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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
38/39

限りなく、クロとプラチナ

互いに互いの協定を違反した十大財閥が二つ、みざくろ製薬と村正重工。

双方は、己の非を認める事で相手が強まる事を恐れ合い、相手を悪とした主張を譲らず、遂に決戦に至った。


ポリス壁外地、全財閥の管轄外にて行われる、表沙汰には生じた事になっていない戦争。

主人公イロハは、みざくろ製薬の畏能保有者として戦線を駆ける――。

 ――現在。畏取を含め、みざくろグループの三割は、出世街道の危機にある。

 なにせ最近の、ピンからキリまでお世話になっていた方がなさった、『一般市民を使った実験』という冗談ならぬシデカシ。

 大なり小なり加担という業を背負わされた者は、その贖罪をも課せられた。


 減給と降格を除外すると、罰ゲームの選択肢は限られる。

 例えば、『怪獣案件』。

 或いは――存在しない戦線への投入か。


「クソっ――クソクソクソ! 死ねるか!」


 こんな筈じゃなかった、と迫る脅威を察知し。

 散々理路整然と組み上がった機械を、無理解(ズル)で解体した身分ながらも無理解を吐く。


 ――ここでの戦果の大きさは、そのまま市民信用度の上昇につながる。

 本来ならば、お家の先代から積んでいく、一席一丁にはいかない数値の爆発的上昇。

 以前失った分を取り戻そうと思う時、より大きな手柄を彼は求め。


 結果、イロハとリンイツが切り開いた最前線の先。その二人が何やら壮大な足踏みをしている横の、彼等の見落とした僅かな間をすり抜け、確かに出し抜いた矢先。


「俺はぁっ、今週末結婚なんだぞ!!」


 眼前の脅威に、心だけは負けじと声を吐く。

 地平の彼方、小さかった筈の影は今や間近にあった。


 スローモーションの、極限の集中においても速いとしか言えないソレの形は、フォーミュラだ。


 全身、空気の扱いを知りつくしたかの様な流線型。足元を掬う為にある様に、下から突出した鋭い爪先。

 見えたにせよ、認識のみ。体までも、ソレに追いつきようがなく――だが。体の外に起こる力ならば。


「いっ、けぇ!」


 刹那、大気は横に爆ぜる。

 威力より速度。多少の火傷を犠牲に生じた僅かな跳躍はしかし、追い風を得るには十分だった。

 真横をすり抜けた、突撃の産む余波を浴びる形で。

 かくして、


「――ッは。やったっ、生き延びt――」


 ――。そのまま、人だったソレは、飛沫に変わった。

 飛び出したのを予測したかの位置、突っ込んできた二車目のゴールイン。


 というか――なぁーにが畏能だ、なにが白兵戦最強だ。人は轢き殺せば死ぬ!!

