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英雄は今日も血に濡れる  作者: 年中暇な人
2章 在り方
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賞金首ブラック・ターバン

「それにしてもアイツは何だったんだ。

いきなり襲いかかってきたが」


「あれは賞金首だろうな。

ゴールドラッシュでは珍しくもない」

榊原は言う。


「ゴールドラッシュは誰でも入国出来る分、犯罪者が紛れ込む事も少なくない。

さっきの奴はゼイビアだ。

マッドサイエンストとして有名な奴」


剣聖が怒鳴った。

「知っているなら先に言ってくれよ。

死ぬかと思ったぜ」


「君に言ったら嬉々として戦うだろ。

だから言わなかったんだ。

面倒事ばかり起こすからな君は」


剣聖はイラついているが何も言い返せず視線を逸らした。


「ほらみろ図星なんだろ」


拳を握るだけで剣聖は何もいえない。


「無駄話はこれくらいにしよう。

市街地まで後2キロもある。

日が暮れてしまう前には着いておきたいしな」


剣聖は小さく舌打ちをし、足元の小石を蹴った。

「...相変わらず嫌味な奴だなお前は」


「事実を述べただけだ」

榊原は肩をすくめそれ以上は何も言わなかった。


(こんなんならまだクリスと一緒の方が良かったぜ)

剣聖もそれ以上は言わずに視線を逸らした。


(にしてもアイツらは平気なのか?

まあやられるような弾じゃねーか)


その頃。


辺りは次第に暗くなる。

近くに聳える山々が太陽を遮り冷たい風を運ぶ。

近くには誰もおらず鉱脈を探した後だけが残っている。

古びた看板にはこの先、労働場とだけ書いてある。


「...いい加減出てきたらどうだ?

まだバレてないとでも思ってんのか」


風が看板を軋ませる。

返事はない。

だが空気が僅かに揺れ動いた。


一人影から出てきた。

小柄な男だ。


「一人とは男らしい奴だな。

でも3対1でも容赦はしないぜ」

烏丸の言葉を聞いていないかのように男はぬるりと前に出る。

独特な足取りで一切の音が出ない。


「投擲魔法 追跡弾(ホーミング•ブレット)」

鈍い音と共に男が後方へと吹っ飛ぶ。

回転した球が男の顔面に突き刺さった。


「時間がないんだ。

あんたに構ってる余裕はない」


クリスと烏丸は既に歩き始めていた。

結末を最初から知っていたかのように。


「待て」

常田が声を上げる。


転がっているはずの男がそこには居なかった。

まるで最初から存在していなかったかのように。


「大人しくしてれば良かったのにな。

苦しまずに殺してやったのに」

何処からか声だけが聞こえてきた。


「何処にいるんだ。

近くに気配はないぞ」

烏丸が狼狽の声を上げる。


「ウイルスってあるよな。

あれって目に見えず体内に侵入するよな。

あれってほんと恐ろしいよな。

知らず知らずの内に内側から殺されていくんだ」


「まだ気づかないか?

俺が何処にいるのか」


その一言で空気が凍る。


常田の喉が鳴った。

「...体内」


「今更分かった所で意味はないけどな。

お前らが死ぬという結末は変わらない」


「まずはテメェからだぜババア。

よくも俺の顔面に球なんぞぶつけてくれたな。

今少し能力を発動するのが遅かったら死んでいたぜ」


瞬間。

常田が地面に膝をついた。

身体が震え呼吸が乱れる。


「常田さん」

烏丸が駆け寄ろうとする。


「動いてんじゃねーよ。

既にお前達の体にも侵入していると気づかないのか」


「下手に動けばこのババアの脳みそを破壊する。

お前らは指でも咥えて見てな」


三人は至って冷静だった。

烏丸が呟くようにこういった。


「まだ分からないのか?

追い詰められているのはどっちなのか」


「負け惜しみか?

