第17話 決まっていた結末
──ドン。
そこに、突如として低く重たい音が響いた。
つられて顔を上げれば、夜空に大輪の光の花が咲いていた。
「わあ……」
自然と言葉が漏れる。
赤、青、緑。
様々な色の光が夜空に広がり、ゆっくりと溶けていく。
「すごい綺麗……」
打ち上がる花火に視線が奪われる。
「去年も見たけど、やっぱりすごいよね」
上を向いたまま、隣へ言葉を投げかける。
けれどそれに返ってくる言葉はなく、花の咲く音だけが耳に響く。
上がって広がり、薄れ、消える。
繰り返される現象も、多様な形で飽きることはなく、ただひたすらに染まる夜空を眺めていると──
「唯恋」
静かな声が落ちた。
華やかな光に夢中になり、その声が自分を呼んでいるのだと気がつくのに少し時間がかかった。
「なに?」
遅れて視線を向けると、千尋が真剣な顔でこちらを見つめていた。
真剣な瞳が揺れ、口を開きかけ──閉じる。
「?」
らしくない行動に首を傾げている間にも、夜空はどんどんと盛り上がりを増していき、ドンと一際大きな花が咲き、思わず視線を奪われた瞬間──。
「好き」
隣から、はっきりとした言葉が響いてきた。
その言葉に、反射的に顔を向けると、
「私、唯恋のことが好き」
先程の真剣な表情を僅かに朱に染めた千尋。
──好き。
表情に気を取られ、言葉の意味をすぐに理解することができず、音だけが胸の奥へと沈んでいった。
その言葉が頭を目指して浮かび上がるよりも先に、
「私と付き合ってほしい」
もう一度、言葉が紡がれた。
浮き上がる言葉と新たに沈み行く言葉。
二つの言葉がぶつかって──完全に思考が停止した。
遠くで聞こえる花火の音も、視界の端で弾ける光も、今はそちらに意識がいかない。
──好き。
──付き合ってほしい。
……告白された。
ようやく理解したときには、光は消え、静けさが戻りかけていた。
『私は──』
ふと、あの時の言葉が頭をよぎる。
メイドカフェでの言葉。
一度逃げたものが、今あらためて目の前にやってきたのだ。
高鳴る心音と無駄に回る思考。
大丈夫……。
もう答えは決めている……。
落ち着けるように心の中で呟きかける。
『千尋のことは好きじゃない』
そう答えを出したのだ。
だから、あとは答えを口にすればいい。
千尋が好きじゃない。
だから千尋とは付き合えない。
そう言えばいい。
頭の中で言葉を整理して、口を開きかける。
──そこで、口が酷く乾いていることに気づいた。
唇が張りついて、息もうまく通らない。
でも、そんなことはどうでもいい。
今はこの言葉を伝えなければ。
「私は──」
口を開き、声を上げる。
考えたことを、私の気持ちを伝えたいのに。
──言葉が続かない。
喉の奥で引っかかったみたいに出てこない。
なんで。
なんで言えないの。
好きじゃない。
そう言えばいいだけなのに、なんで。
昨日の夜も、今も気持ちを整理したはず。
なのに──。
なんでこんなにぐちゃぐちゃなの。
うまくまとまらない頭で、こぼれた言葉は、
「ごめん……」
自分でも驚くぐらい、
「少しだけ、考えさせてほしい」
小さなものだった。




