいい言い訳じゃないだろうか。
「ね!」
助けを求めるように顔を上げると、千尋はゆっくりと表情を歪めた。
──あ、この顔。
私を揶揄うときの、いつもの顔。
嫌な予感しかしない。
こいつ、なんか変なことを言うんじゃないだろうな。
案の定、千尋は愉快そうに歪めた口元を開いて──
「うん。ただ宿題やっただけだよ」
私の言葉を肯定した。
それでも、美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃんは信じきっていないようで、じーっと私達を見つめてくる。
「まあ、千尋が言うなら」
「うん。本当なんだろうね」
そして、妙に納得した顔で頷いた。
「ちょっと、なんか千尋の信用だけやけに高くない?」
「だって……」
「ねえ」
やけに素直に納得したことに抗議の視線を向けると、ふたりは顔を見合わせて、
「「千尋(ちゃん)だし」」
ピタリと声を揃えて告げた。
……あー、はいはい。
そうですよね。千尋ですもんね。
勉強も運動もできて、おまけに顔もスタイルもよくて、(私以外には)優しくて頼りになる。
それが千尋だもんね。
私とは信用が違うよね。
もう慣れっこなこの扱いの差に少しだけムッとしながら顔を上げると、千尋は楽しそうに笑って私の頭を撫でた。
「もう、唯恋。そんな顔しちゃダメだよ」
「ふん!」
軽く窘める千尋の手から逃れようと顔を逸らすけど、今は抱きしめられたまま。当然逃れることはできず、これでもかと頭を撫でられる。
「でも、いいなー。お泊りとか楽しそー」
「ね~」
そんな私達をじゃれ合ってると思っているのか、気にしてないように会話を始める美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃん。
「ならさ」
そんなふたりに千尋は声をかける(もちろん私を撫でたまま)。
「今度は四人でお泊りしようよ」
千尋の提案を聞くと、美惚ちゃんと茉陽瑠ちゃんは表情を一気に明るくさせ、
「やるー!」
「うん!」
声を弾ませた。
「えー、もう今から楽しみ! いつやる? 今日やる?」
「さすがに今日は急すぎるよー」
テンション高く跳ねる美惚ちゃんに、私は笑いながら軽く返す。
それでも上がったテンションが収まることはなく、私達の熱をどうにかしてくれたのはチャイムに少し遅れてやってきた先生の声だった。




