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英雄は今日も血に濡れる  作者: 年中暇な人
2章 在り方
30/31

鉄の巨人vs暗殺者榊原

市街地の方から爆音が響き渡る。

近隣住民もコードブラックの命令を無視して、爆心地の方へと向かう。


剣聖達もその音を聞いて、走っていた。


「俺たちの他に誰か来るって聞いてるか?

烏丸がやったなら真っ先に連絡が来る筈だ」


「....。」

榊原は何も答えない。


「まただんまりかよ。

俺とは話したくないってか」


ポケットから無線機を取り出し、烏丸に連絡する。


「聞こえるか。

こちら剣聖。

爆発音が聞こえたから今そこに向かってる。

今何処にいる」


「俺達も今そっちに行ってる。

労働場の方は何もなかった」


「じゃあ誰がやったんだ」


「分からない。

ただ横槍が入ったのは確かだ」


「ところで榊原。

黙ってないで説明しろ。

何か知ってるんだろ」


剣聖が問いかける。


「....分からない」

一言そう答えるだけで榊原はそれ以上何も言わない。


「分からないだと。

まあいい。

とにかく爆心地で落ち合おう。

また連絡してくれ」


剣聖は無線を切り、更に足を進める。


「....先に行け剣聖」


榊原が方向を変え走り始める。


「おい何処に行くんだ。

俺も行く」


慌てて剣聖も榊原を追いかける。


曲がり角を曲がりる。

一歩遅れて剣聖も曲がる。


しかし、既に榊原の姿は無かった。


「...やっぱ黒かよ」


剣聖は怒りを滲ませながら市街地へと再び走り始めた。


榊原は、ワイヤーを使い建物の屋上に上がっていた。


「...随分と遅かったな。

御大も定刻に報告がないことに怒られておられるぞ」


「...旧友に出会いましてね」


「まあいい。

今の状況を照らし合わせよう」


目の前には、黒服に身を包み仮面で素顔を隠した者がいた。


「予定通り、目標を閉じめた。

そして、カットリ、ガースは死んだ」


「鉄の巨人。

カール。

この男が脅威か」


「...奴は厄介だ。

視野、洞察力。

全てにおいて次を見据えた動きをする」


「カールの対処はクリスに任せる。

彼ならカールを必ず対処できる。

目標は、数の差で圧殺する」


話がまとまった。

仮面の者がその場を後にする。


「...一つ教えておこう。

銀次は、医療棟にいる。

それと」


「失敗は許されない」


奴の顔がほんの少し笑ったように見えた。


「...分かった。

暗殺は俺の得意分野だ」


短い挨拶を交わし、榊原はその場を後にした。


(1番の問題は、剣聖の動きだ。

余計な事をしなければいいのだが)


カールは医療棟にいた。

周囲を警戒し、一人一人の動きに警戒する。


(暗殺者があいつはだけだとは思えない。

警備部隊すらも信用出来ない)


歴戦の勘が、警戒しろと警笛を鳴らす。


(コースとも連絡が取れない今、警戒するに越した事はないだろう)


足踏みをしながら銀次の手術が終わるの待つ。


手術室のランプが、赤から白へと変わる。


扉が静かに開いた。


「...終わったのか」


カールの声は低い。


出てきた医師は疲労を隠せない顔で頷く。


「一命は取り留めました。

...ですが」


その言葉が続く前に。


カールの視線が横に落ちる。


(何かいる。

足音を殺し、気配も消してる)


「動くな」


瞬間。


照明が一斉に落ちた。


非常灯が点かず、辺りが闇に包まれる。


(ブレーカーをやられたか)


呼吸音だけがやけに響く。


カールは目を細める。


(妙だ。

攻撃が来ない)


その時。


カールの顔に何かがかかる。


一瞬早く前に飛ぶ。


(液体)


一瞬遅れ、鼻を突き刺す匂い。


(薬品...違う)


遅れて悲鳴が聞こえる。


「下がれ」


鈍い音が響く。


悲鳴すら上がらない。


振り向くと医師の顔が爆ぜていた。


(鉄の匂い。

さっきのは返り血)


