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英雄は今日も血に濡れる  作者: 年中暇な人
2章 在り方
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背負った傷

女は冷淡に吐き捨てる。


「サマーもカットリも犬死にでしたね」


一歩、踏み出す。


「あなたが守れたつもりでいただけです」


銀次の視界が、わずかに歪む。


女は淡々と続ける。


「あなたの判断が二人を殺したんですよ」


「これが現実」


銀次は何も言わずに前へと飛び出す。

得物を握りしめ。


(直情型。

読みやすい)


再び銀次の手元に何かが飛ぶ。

間一髪、それを弾く。

しかし...。


「.....」

銀次の手から血が流れる。

外したはずの攻撃が手を掠めている。


「いい顔だ」


女の唇が、わずかに歪む。

それを笑みと呼ぶにはあまりにも冷たい。


確かに弾いた。

それなのに。


(何が起きている)

目線を下に落とすとその正体に驚く。


(確かに弾いている)

クナイが地面に落ちていた。


一瞬、思考が止まる。


「人間は見たいものしか見ない」


クナイはあって当然のように転がっている。

銀次の警戒心が疑惑へと変わる。


(何を見落としているんだ。

クソ、焦るな)


再び女が前に飛び出す。

手には何も握られていない。


(見極めるんだ。

出来なきゃ死ぬだけだ)

銀次も遅れてスタートを切る。


再び銀次の眼前にクナイが差し迫る。


瞬間、銀次は凄まじい跳躍。

クナイは空をきる。


「故に当たる」


避けたはずのクナイが右太腿に突き刺さっていた。

甲冑ごと貫通している。

痛みのあまり、銀次は着地に失敗する。


(確かに避けた。

軌道をズラすとかじゃない。

もっと根本的な所)


すかさず女が追い打ちをかける。


「さあ逝きましょう」


クナイが首に差し迫る。


(仕方ない)


銀次は両手で首を覆いクナイの一撃を甲冑で弾く。


弾いた瞬間。


「ば、馬鹿な」


弾いたはずのクナイが脇腹を貫く。

またも甲冑ごと貫いていた。


(また外したのか。

違う。

まさか)


「さあトドメといきましょう」


「見切った」


女が言葉を言い切るよりも先に銀次が呟く。


「...ハッタリは通じませんよ」

女の顔が曇る。


銀次は両手を上げ高らかに言った。

「お前の攻撃はもう通じないって言ってんだよ」


「強がりを。

ならその口ごと叩き切りましょう」


女が迫る。


銀次も前に出る。


四度目のクナイが銀次に差し迫る。

狙いは銀次の喉だ。


(軌道、角度じゃない。

なら答えはこれだ)


銀次は、クナイを意に返さず、前へと出る。

クナイは手に突き刺さる。


(ここだ)


空から何かを銀次が捉えた。

銀次の手には、2本目のクナイが握り締められていた。


「本命は見えていない一撃か」


銀次は口の端を歪める


「一本目はフェイク。

視線を誘導し、意識外から二本目を投げていた」


銀次は2本目のクナイを軽く握る。


「種が割れたな。

マジシャン」


銀次が投げたクナイが女の顔を横切る。


「...不愉快」


目線が銀次の手に落ちる。


「....あり得ない」


本の小さな声だった。

だが、先程までの余裕はそこには無かった。


「...もう終わっています。

既に」


女が、微笑む。


「貴方が気づいていないだけで」


その瞬間。

僅かに空気が揺れた。


(うしろ)


銃声が轟く。

銀次の背中を凶弾が貫く。


あまりの勢いに銀次は前のめりに倒れ込む。


女が愉悦に浸った声で言う。


「死人に口無しです」


女は勝ち誇った様に宣言する。


「終わりです」


女の号令と共に銃声が響く。

筈だった。


「...だから冷静に行動しろと言ったんだ」


聞こえてきたのは断末魔。


狙撃手の脳天には鉛筆が刺さっていた。


「クソ」

女が入り口に向かって走る。


その時、風が僅かに揺れる。


「...動けば殺す」

ガースが背後を取っていた。


「ガース、それにカールまで」


「...偶々居合わせただけだ」


女の顔から余裕が消えた。


「さてと話て貰おうか親玉の事を」

銀次はゆっくりと女の方に近づく。


その時。


「待て銀次。

私がそっちに行くまで、動くんじゃない」

カールが叫ぶ。


「...言った筈ですよ。

既に終わっていると」


「ガース、銀次。

後ろに飛ぶんだ」


カールが外から声を上げる。

次の瞬間。


空気を裂く程の轟音が室内から響き渡る。

部屋は業火に包まれ一気に燃え広がる。


「銀次、ガース」


(間に合うか)


カールは、落ちてくる瓦礫を足場に部屋の中へと駆け上がる。


中は煙と血の匂いに包まれている。


中心には焦げ跡だけが残っており、女は爆死した様だ。


(銀次とガースは何処にいるんだ)

カールは瓦礫を払いのけ必死に二人を探す。


声を掛けても帰ってくるのは炎の音だけだ。

長くいれば自分も助からないだろう。


「...る。

かー..る」


炎の中で声が聞こえる。

弱い声だが、まだ確実に生きている声だ。


(この声、銀次か)


一縷の望みに掛けて、声が聞こえた炎の中を進む。

皮膚が焼け嫌な匂いが立ち込める。

それでもカールは前へと進む。


その先の光景にカールは絶句した。


目の前にいたのは既に事切れたガースとかろうじて生命を紡ぐ銀次がいた。


ガースの背中は爆傷に晒され酷い火傷を負っていた。


銀次は重症ではあるがギリギリ致命傷を負ってはいなかった。

だが、呼吸は浅く目も虚だ。

直ぐにでも手当をしなければ死んでしまいそうなほどに。


「...ガースが守ってくれたんだ」

銀次が声を振り絞り、答える。


「怪我で動けない俺に覆い被さって、自らを盾にしたんだ」


(このままだとまずい。

せめて銀次さんだけでも)


ガースは即決した。


「ガース。

俺はいい。

早く飛べ」


銀次も即決する。

もう誰も失いたくない一心で。


だが。


「あんたは死んじゃダメなんだ」


ガースは銀次の言う事を無視して、銀次に覆い被さる。


「馬鹿野郎。

若い奴が死んでどうする」


銀次は怒号と共にガースを払い除けようとした時だった。


「...俺はアンタに救われた。

今度は俺が救う番なんだ。

これが俺の出番なんです。

銀次さん」


その言葉を聞いて銀次は動けなかった。

ただ優しくガースを抱きしめていた。


「俺はまた守られた。

どうすれば良かったんだ」

銀次が声にならない叫びを上げる。


カールは銀次を背負い炎の中を駆け抜ける。

そしてこう言った。


「...生きろ。

死んだ奴らの分まで」


その声は、慰めにも決意にも聞こえた。


焼け落ちる室内を後にガースは安らかな眠りについた。

銀次は最後まで顔を上げられなかった。

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