1話
あの女、レミリアに初めて会ったのは5歳の時。
「初めまして――あなたが私の妹なの?」
素晴らしい挨拶を披露したあと、レミリアはそう言った。
「はい……」
違う、と言ってもよかった。でも言えない。後ろで、マリーナ――私を孤児院から引き取った女が睨んでいたから。
スカートをぎゅっと握った私に、レミリアは淑女の仮面を脱ぎ捨て、私に抱きつく。
「かわいい!」
――抱きしめられたのは、初めてだわ。
私は孤児だった。赤子の頃、孤児院に捨てられたが、シスターや牧師に育てられていた。4歳までは。
マリーナ、という女に引き取られたのだ。マリーナはレミリアの父親の愛人で。その父親の正妻が亡くなったため、私をつれて愛人のマリーナが来たのだ。彼は貴族、それも伯爵だった。
「まだ正妻の喪は開けていないんじゃないの」
「そんなことは気にしなくていいのよ。そんなことより、あたしは伯爵夫人、あんたは伯爵令嬢になれるのよ。あたしに感謝なさい」
あたしの父親はレミリアの父親と同じと言うことになっていて。
「そうね」
私は彼女に感謝していた。……最終的には。
「お姉様。これ頂戴」
私はお姉様のいつもつけていたブレスレットを指さして言う。
「それはお母様の形見で.....」
青いブレスレットを握りしめ、お姉様は首を振った。
私はそんなお姉様のブレスレット無理やり引っ張って奪おうとする。
「速く離しなさいよ!」
「やめて……マリアっ」
ブチッ、と音がして。
「ブレスレットが…………」
「あ〜あ。だめになっちゃった。ま、いっか」
私はお姉様に背を向けてその場を離れた。もう紐の切れたブレスレットなんていらないもの。
――そんなことより、お姉様の顔は見ものだった!
「ふふ。なんて素晴らしいのかしら」
私は静かに口角を上げた。その顔を見て、屋敷の使用人たちがビクビクしながら私を避ける。
マリア・シャーロンは悪女だった。正当な伯爵家の長女であり、マリアの異母姉――たとえ血がつながっていなくとも――そんなレミリアを虐げるような、そんな令嬢。
それがマリア――稀代の悪女の異名にふさわしい少女だった。
やがてマリアとレミリアは学園へと入学する。二人を取り巻く残酷な歯車は、もうすでに回り始めていた。