それに気づいた瞬間、カールは手術室へと飛び出した。


カールは闇の中を突き進む。

その間も思考は止めない。


前を進む侵入者もカールの気配に気づいた。


(想定より早い)


だが、既に条件は満たした。


(血を浴びた)


後は、時間の問題だ。


侵入者が指を鳴らすと一斉に灯りが灯った。


カールも足を止め、侵入者と向き合う。


ゆっくりと視線をあげる。

目の前にいたのはレジェンドの一人。

榊原だ。


「....政府の犬め」

カールは殺意を滲ませる。


呼応するように肉体が、変化を始める。

血管が浮きだし、筋肉は収縮し、より大きくなる。

肌には艶が戻り、白髪が血に濡れる。


「...血を浴び、若返る。

まるで吸血鬼だ」


瞬間、カールが飛び出す。

繰り出される拳は風を置き去りにする。


だが、榊原には当たらない。


カールの腹部に赤が刻まれる。


(デカブツは末端から削る)


榊原の刃は、既に振り終わっていた。


遅れてカールの腹部から血が吹き出す。


だが。


カールは止まらない。

むしろ一歩踏み込む。


榊原は即座に後ろに飛ぶ。

カールの拳に力が込められる。


「目視録」


震脚が床を打ち抜き、裏拳が飛ぶ。


凄まじい轟音と共に風が体を通り抜ける。


一瞬早く飛んだ榊原はギリギリで攻撃を回避する。

だが、風が刃となり、榊原の皮膚を薄く切り裂く。


(避けてこれか。

モロに喰らったら命はないだろうな)


榊原の警戒心がより一層上がる。


カールが一気に巻きにくる。

風すら切り裂く程の連打。


榊原は飄々といなしながらジリジリと下がる。


「避けてばかりで倒せるとでも」

カールの連打のスピードがさらに加速する。


掠りながらも榊原を捉え始める。


その時、榊原はニヤリと笑った。


「ああ。

勝つために避けているのさ」


瞬間、カールの拳から血が舞った。


「蜘蛛の巣は獲物を捉えるための罠」


カールが周囲に目をやると透明なワイヤーが張り巡らされていた。


「時には自らを囮に誘い込む」


既にカールは蜘蛛の巣にかかっていた。


ワイヤーは全身を縛り、肉を喰み、筋肉を割いていく。


「下手に動けば、輪切りになるぞ」


榊原が一歩一歩と後退りを始める。


(獲物は捉えた。

後は銀次だけだ)


「この程度か」

カールが口を開くと同時。


食い込んだワイヤーに力を込めて、一気に千切る。

肉体のあちこちから出血するが、それすら無視するパワー。


メキメキと音を立てワイヤーよりも壁が負荷に耐えきれない。


(ゴリラじゃなきゃ説明できないパワーだ)


しかし、未だ榊原の余裕は消えない。


耐えきれず、壁が崩落する。


直後。


「何」


カールの頭上に手榴弾の雨が降り注ぐ。


ピンは既に抜けている。


「策は幾重にも弄するものだ」


瞬間、大爆発。


辺りが爆炎に包まれる。


「流石に死んだだろう。

先を急がないと」


榊原が再び走り出そうとした時。


「手榴弾..とは..驚いた」


爆炎の中から声が響く。


「全て防げなかったが、直撃は免れた。

まだ...終わってないぞ」


全身を赤に染めながらもカールは悠々と立ち上がる。


榊原の表情が曇る。

そして自身の腰元に目をやる。


(使うべきか。

いやリスクが高い。

まだ絡め取れる)


榊原が髪を結ぶ。


「さあ本番と行こうか」

榊原がカールに向かって直進。


カールも迎撃の体制に移る。


(姿勢が崩れてる。

やはり、ダメージは残っている)


両者攻撃をいなしながらジリジリと削り合う。

今の状態なら榊原が一歩有利か。


だが。


「こんなものか」


既に立っているのだけでも限界の筈のカールの気迫がより増す。


一撃一撃がより鋭く早くなる。


自身の血を見た獣はより凶暴になる。


その時。


「おっと」


コロン。

と榊原の懐から何かが落ちる。


直後、カールの視界が揺れた。

並行感覚を保てず、膝をつく。

耳からは血が溢れ、キーンと音が鳴り響く。


(音響爆弾か)