 とばかりに、何ら手抜かりない走行過程を経た車は五つ、何千キロもかっ飛ばしながらも小回りよく、縦横無尽に荒野を進む。


 多目的実践兵器、『シラヌヒ』。それは、村正重工渾身にして至高の一品。


 五つといったものの、これで一セットだ。

 搭乗者がいる一つと、残り四つは同時の遠隔操作。それでいて、見た目のスペックは遜色なし。


 その脅威のメカニズムと、その他諸々のビックリドッキリ機能は数知れず。

 だが何よりも特筆すべきは速度、よりも必要以上な程のスタミナと耐久性にある――。




 『エイドス鉱石』、動力源を装甲として全面に貼り付けられたその色は、白に近い。

 (レギュラー)に対し、加工不能かつ計測不能の塊の色。

 いくら兵器と言えども規制はあり、見るからに非合法の速度だが、『ニアプラチナ装甲』の計数はセーフライン下にある。


 そんな、装甲を動力として動くオーバースペック。

 どう見ても着ぐるみだが中身はない、というレベルに明らかな欺瞞の塊に。


「……、亜種双極。矯源乖域」


 対抗し得るは、二択だ。

 完全なクロを持ち出すか、こちらも、グレーに収まったズルをするか。


「――『賞罰覿面』」


 刹那。偽物は本物に変えられる。


 予測しようのない、という意味で手品が如く。

 目ですら追えない速度のソイツの横っ腹、稲光と共に、不可視の衝撃が大気を金切って貫き。

 辛うじて残っていた赤みは引き剥がされ、ある種、機械らしく。

 スイッチを切られたというカタチで、初めて横転し、盛大にコースを外れた。


 きっちり、五台諸共の機能停止。

 全く見分けのつかない内の本体のみを射抜いたという結末。


 その神技は無論、代償もまた凄まじく。


「――、がッ、ぐ」


 本来、相手に向けるべき指鉄砲。

 それを己の頭に向け、堰を切った変化の後。


 体は、もはや人を保てそうにない状態だった。

 肌の表面、溶岩が如く黒く脈打ち、顔を出した何か。体内はおよそその限りでなく、もはや膝から崩れ落ちる機能も、直立の維持もできず。

 そのまま背中から倒れるだけで、氷像が如く瓦解するであろう程の輪郭を。


「――矯源乖域。『原嶺定(げんれいてい)』!」


 致命の分水嶺を越える間際、最大出力の畏能がぶち当たる。

 物理でない衝撃に呑まれ、包まれた表面と肉体は、その『原型』に再帰する。


 物体として、最も記憶した形象。

 生涯において、物理的に最も長く維持された状態。

 即ち、成人男性からすれば、成長期を終えた後の――正しく、普段の体へと巻き戻り。


「――で、次ッ。ほら起きなさって、の!」


 口調は手荒ながら手順は正確に。

 投げ出されかけた彼を手前、車内に引き入れて寝かせた女医は、そのまま露骨に注射針を首に差し込む。


 畏能保有者専用、免疫抑制剤。これで表層に続いて、内側が負ったダメージへも治癒が回った。

 結果。即座。焦点を失っていた目は正気を戻し、


「――、っ。ミノル! 次の地点に間に合わせろ、やれるな!」


「はいっ、モチの論ですよ八雲さん!」


「おうそうか前見ろ、頼むぞホント!」


 デフォルトの無感動な声が、しかし僅かな切迫を伴って奧から覗かせた面に叫んだ。

 書制服の上から社用ジャケットという和洋折衷。

 鉄面皮こそ維持できているが、明らかに八雲カフクは絶不調だ。叩き起こされた頭が、そのまま動く内にと目にギラつきを与えている限界稼働ぶり。


 そしてそれは無論、付き合わされた側も同様で。


「……もう、あたしガス欠。次の一回は残機なし……で、いいんだよね?」


 まさかの、最前線に連れ出された白衣の身。

 額に張り付いた栗毛をはたきつつ、三つ編みの彼女フランは、己の首にも注射を打ったきり脱力し切り、壁に体重と後先を投げていた。

 目だけはこちらを向いている。

 こんな事させやがって。と有無をここまで言わせなかった彼への目が半端でなく怨みがましいが。


「ああそうだ。ここで大事なのは相打ちになることだ。和多志とアレと、最もクロに近いグレーがここで失われる」


「そうなりゃ、互いはそれ以下(シロ)それ以上(クロ)を持ち出す他にない。二者択一だが、恐らくは後者……そうなれば……」


 その為に。彼は、わざわざこの女医を連れ出して、社長が乗るハズだったウチの最速車両を奪取し、ここまできた。


 みざくろ製薬と村正重工。どちらか片方が違反してはならない。同時でなければならない。

 その条件が必須なのだ。

 その結果で、全員が助かるワケはないが、全員は分散した不幸を背負って、致命の破滅を免れる――両成敗、というカタチで。


「悪化だけさせといて、何が解決するかわかったもんじゃないけど……でも、確かなんでしょうね。そうなったら、この後の患者はもう増えないって話」


「ああ。このあと死にかける和多志一人の延命措置だけで、お前サマのお勤めは完了だ。部下も含めてな」


 クッタクタの相手の手前。今にも車の揺れで倒れそうな彼女に当然が如く「失礼」と一言。席の上に運んだ。

 一体何を社長は持ち出そうとしたのか。荷台は広々と高く、殆ど消防車の様な内装だ。

 腰を下ろしたら終わりと見えるカフク、その身の丈も含め、諸々を力なく仰ぐ彼女。


「はは。十分、面倒ごとなんですけど……」


 乾いた笑み。絵に描いたようだ。

 実際文字通り、医療現場の最前線は切迫しているのだろう。彼女を連れ出した際の現場から目に明らかだった。記憶に新しい。


 ある種、人質だ。

 ソイツを助けてほしくりゃこうしろと。

 その中に、自分までぶっ込むヤツはそういまいが。

 

「いいわ。アンタが約束を破った事は無い。同期のよしみとしても、手は尽くす」


「まだ役割も果たせてないんだから……楽になれるとか、期待するんじゃないわよ」


 ――、その言葉だけは。

 唯一。単なる患者へ向ける以外の熱を持って。釘を刺す。

 まだ折れるなと。そうなったら、果たして、治して貰えるものか。


 なんにせよ、今は良しとする。

 お陰で、散漫に鈍った思考は束ねられた。

 後は、その時に打席に立つのみ――、


「――、おい」


「ん……えっこれ」


 そのとき。

 ほぼ、同タイミングだった。

 これでも同期同士だ。直ぐに遠くでも読み取れる。

 否。強すぎて、もっと遠くの素人でも感じ取るだろう。


 それが、正確に認識できる者は限られるが。


「ナっちゃん!? だけ、じゃない……よね?」


「えっ。と八雲さん、明らかヤバそうですけど、どうします!?」


 奇倚きいナツメ。みざくろポリス・畏能取締局の女社長。

 その出現、そして後々の、同期故に容赦の無い大説教。

 そこまでは予想通りだったが。


 ――もうひとつ。

 大きすぎる。天井を覆うが如き、存在が堕とす巨影。


「……あー、ミノル。停車だ。こりゃ、誰も狙ってられる場合じゃないしな」


「えっ。あ、はいッ!」


「あ~ぁ。ッたく、もう寝れないじゃん……あんなのガンガン主張してんじゃあさ――」


 状況理解に至っていない運転手、睡眠薬を掻き消す目覚ましに不機嫌極まった女医。

 で、それら全員をここまで連れてきた彼だが。


「……」


「――うわっ、電池切れてる」


 意識の糸が解けたか。

 或いは千切れたか。

 ブレーキの勢いに一切逆らわず、顔面で雑巾がけし。


 役目は果たした。とばかりに、一抜けを決め込んでみせていた――。

【2024/05/31現在】

すんません、この次の回が間に合いません!!

土日どっちかで上がらと思います!

申し訳ありませんが、もうちっとだけお待ち下さいませ!!!

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