残光
今も忘れられない。
師匠を殺した日の事を。
同期の顔を。
死に行く奴らの顔を...。
バックスは作り笑顔で笑った。
「久しぶりの再会って言うのに随分と冷たいんじゃない?」
言葉とは裏腹に視線は凍っていた。
「親友...なんだからさ。
仲良くやろうや」
榊原は何も言わずただバックスの目を睨むだけだった。
榊原の目つきは死んでおり、軽蔑している様にも見えた。
「おい榊原どう言う事だ。
説明してくれ。
誰なんだこいつは」
榊原は一瞬、コチラに目をやるだけで何も言わなかった。
剣聖も奴の意図を汲み言う。
「...後で必ず説明してもらうからな」
剣聖は一歩引きそれ以上は動かなかった。
ただ刀に手を置くだけで。
バックスが一歩前に踏み出す。
「変わらないねぇ。
クールで無口。
何も語らない」
「その目だよ。
人を冷徹に見る凍りついた目。
人を物の様に扱える精神。
何にも変わってない。
変わる事なんて出来ないんだよ。
お前は」
榊原の指が僅かに動く。
だが、片方の腕でそれを抑える。
「言ったこと間違ってるか?
だからお前は強いんだよ。
だから気に入られていたんだ。
師匠に一番似てたから」
怒りの糸が切れた様に榊原が懐からナイフを取り出す。
狙いは奴の喉。
だがバックスは分かっていたかの様に避ける。
そして榊原の伸びた腕を掴みナイフを取り上げて榊原の喉元に突き付ける。
「本質は変わらない。
お前は俺と同じ薄汚い殺人鬼なのさ。
イカれたサイコ野郎なんだよ」
榊原は何も言えなかった。
突き付けられたモノがナイフではなく否定して来た現実だと実感したからだ。
この時、剣聖は感じていた。
(あいつ殺気がない。
殺すつもりが全く感じられない。
何を企んでいるんだ)
何も言えない榊原を尻目にバックスは高笑いをする。
嘲笑う様な軽蔑の意味が籠った笑い声だった。
「皮肉だよな。
いつも言葉で敵を崩して来たお前が逆に言葉で追い詰められているんだからな。
滑稽だね。
元組織ナンバー1とは思えない醜態だな」
ナイフと共に榊原がその場に崩れ落ちる。
常に冷静で冷徹な彼が崩れる姿を見るのは剣聖にとっても初めてだった。
「過去は向き合うものではなく立ち向かうものである。
師匠が良く言ってたっけ」
バックスがその場に座り込み榊原に耳打ちをした。
その言葉を聞いた榊原が驚愕の表情を浮かべた。
「まあそう言う事だ。
僕も忙しいからこの辺で。
あ、後後ろの君。
襲いかかるつもりなのは良いけど正直言って酷すぎる。
僕なら6回は殺せるね。
君のこと」
そう告げバックスは闇の中に消えて行った。
「ああ言う奴ってのは失敗を知らない。
だからこそ一度徹底的に折っておかないといずれ大きな過ちを起こす。
って言うのは建前で実際の所は結構スカッとしたりして」
「相変わらず趣味の悪い男だな。
正直お前と同類なんて思われると恥ずかしいぜ」
「あら来てたんだ。
てっきり僕一人だと思ったけど」
闇の中から新たな影が出てくる。
「お前一人だと暴走するリスクがあると判断された。
それにここまで連れて来たのは俺だと言うのを忘れてないか」
「そうだったねサール。
つい忘れてた」
「...いつもそうだお前は自分勝手に行動してその尻拭いを俺がいつもいつもやってやってるてのにお前は感謝どころかつけ上がる。
やっぱりここで殺すか。
いやそれは組織取ってとは大きな損失になってしまう。
だがここで殺さなければ俺のこの心が癒される事はないし」
「サール。
パイナップル味の飴玉」
バックスが手に飴玉を置いた瞬間にサールは飴を口に放り込んでいた。
それをゆっくりと口の中で転がし、味を丁寧に堪能している。
「ふぅー。
落ち着くな飴玉は。
やっぱり糖分ってのは偉大だよな」
(こいつ優等生ぶっているが一番やばいのは自分だって事、分かってないのか)
「今回は飴玉さんに免じて見逃す。
だが次はないぞ」
目からは冗談ではないと言う覚悟が感じ取れた。
「でボスはなんて言ってんだ。
それも含めて僕に伝えに来たんだろ」
「ボスはリスクを回避するため俺にお前の援護を命じて来た。
だから何度か助けてやっただろ。
まさか勘付かれてないよな」
「...そうだな。
多分平気だろう」
サールはバックスの胸ぐらを掴み言った。
「お前今目を逸らしただろ。
目を逸らす時は必ず嘘をつく時だ。
バレたんだな。
俺の能力が」
バックスは何も言えず目を逸らす。
「...ここでやり合っても仕方ない。
だがお前の能力はまだバレて無いんだよな」
バックスは首を縦に振る。
「よしなら良い。
とにかく銀次を暗殺しに行くぞ」
バックスは首を縦に振る。
「いい加減にしろ。
別にキレてないからちゃんと言葉を発しろ。
首を振られる方がイラつくんだよ」
(やっぱりこいつの方が狂ってやがるぜ)
バックス達は再び銀次の首を取るために動き出した。
闇が完全に静まり返る。
