計算外
剣聖が踏み出す。
迷いはない。
一歩、また一歩と歩み続ける。
地面が連続して爆ぜる。
爆音と炎が視界を潰す。
それでも止まらない。
「...興味深い」
男の首が僅かに傾く。
「その動き中々いいではないか。
単純だが的を得ている」
榊原が抱いた違和感。
まさか。
(起爆には僅かなズレがある)
榊原も走り出す。
そして剣聖に指示を飛ばす。
「一拍置いて前に飛べ」
呼応するように地面が弾ける。
瞬間二人の身体が宙を舞う。
しかしその延長線には敵の姿があった。
「爆風を利用して飛んでくるとは。
少し計算違いが出ましたね」
「ですがそれも修正済みですが」
突然突風が舞い込む。
宙を舞う二人の身体も後ろに吹き飛ぶ。
「私がこうなることを予想していないとは思っていませんか
仲間を連れてきたんですよ」
(まずいこのままだと地雷に突っ込む)
榊原の思考が加速する。
(風、角度...。
危険だがやるしかない)
「剣聖、体を撚れ、右に」
空中で無理やり体勢を変える。
だが間に合わない。
着地地点の地面が弾ける。
轟音。
衝撃。
だが。
「....舐めやがって」
剣聖は強引な体勢で地面を蹴り軌道をずらしていた。
榊原は懐からワイヤー取り近くの岩に括り付け難を逃れていた。
男は目を細め驚いていた。
「これも対応出来ますか」
「では次は逃げ場を消しましょうか」
男が指を鳴らすと男の後ろから小柄な女が出てきた。
何を言う訳でもなく男の指示を待っているようだ。
「ああ彼女は気にしないでください。
最近作った発明品の一つでね。
俗に言うロボットってやつでねぇ」
「命令さえすれば何でも言うことを聞くペットなんです」
「イカれ野郎が」
刀を握る剣聖の手に血管が浮き上がる。
「俺はお前みたいに人を物として扱う奴が大嫌いなんだよ」
怒りと共に剣聖が飛び出した。
「天音、風」
「はい。
マスター」
天音が手を前に突き出し何かを放出し始めた。
異変に気づいた榊原が叫ぶ。
「剣聖、前にでたらダメだ」
瞬間。
剣聖の肉体が後方へと吹き飛ばされる。
剣聖の肉体は思い切り地面に叩きつけられる。
吐血と共に内部へと手痛いダメージが響く。
男は少し不満げに言った。
「天音、次はない。
地雷原の方に落とせ」
「分かりました。
マスター」
再び剣聖へ向けて何かが放出される。
必死に逃げる剣聖を滑稽だと男は笑う。
「おい榊原お前も援護してくれ」
だが榊原は動かない。
返事すら返さない。
男は不気味に笑う。
「ふふふ。
仲間にも見捨てられてさぞ心苦しいな。
今楽にしてやる」
「クソ。
やっぱりテメェと来るんじゃなかった」
「さあ天音。
奴を地雷原に吹っ飛ばしてしまえ」
「了解。
マスター」
天音が手をかざす。
空間が歪む。
そのまま地雷原へ。
「終わったな。
なにもかも」
男が愉悦に歪んだ顔を見せる。
その時。
「俺が返事をしないのは見捨てたからじゃない
待ってたんだよ」
剣聖の足元に細いワイヤーが括り付けられている。
「馬鹿な」
男の目が初めてこちらに合った。
榊原は既に動いていたのだ。
剣聖の体がワイヤーに引かれ、軌道が変わる。
地雷の隙間へと叩き込まれる。
「榊原。
お前」
「言っただろ。
無駄話は嫌いだと」
剣聖が地面に着地する。
膝を着きながらも顔を上げる。
血を吐きながら笑う。
「最初から言ってくれよ。
ヒヤヒヤしたぞ」
榊原は敵から目を離さず言った。
「お前に言ったところで聞かないだろ」
「それとお前。
さっき人を殺すために必要な物がどうとか言ってたよな」
榊原が言う。
「黙れ。
勝った気でいるようだがお前らはまだ地雷原にいるんだぜ。
それにこっちには天音もいる。
一回交わしたくらいで調子に乗るな」
「剣聖先を急ごう。
ただでさえ無駄な道草を食った。
予定が狂うのは耐えられん」
男の言葉を無視し、榊原は歩き始めた。
剣聖も何か聞く訳ではなく歩き始める。
「舐めやがって。
天音や」
言葉を言い終わるよりも先に男は異変に気づく。
天音は既に機能を停止していた。
「ば、馬鹿な」
「ちょっと心苦しいが攻撃してくるなら仕方ない。
ちょいと眠ってもらったよ」
(まさか。
あの時か)
男は激昂しながら叫ぶ。
「馬鹿か。
お前らを殺す方法はまだまだあるんだぜ」
奴が懐に手を入れたその時。
カチ。
男の顔が強張る。
「お前の言う通り人を殺す方法は科学だったな」
榊原は冷徹にそう告げ剣聖と共に歩き始めた。
静寂に包まれた空間を切り裂くように小さな音だけがこだました。




