表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かわいい子には地獄見せろ  作者: 鶴ヶ友護


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/24

第21話 好きの行方③

 夏の終わり。午後八時。

 日中の暑さとは対照的なひんやりとした風が、バイト終わりの疲れた体を吹き抜けて、ゆっくりと夜が入り込んでくるような心地がした。

「ふう……」

 思わず小さく息を吐く。

 ようやく終わったという解放感と、どこか気の抜けたような感覚。

 しかも今日は千尋のこともあって、普段よりもそれらを強く実感する。

 ──告白の件。

 千尋とのぎこちない空気が、少しだけ和らいだ。

 完全に元通り、とは言えないけれど──それでも、確かに変わった。

『唯恋が真剣に考えてくれてるなら、いくらでも待てる』

 そう言ってもらえて、ずいぶんと心が軽くなった。

 軽い心のまま、千尋のことを思い浮かべる。

 あんなに真剣な顔で、私のことを考えてくれて。

 思い出すだけで、じわりと頬が熱くなる。

 ………なに考えてるんだ、私。

 気恥ずかしさを感じ、頭を軽く振る。

 けれど、頬の熱はなかなか引いてくれない。

 帰り道。

 隣に千尋はいない、ひとりの時間。

 だからこの顔は、誰にも見られることはない。

 赤い顔を隠す必要がないと思うと、なんだか気が楽だ。

 千尋がいたら、こんな気分味わえてなかったんだろうな。

 またしても千尋を思い浮かべながら、見慣れた帰り道をまっすぐと歩く。

 少し汚れた止まれの標識も、斜めに生えるカーブミラーも、八十円のサイダーを売ってる自動販売機も、全部知っている帰り道。

 いつも通りの道を寄り道もせずにしばらく歩いていると、

 ──コツ。

 自分の足音と一拍遅れて別の足音が聞こえてきた。

 ──コツ。コツ。

 ひとりだと思っていたけど、他の人もいたのか。

 そんなことを思いながら歩いているが、足音は鳴り続ける。

 夜の道。

 女の一人歩きだ。

 足音のひとつにも過剰に不安に思えてきて、足を止めると──足音がピタリと止まる。

「……?」

 振り返ってもそこに人影はなく、街灯に照らされた道が静かに伸びているだけ。

「……気のせい……だよね」

 小さく呟いて再び歩き出す。

 ──コツ。

 またしても音が鳴る。

 ──コツ。コツ。……コツ。

 歩けば鳴り。

 止まれば止む。

 不安定なリズムが、私に呼応するように鳴らされる。

 もしかして……。

 想像から浮かびあがる恐怖が私の足を速くする。

 考えすぎだ。

 そうに違いない。

 そう思いながらも、振り返る勇気なんてなかった。

 ただただ前だけを見て歩き続ける

 歩いて、歩いて、歩き続けて──。

 ようやく、視界の先に見慣れた景色が浮かんできた。

 ──家だ。

 見慣れた外観から漏れ出る明かりを見た途端、張り詰めていたものが自然と解けた。

 よかった……。

 なにもなく、帰れるんだ。

 あと少し……あと少しで。

 ──コツ。

 家を目の前にして、気が緩んでいたのか。

 それともどこかで、この音の正体を知りたいと思っていたのか。

 家を横目に捉えたまま、足を止めて振り返ると──


 誰もいない。


 静かな夜。

 不思議なものはなにもなく。

 違和感があるのは、胸の内だけ。

「気のせい……だったんだよね……」

 自分に言い聞かせるように小さく呟いて、私は玄関へと足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