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転生した失地王がハーブ畑を耕したら、押し掛け魔女に癒しのカフェをはじめないかと誘われました!  作者: 日埜和なこ


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第25話 グラシエアは幸運の青い鳥?

 森を出ると、不安げな村人たちに迎えられた。

 怪我をした村人は手当がすみ、ひとまず大事ないようだ。そのことに安堵していると、誰かが「あの鳥が森を凍らせたんだ」といいだした。煽られたように「俺も見たぞ」「危なくないのか」とざわつき始める。

 こうなるだろうと予想はしていたが、さてどうしたものか。


 頭にをグラシエアを乗せたまま、トレヴァーは気にした様子もなく黙っている。ジャスミンは少し困り顔だ。

 森から戻る間、三人では連れていくしかないと結論が出たが──ジャスミンがいうには、精霊との契約は簡単に切ることが出来ないらしい──村人に話して、どこまでわかってもらえるか。森を凍らせ、恐怖を与えてしまったことに変わりはないからな。


 グラシエアが危険でないことを、どう説明したら伝わるか。いっそうのこと、ストレートに訊いてくれたらいいものの、村人は遠慮してなのかざわつくだけだ。

 そんな人だかりからモナが顔を出した。


「トレヴァー、泥だらけじゃないかい!」

「あー、ははっ……こいつを倒木から助けるのに、地面掘ったから」


 少し困り顔でトレヴァーが笑うと、ピュイッと鳴いたグラシエアが飛び立った。

 辺りから、ひいっと喉を引きつらせたような悲鳴が聞こえた。だが、そんなことを気にもしないグラシエアはトレヴァーの周りを気持ちよさそうにパタパタと飛び回ると、右肩に停まった。

 モナはその様子を見て、目をぱちくりとさせる。彼女には、ただ小鳥が飛び回っているようにしか見えないだろう。その様子から、森が凍ることを想像できるのは、実際見た者くらいだ。


「一人でかい?」

「ルーファスも手伝ってくれたけど、地面が結構硬くてさ」

「そういや、旦那も泥まみれだ。そんなんじゃ台所に入れないだろうに」

「あー……すみません。急を要してたもので」


 ため息をつくモナに苦笑すると、辺りから聞こえてくる声の様子が変わった。

 集まった女性たちから「どこが危険な鳥なんだい?」「可愛い小鳥だよ」「トレヴァーの頭を巣だと思ってるのかね」と囁き声が聞こえてくる。

 そうか、木々を凍らせたのを見たのは一部の人間だ。そいつらをどうにか説得できれば、丸く収まるかもしれない──その時、一人の男が声を上げた。


「お、俺は見たぞ! その鳥が暴れたら、辺りが凍っちまったんだ!」

「俺もだ! それは、きっと魔物だ!!」

「作物を凍ら説に決まってる! 村から追い出せ!」


 男たちの不安と怒りが一気に膨れ上がっていく。それは、まるで失地王となった俺を攻め立てた民友の声のようだ。

 好意的だった女性たちの顔に、不安がよぎった。


「こいつは、魔物じゃない!」

「騙されるな!」

「驚かしたりしなければ、暴れない!」

「けど、森は凍った!」


 全く聞く耳を持たない男たちの声は大きくなっていく。

 唇を噛んだトレヴァーは、肩で小首を傾げるグラシエアにそっと触れて「どうしてわかってくれない」と呟いた。その時だ。

 ふわりと甘い香りの風が村人たちを包み込んだ。


「オジサンたち、ちょっと落ち着こうよ!」


 ジャスミンの杖がキラキラと輝く。どうやら、カミルフィの香りを風にのせて届けてくれたようだ。


「し、しかし、魔女ちゃん……」

「まずは話を聞いて! これは魔物じゃないよ。魔女のあたしだって出会うのは珍しい、精霊の子どもなの」

「精霊の、子ども……」


 ジャスミンの言葉に、男たちは顔を見合った。さすが、大魔女の孫娘の言葉だけはあるな。俺やトレヴァーがやたらなことをいうより、村人たちは耳を傾けてくれる。


「けど、森を凍らせたのは事実だ。魔女ちゃんだって見ただろう?」

「見たわ。びっくりした。けど、それはこの子が怖がって泣いていたからなの」


 トレヴァーの側に近づき、グラシエアをちょんっと触ったジャスミンは、その指に飛び移ってきた小さな体をそっと撫でた。


「ほら、触っても凍らないでしょ?」

「けどな。また、暴れたらどうするんだ?」

「それは──」


 ジャスミンが口を開いた時、トレヴァーが「暴れない!」と声を上げた。

 村人たちの視線が、トレヴァーに注がれる。


「グラシエアは、俺に『人間と仲良くする』って約束してくれたんだ。だから、こいつのことを嫌わないでやってくれ!」


 トレヴァーの必死の言葉を聞き、村人たちがしんとなる。だが、まだ不安は拭えないのだろう、男たちは顔を見合わせた。もう一推しだが、これ以上、精霊だ魔法だとよくわからないことで説得されても、彼らは受け入れないだろうな。

