第14話 答えを出した夜
夜。
部屋の中は静かで、エアコンの音だけがやたらと耳につく。
ベッドに寝転んでスマホを顔の上にかざす。
ぼんやりとした視界の中で、画面の明かりだけがやけに眩しい。
明日、夏祭り。
千尋と、ふたりで。
「なんで約束しちゃったんだろ……」
小さく呟いて目を細める。
断ることだってできたはずなのに。
バイトがあるとか、他に予定があるとか適当に言えばよかったのに。
なのに──気づいたら『いいけど』なんて言って。
「……ほんと、意味わかんない」
溜息をひとつ。
じっとしていても落ち着かず、指先が勝手に動きだす。
「んっ……」
勝手に開かれたトーク画面。
そこに映される『千尋』の名前。
……別に、用があるわけじゃない。
なんとなく、開いただけ。
それだけなのに、閉じるタイミングがわからなくて、スクロールするわけでもなくただ画面を見つめる。
画面の中に並ぶのは、どうでもいいやり取りとなんてことない言葉。
それなのに、変に意識してしまう。
「なにやってんだろう……」
小さく呟いて、スマホの電源を消し、そのまま胸の上へと落とした。
視線は天井。
でも、頭の中はさっきのまま。
『私は──』
あの時の千尋の言葉。
途中で止まった、あの一言。
もし、あのまま遮られなかったら。
もし、続きを聞いていたら。
どうなってたんだろう……。
「……いや、ないな」
浮かぶ思考をすぐに打ち消す。
そんなこと考えるまでもない。
千尋のことなんて──。
いじわるだし。
すぐ揶揄ってくるし。
人のこと振り回してくるし。
意味わかんないこと言うし。
──思いつくままに並べていく。
うん、ちゃんと出てくる。
あいつの嫌いなところなんて、いくらでも。
「ほら……」
これだけあれば十分でしょ。
これだけ嫌いなところがあるんだから。
あんなやつ
──好きになるわけがない。
そう結論を出したら、胸の奥が少しだけざわついた気がした。
「気のせいだ……」
言い聞かせるように口に出す。
それでも、ざわつきが収まることはなく。
……ダメだ。
このまま行ったらまた調子を崩す。
バイトの時みたいに、変に意識して上手くいかなくなる。
「はあ……」
小さく息を吐く。
決めなくちゃ、明日のために。
もう一度、千尋を思い直す。
いじわるな顔。
揶揄ってくる顔。
人のこと振り回して楽しそうに笑う顔。
うん。
好きじゃない。
あんな顔するやつ。
千尋のことは好きじゃない。
好きじゃない、はず。
「……はずってなに」
ぽつりと零れた言葉に自分で顔をしかめる。
違う。
好きじゃない。
そうだ。
そうなんだ。
千尋のことは好きじゃない。
それが私の気持ちだ。
答えを出したのに、思考が止まらなくて。
「……寝よ」
逃げるように目を閉じる。
けれど、暗くなった視界の中で、浮かんでくるのは
──千尋の顔。
「最悪……」
小さく吐き捨てて、布団を頭まで被る。
──答えは出した。
──これで明日は大丈夫。
そう思いたいのに、そう思えなくて、静かに夜が明けるのを待った。