無論、榊原も膝をつく筈。


だが。


「右腕貰うぜ」


榊原の刃が、肩の筋肉を削ぐ。


斬ったと同時に後ろに下がる。


カールの右腕が意思に反して、垂れ下がる。


「偶然、髪結んだ時に耳栓が入ったらしい」


その言葉を聞いたと同時にカールは自身の右腕を引きちぎる。


「...これは戒めだ。

罠を見破れない己の」


そして言った。


「これで違いに時間が無くなったな」


「自傷とはな。

後悔するのは自分だぞ」


(とは言えいつまでも相手をしている暇はない。

増援が来られると厄介だ)


再び榊原がスタートを切る。


狙いはカールの心臓一点だ。


カールは動きが鈍い。

その場から動く事も出来ていない。


「貰った」

榊原の刃が唸る。


カールは地面を思い切り踏み込み、必死に横にズレる。


直撃は免れたが、脇腹を掠る。


(まともに動けていない。

ここは畳み掛けるべきだ)


榊原が更に距離を詰めて蓮撃を喰らわせる。


カールは地面を蹴り、避ける事しか出来ない。

小さいダメージが積み重なる。


顔には疲労が滲み、皮膚の艶が無くなるにつれ、呼吸が荒くなる。


体力の消耗が、若返りの魔法を解き始めている。


榊原の懐から再び何か転がる。


カールは片耳を塞ぎ、後ろに飛ぶ。


だが。


(爆発しない)


先程とは違い一向に音が鳴る気配がない。


「ブラフだよ」


榊原は既に距離を詰めている。


(交わしきれない)


榊原の強靭が、カールの胸を捉える。


鼻には、鉄の匂いが充満し、口に血が溜まる。

音が遠のき、体から力が抜けそうになる。


再びカールは地面を強く蹴る。


慣性の法則で、一瞬榊原が前のめりになる。


突き刺さった刃への力が一瞬緩む。


(悪あがき)


榊原が地面に着地した瞬間。


床が抜け、榊原の片足が、床に食い込んだ。


「...時には自分を囮に誘い込む。

だったな」

カールの目からはまだ光がなくなっていない。


榊原の顔に焦りが見えた。


(地面を蹴っていたのは、床を抜くためか)


榊原が指先に力を込め、何かを飛ばす。


瞬間、カールが足を踏み抜く。


軌道が逸れカールの頬を掠る。


榊原が声を大にして叫ぶ。


「王手」


(足を切断する、いや間に合ない)


カール渾身の一撃が榊原の肉体を捉える。


凄まじい勢いで、榊原が壁に突き刺さる。

あまりの衝撃に周りのレンガも崩れ落ちる。


榊原の肉体に衝撃がほとばしる。


呼吸が乱れ、息が絶え絶えになる。

臓器に骨が突き刺さり、痛みよりも灼熱感が襲いくる。

あの頃に何度も味わった嫌な感触。


血が吹き出し、目の前が真っ黒になっていく。


カールは途絶えそうになる意識を強靭な意志で紡ぎ、滝のように流れ落ちる血を横目に榊原の安否を確認する。


正直、今の一撃で殺せなければ、かなり苦しい。


土煙が晴れるとそこには目に般若が宿る男が立っていた。

先程とは違う殺意に溢れ、どうなっても構わないと言う決意が漲った榊原が立っていた。


骨が折れ、突き刺さるほどの一撃なのに奴は血に笑い当たり前であるかのように立ち上がっている。


手には禍々しく歪んだ剣。

ポタポタと血と共に液体が垂れ、床を侵食する。


カールは本能的に悟った。


(あの刃を受けてはいけない)


「....出来れば使いたくなかった」


言葉とは裏腹に榊原は、その剣に自信を抱いている。


「名刀残命。

まあ、自称だが」


「しかし、指弾が読まれるとは。

経験のある老兵は厄介だな」


濁った血が床を黒く染める。

歪んだ刃が、光を捻じ曲げる。


「残命か。

なら全てをここで使いきれ」


カールが悠々と宣言した。

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