足音も、気配も、もう何もない。
残されたのは二人だけだった。
剣聖はゆっくりと刀から手を離す。
「……行ったか」
返事はない。
榊原は地面に膝をついたまま、微動だにしない。
その姿は、まるで壊れた人形のようだった。
「....違う」
言葉に反応して剣聖が近づく。
「大丈夫か。
何を言われた。
何が違うんだ」
榊原は頭を抑え狼狽える。
呼吸が乱れ今にも爆発しそうになっている。
「おい、大丈夫」
剣聖が肩に手を置こうとした時。
首元にナイフが走った。
ハァハァと息を切らしながら榊原が剣聖に向けて刃を向けた。
やっと我に返ったのか榊原は手からナイフを落とし、疼く待って怯えていた。
(今のは...無意識か)
榊原は自分の手を見つめていた。
震えている。
止められない。
「この手は汚れている。
拭いきれない汚れがくっ付いているんだ」
「でも俺は違う。
違う...んだ」
言葉を溢し榊原は再び疼くまった。
いつもの自信に満ち溢れた姿ではなく希望を見失った人間の姿に見えた。
「なら証明しろ。
初めて会った時、お前が言った言葉だ」
榊原の動きが止まった。
その一言は重かった。
しばらくの沈黙が辺りに流れる。
それを断ち切る様に榊原がゆっくりと立ち上がる。
足元はまだ不安定だ。
だが、倒れない。
「....過去に立ち向かう時がきた。
って訳か」
その言葉に迷いは無かった。
先程とは違う決意に満ち溢れた声だった。
剣聖は小さく息を吐く。
「...何があったんだ」
榊原の目が剣聖に向く。
「これは俺の問題だ。
お前が介入すべき事じゃ無い」
榊原はそれ以上は何も言わない。
いやはなから話す気などないという態度だった。
ゆっくりと目を閉じる。
何かを思い出す様に。
そして覚悟を決めた様に言った。
「...私情を挟む必要などない。
任務が優先だ」
再び榊原は歩き始める。
何も言わず。
振り返る事もせず。
ゴールドラッシュ管理棟 会議室
仲間の死を悼む暇も無く現場はひりついていた。
ガダッズの言葉によって。
「裏切り者がいるってどう言う事だガダッズ」
銀次が問う。
「ブラックコードが発令されているんですよ。
許可されていない者が侵入、あるいは内部にいた場合は即座に警報が鳴るはずなのにそれが鳴らなかった。
考えられる可能性は裏切り者がいたとしか考えられない」
「少し落ち着けガダッズ。
今整理しているんだ」
銀次の言葉を無視してガダッズは宣言した。
「私はガース、コースが怪しいと思います」
ガダッズの言葉に空気が一瞬で張り詰めた。
「おいお前俺達の事を侮辱しているのか?
それは侮辱と捉えていいんだよな」
「侮辱だと?
私は事実を言っているのだ。
会議に遅れ、コースはほぼ攻撃していない。
これでもまだ侮辱と捉えるのか」
床が軋む。
「...状況分かって言ってんのか。
仲間が殺されたんだぞ。
争っている場合じゃないだろ」
銀次が仲裁に入る。
「だからこそ内部の異物を排除しなくてはならないですよ銀次さん」
まさに一触即発の状態。
コースは今にも飛びかかりそうになっている。
「そこまでだ」
視線が銀次に集まる。
「ここで争っても意味はない。
まずは敵を排除する必要がある」
「しかし」
「黙れ」
ガダッズの言葉を完全に遮った。
「疑うなとは言わん。
だが、今は優先順位がある」
銀次は机に手を置き、ゆっくりと体を前に倒す。
「敵は外にいる」
その一言で場が締まる。
「侵入者は確実にこの施設の構造を把握している。
それも内部レベルでな」
「ガース、コース」
「……なんだよ」
「お前達は引き続き外周警備だ。
だが単独行動は禁止する」
不満を隠しきれない様子で二人を部屋を出て行った。
「ガダッズ。
お前はログを追え。
何が痕跡が分かるかも知れない」
「...既に始めています。
な、何だと」
ガダッズが驚愕の声を上げる。
「どうしたガダッズ。
何かあったのか」
「て、敵は二人いた。
そしてこれは」
狼狽えるガダッズを避けログを確認する。
「こ、これは」
そこには侵入者二人と、同じ映像が連続して流れていた。
しかもログは数秒前の映像だった。
「それにしてもこういう場所に潜入するのにサールの能力は便利だね。
触れた物を任意の場所にワープさせるスキル」
「おいちゃんと監視カメラは細工したんだよな。
見つかると面倒だぞ」
「平気平気。
さっき逃げる時に細工しといたんだよ。
僕のスキルで常に同じ映像が連続する様にしておいた。
時間までは誤魔化せないけど映像自体はどうとでもなる」
「まずいな奴らが来るという事は非常に危険だ」
銀次は思考を巡らせる。
「...仕方ない。
あまり使いたくはないが、彼を呼ぶしない。
今の時間は屋敷の方にいるか」
銀次はどこかに連絡を入れる。
そして敵と彼の到着をこの会議室で待つ。
「さぁて銀次さん悪いけど死んでもらうよ」