 事実よりも、もっと安心感を与えるなにかが必要だ。


「昔、王都の書庫で『幸運を運ぶ青い鳥』の伝承を読んだことがある」


 静まり返っていたところに、俺の声が響いた。視線が集まるのを感じ、背筋が冷える。

 ジャスミンとトレヴァーが少し目を見開いて俺を見た。


「古い話だ。戦火で荒廃した土地は熱を持ち、作物が育たなくなった。人々は新たな土地を求めて国を捨てようとした。そこに現れた青い鳥が、その翼で起こした冷気で大地を冷やすとカミルフィの花が咲いたそうだ。土地は豊かさを取り戻し、国は栄えた……そんな話だったな」


 まあ、作り話なんだが。──心の内で呟き、ちらりと村人たちに視線を向ける。すると、誰かが「俺、見たぜ」と呟いた。


「俺も見た。デカい青い鳥が森に向かうのを!」

「あたしも見たよ。そしたら、空からカミルフィの花が落ちてきたんだ」

「それなら、あたしもだよ!」


 次々に、青い鳥を見たという声が上がり始める。それを聞き、トレヴァーは唖然としたまま俺を見て「ルーファス、これって」と呟いた。

 少しだけ口角を上げて「グラシエアは幸運の鳥」といえば、トレヴァーの頭に飛び乗ったグラシエアがピーッと、どこか誇らしげに鳴いた。


 トレヴァーとグラシエアを囲んで騒いでる村人の様子を、その輪の外から眺めて、安堵の息をつく。

 咄嗟に思い付いた「グラシエアは幸運の鳥」という、でまかせを村人は信じてくれたようだ。一部、納得していない様子も見られるが、時間が経てば受け入れるだろう。


 しかし、さすがに疲れたな。

 日が西に傾き始めた空を眺め、もう一度、ふっと息を吐く。するとジャスミンが「ちょっと、ルーファス」と声をかけながら、俺の袖を強く引っ張った。自然と屈む形になると、ジャスミンはつま先立ちになって、俺の耳元でこそこそと話した。


「あたし、そんな伝承聞いたことないんだけど」

「俺のでまかせだからな」

「……やっぱり」


 呆れた顔になったジャスミンは、少し咎めるように「どうするのよ」と呟いた。


「まあ、これから本当に奇跡を起こせば良いだけだ」

「簡単に奇跡なんて起きる訳ないじゃない」

「それはどうだろうな」


 断罪されてここにやってきた俺からしたら、案外、奇跡を起こすのは難しくない気がする。

 例えば、森でケガをした村長の息子からしたら、あの場で俺たちに助けられたのは奇跡だろう。悪さをしたトレヴァーが村のために働くようになったのだってそうだ。


「見方を変えれば、なんだって奇跡だ」

「なによそれ」

「お前が俺の前に現れたのだって奇跡だろう? 大魔女がいなけりゃ、芽は出なかった」

「それは……でも、あれは、突然森の外に強い魔力を感じたのよ。でもそれはすぐなくなって。だから不思議に思って行ったら、ルーファスがいたのよ」


 なるほど。あの女神に感づいたのか。いや、女神の力が魔力ってのもおかしな話だ。もしかしたら、女神はジャスミンを導いたのかもしれない。

 気まぐれな女神のアフターサービスは、どこまであるのか知れないが。


「祭りで感謝しないとな」

「感謝?」

「森の女神に決まってるだろう」

「……意外。ルーファスって、信心深いんだ」

「ははっ、ここに来る前は、信じていなかったさ」

 