既にお前らの敗北は決定したことなんだぜ」


烏丸は少し笑い言った。

「いやお前の負けだぜ。

敗因は俺たち三人を同時に襲った事だ」


男が激昂し叫ぶ。

「ババアだけ殺そうと思っていたが、お前ら同時に殺してやる事にしたぜ。

脳みそぶち撒けてやがれ」


「何回も言わせんなよ。

既にお前は負けてんだって」

烏丸が己の肉体に手を置く。


「爆発魔法 連鎖爆発(チェーン•エクスプロス)」


鈍い破裂音が烏丸の体内に響き渡る。

男の歪んだ声が聞こえてくる。


「爆発の対象はお前の肉体の一部だ。

早いとこ出ないと一部とはいえ体がバラバラになるぜ」


「このクソッタレが。

舐めてんじゃねーぞ。

なら他の奴から殺してやる」


次の瞬間。

「筋力解放20%」

クリスの筋肉が隆起し、血管が収縮を始める。


体の中でメキメキと音を立てて何かが呻き声を上げる。


「圧死したくないならさっさと出て来い」


「クソッタレが」


三人の体から何かが飛びだし人の形を成していく。

しかし所々ダメージがある。

致命ではないが無視出来ない程のダメージ。


「肉体は分裂、そして分解して小さくなる。

それがあんたの能力かい。

厄介だが、あたしらの敵じゃないって事だよ」


男は激昂し、甲高く叫ぶ。

「甘く見ているな。

お前ら俺を軽く考えてんだろ。

そこがお前達の敗因なんだよ」


突如烏丸の喉の辺りが異様に膨らみ始める。

血管が浮き出し内部から何かが飛び出そうとしている。


「さっき出てくる時、置いてきたんだ。

お前らの喉を破裂させるためにな」


烏丸の喉の皮が裂け今にも破裂しそうにまで膨らんでいる。


「勝った。

まずはテメェから苦しんで死んでいけ」

男の愉悦に浸った声がこだまする。


「投擲魔法 追跡弾(ホーミング•ブレット)」


常田の球が飛ぶが男は肉体は小さく分裂して避けられてしまう。


「ボケてんのかババア。

小さく分裂して避けられるって自分で言ってたばかりだろこのウスノロが。

このままお前の体内に再び侵入して殺してやるよ」


男が迫った時。


「やっぱり。

思った通りだ」


男の動きが止まり空間から声が聞こえる。

「何。

今何て言った。

思った通りだと言ったのか」


常田が続けざまに言う。

「あんたは能力を同時進行で使う事が出来ない。

その証拠に烏丸の喉の爆弾が動きを止めた」


「だからなんだって言うんだ。

俺の体を戻せばいいだけの話だ。

既に喉の爆弾ははち切れそうになっているんだからな」


烏丸が笑った。

「ボケてんのはお前の方だぜ。

俺は魔法で爆発を起こす事ができる。

既に俺は空気に触れている。

空気を爆発できる状態にしておいた。

後は言わなくても分かるだろ」


烏丸が指を鳴らす。

同時爆発音が響き渡る。

男の叫び声が響く。


だがなんと烏丸の喉の膨張が再びスタートを始める。


「甘く見てんだろ。

たわいもない敵だってな」

男は能力を解除していた。


烏丸の喉からガラス瓶が顔を覗かせる。

血に濡れながらも、それは確実に爆弾として脈をうっている。


「これで終わりだ。

一緒に逝こうぜ」


まさに喉から飛び出す瞬間だった。

鈍い金属音と衝撃が走る。

背後から寸分の狂いもなく爆弾だけを破壊していた。


(まずい早く分裂しないと)

男の思考が走る。

だが。


「終わりだな」

クリスの腕が男の顔面を掴んでいる。

つかむ腕は万力の力を彷彿とさせる力を持っている。


「な、なんだと」

分裂しようとしても圧力で無理やり一つに固定される。


「いくら強力な能力を持っていようとも、使えなければ意味がない」

さらに力が込められる。


「クソ..離せ..やがれ」

声にならない悲鳴。


だがクリスは一切力を緩めない。


その瞬間。

「投擲魔法 追跡弾(ホーミング•ブレット)」

常田の放った一撃が奴の顔面へと飛ぶ。


逃げ場はない。


分裂することも出来ない。


クリスの腕に固定されたまま。


「クソッタレが...」


男の頭部が弾け飛んだ。

力なく地面に崩れ落ちた。


「一人ずつなら可能性はあったかもな」

クリスが嘲るように言った。


常田は何も言わず先に歩き始めていた。

何事も起こっていなかったかのように。


「急ぎましょう。

日が暮れる前には着かないと」

烏丸も常田の後を追う。


クリスは舌打ちを一つしてその場を後にした。



ゴールドラッシュ管理棟。

ゴールドラッシュに関する全ての機能をここで管理している...。


金山銀次自室。


「銀次様ご報告致します。

賞金首ゼイビア及びブラック・ターバンが何者かによって殺害されました。

いずれもA級の賞金首です」


銀次は感嘆の声を上げた。

「ハンターですら手を焼いている二人を倒す者が現れるとはな。

どこの善人だ?」


部下は狼狽る。

「それが...。

現場が市街地から離れた場所で目撃情報や監視カメラにも映っておらず...。

現在調査を進めています」


銀次はゆっくりと椅子を傾け背を預けた。

指先で軽く机を叩き口角を上げた。


「しかし相当な手練と見て間違いないな。

ただの善人ならば良いのだが」


「新しい情報が入り次第またご報告します。

それでは失礼します」


「ああ。

頼むよ。

報告ご苦労様」

部下は暗い表情のまま自室を出ていった。


扉が静かに閉まる。

一瞬の沈黙が落ちた。


しばらくの間、銀次は天井を見上げていた。

机は規則的に叩かれた音だけが響き渡る。


「...万が一政府の者がここに来ていたとしたら。

どちらにせよ見極める必要性がある。

なんにせよこのゴールドラッシュを獲られる訳にはいかない。

...あまり気は乗らないが万が一がある」


銀次は震える手を押さえ受話器に手を伸ばす。

そしてゆっくりとした口調で部下に指示を飛ばす。


「コードブラック。

意味が分かったらすぐに実行してくれ。

最悪、殺害も厭わない」


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