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英雄は今日も血に濡れる  作者: 年中暇な人
2章 在り方
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ブラックコード 異常事態

コードブラックが発令されました。

市民の皆様は直ちに帰宅し、戸締りを怠らないで下さい。

これは訓練ではありません。

繰り返します、これは訓練ではありません。

幹部の皆様は至急管理棟、会議室に集合して下さい。


街がけたたましいサイレンに包まれ皆移動を始める。

民衆の動きに戸惑いや混乱などはなくまるでごく普通の事であるかのような振る舞いをしている。


商店の男は慣れた手付きでシャッタを下ろし二重に施錠する。


門は閉まり、シャッターのような者が街全体を覆う。


管理棟から追跡用のドローンと警備員が慌ただしい表情で街の中を散策し始めた。


管理棟の人間はドローンを通じて警備員に的確な指示を飛ばす。


街全体がシャットアウトされた。

逃げ場はどこにも存在しない。


管理棟。

会議室室では....。


「コードブラックとは思い切りましたね。

やはり政府の手の者が侵入したのですか」


防衛担当カットリ。

ゴールドラッシュ全体のシステム管理、防衛の前線に立っている幹部。



「すまないカットリ。

今はまだ私自身混乱しているのだ。

少し状況を整理させてくれ」

心を落ち着ける為に銀次は一定のリズムで机を叩く。


「市民は訓練の成果から落ち着いて行動してます。

今の所混乱や暴動は起きておりません」


警備隊長ガダッズが報告する。


「....そうか。

ひとまずはいいとしよう」

銀次は小さく呟く。


「排除対象の特定は?

目標は誰ですか」

カットリが続ける。


銀次は一瞬だけ沈黙した。

そして覚悟を決めたように言った。


「確定はしていない。

しかし、可能性は高い」


その一言で会議室の空気はさらに重くなる。


「いや可能性ではない。

既に確定されている」


「何者だ」


一切の音もなく侵入してくる影が二人。

A級ハンターのガースとコース。

その目には一切の光がなく殺すという必殺の決意だけがあった。


ガースはカットリに有無をいわせずに続ける。

「コードブラックが発令された以上銀次さんには絶対的な確信があると言う事だ。

ならばやる事は決まっている。

怪しい奴を始末する事だ」


「いや下手に動く事は私が許さない。

相手は相当な手練だ。

君達ですら手を焼いた賞金首を二人も殺害している程だ。

勝手な行動は慎め」


「ならどうするおつもりで。

コードブラックを発令した以上何かしらの行動はしないと。

市民への知らしめがつかないですぜ」

ガースが反論する。


「...黙れ。

勝手に行動するリスクについて何度も説明したはずだぞ」


その一言で会議室が凍りついた。


コースは舌打ちをし、苛立ちを抑えられない様子だった。

血管は浮き出し、今にも飛びかかりそうになっていた。


「コース。

落ち着け。

侮辱された訳じゃない。

俺が付いているだろ」

その一言で辛うじて怒りを抑えたのかコースの表情が少し和らいだ。

しかし、銀次を見る目は獲物を狩る猛獣の目だった。


一瞬の沈黙の後、銀次が口を開く。


「...すまないガース。

少し感情的になりすぎた。

私が言いたかったのは命令を無視して逝ってしまった幹部の二の舞になると言う事だ。

奴は確かに実力はあった。

しかし、いや、私の実力不足のせいだがな。

君達まで死なれるリスクを取る訳にはいかないのだ。

それにコードブラックが発令された以上街は生きた牢獄と化す。

蟻1匹逃げ出すことなど出来ない」


銀次の言葉に誰もすぐには返せなかった。

ガースでさえ僅かに視線を逸らす。


コースは目に涙を浮かべ逝ってしまった仲間を想っている様に見えた。


静寂に包まれ会議室の空気をさくようにドアがいきなり開かれた。


「こんにちはそして永遠にバイバイ」

言葉と同時、手榴弾が傾れ込む。

あまりに突然の出来事に皆対応出来ない。


しかしコースだけは既に動いていた。

放たれた手榴弾をドアに向けて投げ返したのだ。


しかし手榴弾はいつまで立っても爆発しない。

その事にガースが気づく。

(手榴弾はフェイク。本命は他にある)