 ジャスミンの頭をがしがしと撫でまわすと「ちょっと、汚れるでしょ!」と可愛い悲鳴が上がった。そういや、俺の手も泥だらけだったか。

 おかしさが込み上げ、声を上げて笑っていると、モナが「皆、お腹すいただろう?」といった。


「美味しいパンケーキを作っておいたよ。祭りの前の試食会をしようじゃないかい!」


 村人たちから歓声が上がり、ぞろぞろと村長の屋敷に向かうことになった。

 屋敷の前に辿り着くと、簡易テーブルが並べられ、次々に皿が運ばれてくる。焼きたてのパンケーキにはフルーツが飾られ、さらに、あのワインシロップがかけられていた。


「このシロップは、ワインで作ったのか?」

「そうだよ。ルーファスの旦那が考えてくれたんだよ!」

「酒に弱いヤツも楽しめるな!」


 すぐに喜ぶ声が上がり、ついさっきまでの喧騒はいっぺんに消えた。

 さらに運ばれてきたドリンクを口にした男が「これもワインか?」と声を上げる。


「ワインシロップで作ったドリンクさ!」

「もしかして、これも旦那が考えたのか?」

「ああ。ジャスミンが、ワインは飲めないと拗ねていたからな」

「すっ、拗ねてないわよ!!」


 ドリンクを口につけようとしたジャスミンな顔が、ぱっと赤くなる。それを見た男たちが大笑いをして「酔ったか?」とからかうものだから、また笑い声が上がった。

 すると、グラシエアがパタパタと羽ばたき、ジャスミンの肩にちょこんと停まった。


「果物でも食べたいのかしら?」


 ジャスミンが首を傾げたその時、グラシエアの翼が輝き、白い風がジャスミンのコップを包み込んだ。

 村人たちがしんっと静まり返る。


「お、おい、あの鳥は、なにをしたんだ?」


 誰かの震えた声に、わずかにざわついた。だが、そんなことを気にもしないジャスミンは、冷えたコップに口をつけると「冷たくて美味しい!」と歓喜の声を上げた。

 グラシエアがピイピイと鳴き声を上げる。


 そうか、その手があったか。


「モナさん、ドリンクの入った水差し借ります」


 追加のドリンクを持ってきたモナから水差しを受け取り、グラシエアの前に突き出す。


「グラシエア、これを冷やせるか?」


 人の言葉がわかるか知らないが、声をかけると、グラシエアは小首を傾げて飛び立ち、トレヴァーの肩に止まった。

 何度かピイピイと声を上げるグラシエアに、トレヴァーは何度か頷く。まるで、会話をしているようだ。いや、会話をしているのか。


「ジャスミンのコップを冷やしたみたいに、あれの中身も冷やしてくれるか? 氷付きだといいな」


 トレヴァーが頼むと、グラシエアはピーッと高い鳴き声を上げ再び飛び立った。

 青い翼がキラキラと輝き、まるで、新雪が降るようにキラキラと輝く光が水差しの中へと落ちていった。次第に持ち手までが冷えてゆく。


 中を覗くと、驚くことに、今度は氷まで浮いている。


「……氷だ」

「旦那、なんだって?」

「氷? まさか……本当だ。皆、見てみろ!」


 恐る恐る水差しを覗き込んだ村人たちから、おおっと歓声が上がった。

 コップに注ぎ入れると、ころんとした氷の欠片が置いてくる。この夏場に、氷入りのドリンクを飲めるなんて、なんて贅沢だろうか。


 一口飲むと、冷えたドリンクが熱くなった喉を通り、ふわりと甘い香りが広がった。疲れた体に染み渡り、もう一杯飲みたくなる。

 ほっと吐息がこぼれると、俺を見ていた村人たちが「どうだ?」「美味いか?」と不安混じりに声をかけてきた。


「冷やした方が何倍も美味い。皆さんもどうですか?」


 そう尋ねても、まだ不安が残るのか、村人たちはお互い顔を見合わせただけだった。

 飲んでもらえたら、グラシエアの氷がどれだけいい仕事をしてるか、わかってもらえるんだが。やはり、最初の勇気が必要なのか。

 どうしたものかと考えていると、モナが「あたしのに注いでおくれ!」といってコップを差し出した。そうして、ためらうことなく注がれたドリンクに口をつける。


 皆に見守られ、モナの喉がごくりと鳴った。


「──美味しいじゃないかい! こんなに冷たいドリンクを、夏に飲めるなんて、凄いじゃないかい!!」


 満面の笑みになったモナは、ハッとして、パンケーキの上に飾られたプラムにフォークを挿した。それをグラシエアの前に持っていき「これを凍らせたりできるのかい?」と訊く。

 小首を傾げたグラシエアはトレヴァーを見る。トレヴァーが笑って頷くと、ピイピイ鳴きながら翼を羽ばたかせた。

 フォークに刺さったプラムが白く凍っていく。それを口に入れたモナは「冷たくて美味しいね」といって頬を緩ませた。


 村人たちは一斉にグラスをつき出す。


「俺にも飲ませてくれ!」


 この後、しばらく冷たいワインドリンクと冷えた果物作りに、グラシエアは奮闘することになった。だけど、そのおかげで村人たちはすっかり、グラシエアを歓迎するようになった。


 奇跡なんていうのは、意外と簡単に起きるものだ。

またまた大幅に更新予定遅れました。申し訳ありません!

次回、本日11時頃に最終話を投稿します


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