「こんにちは」

その声は室内から聞こえた。

全員の視線が一斉に動く。


いつの間にか一人の男が立っていた。

音も気配も侵入した痕跡すら無かった。


「初めまして」

男は軽く頭を下げる。


その手には。

カットリの首があった。

男の足元には頭部が無くなったカットリの体があった。


誰も声を出せなかった。

ついさっきまで会話していた人間が、物言わぬ肉塊になっている。


直後コースが猪の如き突進を見せる。

狙いは男の心臓ただ一点のみ。


だが既に男の姿はない。

男は銀次の背後にまわっていた。


「すみませんね。

土産も無しに上がってしまって。

恨みはないですが死んでください」

男の手が銀次の首元へと走る。


「良かった。

お前が肉体を欠損させてくれたお陰で守れる」


コースがそう呟くと男が後ろに体を逸らす。


なんとカットリの死体が男に向かって飛んで来ていた。

骨が軋む音を立てながら、首の無い体が弾丸のように飛ぶ。


「治癒魔法 魂の共鳴リスニング・ソウル


「面白い発想だな。

治癒魔法を回復でなく攻撃に応用するとはな」


男は既にコースの背後にいた。


「逆転の発想。

首を引き合う為の磁石にするとはな。

恐れいったよ」


男の腕がコースの首にかかる。

「だが死んだら意味ないがな」


「重力魔法 万狂引力ユニバース・グラビィ


ガースの声と共に周囲のものが四方に浮き始める。

それに例外はなく皆宙に舞う。


「お前知っているぞ。

確か殺し屋バックス。

瞬間移動するスキルを持っていると聞いた事がある」


ガースの言葉にバックスは目を丸くする。

「僕ってば、そんなに有名になっていたんだ。

ちょっと照れるな。

でもブラックコード?

僕を閉じ込めたのは良いけど追い詰められているのは果たしてどっちなんだろうね」


「いや追い詰められているのはお前だけだ。

少なくともここにいる限りはな」


重力が更に負荷をかける。

空中に浮いていた長机が徐々にひしゃげていく。

コースの筋肉が膨張する。

血管が浮き出し、歯を食いしばる。


バックスは肩をすくめた。

「なるほど。

確かに追い詰められている様だ。

でも以前問題はない」


次の瞬間、消えた。

ガースの瞳が揺れる。

奴は既に扉の前に現れていた。


だが。

「当たった...。

馬鹿な」

バックスの額から血が流れていた。


「お前の能力は瞳に映った直線を移動する能力。

だから視認出来ないし、瞬間移動した様に感じる。

でもこの場所なら位置は予測出来る」


バックスの前には銀次が立っていた。

そして続け様に言う。


「気づいたんだろ。

重力の負荷が大きくなっていると。

このままでは圧死するリスクがある。

一度この空間から脱出し、再度命を狙えば良いと。

そうなれば軌道はある程度予測出来る」


バックスは笑いながら呟く。

「読まれたのはあんたが初めてだ。

だからこそ消さなくてはならない」


全員が獲物に手を置き次の動きに備える。


「と思ったけど今日のところは帰るわ。

あばよ」

なんと奴は一直線に窓の方へと移動して行く。


「逃す訳がない」


「重力魔法 遠心加速センチュリー・ブースト


空間にある物体が、バックス目掛けて縦横無尽に飛び掛かる。

しかし、既にバックスの姿は無かった。


背後から声が聞こえて来た。


「暗殺は俺の得意分野。

やはり追い詰められているのはアンタらの方だぜ。

後、生き残った褒美に一つ教えてやるよ。

移動するのは俺とは限らない」


ドアの開く音だけが会議室に響き渡った。

醜悪な笑い声と共に。


窓の方に目をやると小石が落ちていた。

奴は逃げる時ですらフェイクを交えていたのだ。


(思い込む事はリスクだ。一旦整理しなくては)

銀次は冷静に心落ち着けようとする。

だが落ち着ける訳が無かった。

信頼し、ここまでやって来た部下がまた一人逝ってしまったのだから。


誰も声を上げなかった。

ただ仲間の死を悼むだけで精一杯だった。


だがガダッズは違った。

(コードブラックは外部からの侵入があれば直ぐにでも警報システムが発令する。

例え奴が能力で侵入していたとしてもだ。

考えられるのは。

この中に裏切り者がいる可能性だ)



ゴールドラッシュ市街地

黄金の都市と呼ばれている街は静寂に包まれていた。

いつもなら労働者が溢れ活気がある生きた街。

しかし、今は虫1匹いない死んだ街と化していた。

覆われた街は昼か夜かの区別も付かず、月明かりすら届かない。

街灯の灯りだけが唯一の光なのだ。


そんな中、暗闇の中を歩く影がある。


「それにしてもまさか一撃くらうとは。

少し油断し過ぎたな。

金山銀次。

情報によれば、元サラリーマン。

...とは思えない勘の良さと洞察力。

どん底人生の経験がリスクを回避する力を貸しているのか」


バックスは額の血を拭い闇の中で笑った。

「まあいいか。

だがこれで植え付ける事が出来たはずだしな。

思い込みというのはほんとに恐ろしいからな」


街灯の光が一瞬、彼の顔を照らす。

映る顔は醜悪に笑う悪魔だった。


ふと視線を横にずらす。

バックスの顔から一瞬笑みが消える。


「へぇ。

来ていたんだ。

久しぶりだね。

榊原。

隣にいるのはお友達?

ってな訳ないか」


「....生きてやがったのかクソ野郎が」

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