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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
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37/39

『特別な個人』を持つ組織

互いに互いの協定を違反した十大財閥が二つ、みざくろ製薬と村正重工。

双方は、己の非を認める事で相手が強まる事を恐れ合い、相手を悪とした主張を譲らず、遂に決戦に至った。


ポリス壁外地、全財閥の管轄外にて行われる、表沙汰には生じた事になっていない戦争。

主人公イロハは、みざくろ製薬の畏能保有者として戦線を駆ける――。

 ――口角の緩みを引き締め、ゴーグルを下げる。

 塗り変わった硝子越しの視野。

 その右目手前にのみ重なる、赤く丸い点が透けた先へ。

 左目のみを閉じ、視線は集中され。


「――、いけっ!」


 足場、姿勢、首は安定。

 斜角は固定され、変化は瞬くまでもなく終わった。


 イメージは、生地を型でくり抜く様に。

 その円形の中、スタンプを押された地盤は沈下する。


「軽く二十弱――えぇいっ、まだ!」


 原型を失い、二次元にペーストされた鉄屑を数えて即座、視線を別に『飛ばす』。

 この畏能の発生が一瞬なのは、負荷を最小までに収めた故の強引な省略だ。

 これだけできるのではなく、こうでもしないと扱えない。


 彼は、自分の畏能が見えていない。

 畏能とされる人外の能力が、どういうわけか人体に備わる『外付け』である以上、皆ある程度の見落としこそあれ、力はおおよそ掌握できる。

 漏出はあっても、全体の三割。

 ――だが彼はそれが殆どを占める。


『見えないカタチのナニカが、体の外で蠢く』。


 物理学にさえ囚われない、文字通りの怪物を動かす難度は、次元の違うなんてもんじゃない。

 故に、こうして型にはめるのだ。


「次――『亜種形測』」


 無論だが、そうするだけでも容易くない。

 認識できない形は丸められない。

 だから、初めから抽出するのだ。


 四角いチューブの口から、最小限に小出しした量を全霊の集中で収め、最低限の質を担保し。

 粗が出るより早く、無茶の祟りを喰らう間は最短に、質より速度をもって打ち出せば。


 火力でなら、アレと並び立てる。

 質では叶わないという実感、だから今日まで、こちらも仕上げてきた。


「お前を過去にする。お前という障害があったことを。そして、その先に立つ。それがッ今のオレだ!」


 かくして――畏能が、飛ぶ。


 物理学なんざ無縁の、加速も減速もなくただ貫く亜音速の衝撃。

 彼の目を存在基準とするソレは、彼の視点においてカタチを変えずに遠くへ――結果。巨大なクレーターとして、世界に爪痕を残すのだ。


 しかし、


「――っ、マジかよ。妨害にもなってねえのか」


 眼下。

 白い躯は、その混沌の最中でも涼しげな顔でいた。

 揺れる地上でも歩みは淀みなく、またひとつ足先で鉄屑を撤去する動作は遠目ですら、舞いに似ている。


 というのは、実のところ、彼のフィルター越しで見て取れた情報で。


(……面倒だ。余計な立て直しで消費がかさむ)


 実は、避けていた。

 ルート変更を余儀なくされた動作過程の綻び。

 目に入りようのない、体内で起こった誤差の修正。

 それらと、眼前の敵とを仕分ける赤い相貌は、黒い廃油を吐きながらも見張って動き続ける。


 そもそも脚先一本から、心拍に至るまで、意識で起こす他ない体だ。


 故にただ街を歩くだけでも、彼女は何か極まった、最適すぎる動作をとる。

 スキルツリーが出発点から、彼等は対極なのだ。

 1を1として確実に運用せねば死ぬ所だった少女と、0から1以上を起こす少年。クオリティの面では、間違いなく前者は買っている。しかし。


(大体。避けてる時点で察せっての……)


 認めざるを得ない。

 イロハのスペックでは、攻撃力の面で敵わない。


 近接特化に対して遠距離特化。そして一瞬にして、広範囲の疑似大質量攻撃。

 イロハはフィジカルこそあるが、結局は身長137cm、体重16.7kgの物体だ。

 こうも重さを持ち出されたら、死にはしないが確実に打ち負ける。


(ぜってー敵に回しちゃダメだな。あの歳で八雲さん枠とか。もうどうなってんだか)


 これが必殺技(キョウゲンなんたら)でなく通常攻撃とは。全く末恐ろしい。

 とりあえず。真似できない芸当なのは違いない――それはそれとして。


「えっ。なにその歩き。かわ……じゃなくっ!」


 有象無象に続いて、カニ歩きする謎の鉄塊を両断。

 楽々と屠り、だが、その事実以上に、疑念が首をもたげる。


 ――火力では敵わない。それがなんだ。

 だからって恥とは思わない。十数年、枯れた涙が流れるわけもなし。いつぞやの爆笑が起こるでもなし。


 実際、過剰火力だろう。

 イロハにとって火力は最小限でいいのだ。僅かな出血が起これば、そこから全部の血が抜き取れる。

 だから問われるのはいつだって派手さなんぞより、最小の手で殺せるか。


 これまではスタミナ勝ちの難しい、人を捨てて畏能そのものとなった怪人相手。

 殺せれば、それ以上を求めては来なかった――だが今、それ以上に。


「確かに。これ、大したおこぼれも残らないかもな……」


 攻撃面積の差。

 体感からも見て取れる、明確なキルスコアの手前。


 ――なぜだろう。

 負けてたまるか、と頭が燃えている。

 弱みを突くんじゃない。誰より強いかを見せ合いたい――今は、誰より上かを見たい。

 特に、アレ以上には。


 それに実際。

 自分だって今は、そのくらいできる。


「――【脅霓(キョウゲツ)】!」


 意識するまでもなく成された過集中。

 心拍が赴くまま、振るわれる血肉の束。

 極まった『一』の発展たる『多量虐殺』。


 その風が。その一凪が。

 純粋な威力の暴力は地表を薙ぎ、威力が降るより先に、攻撃範囲の悉くを大気諸共に刈り堕とす。

 知ってか知らずか――アンタでなくとも、このくらいはやれるさ。とでも、上から目線の彼に見せつける形で。


「……っ、それでこそ。それでこそだ、イロハ!」


 結果。より激化する、暴力のバーゲンセール。

 後先を考えない出し惜しみ皆無ぶり。

 目指す先は、完全燃焼の怪獣バトル――その足元では、もう。

 頼むから他所でやってくれ。と、感想が統一されるだろう光景が、量産されるばかりだった。




 そして無論。

 最も悲鳴が上がったのは、その生みの親たちで。


「あぁぁぁあウチの特殊二足歩行検証装置がぁあ!」


「いや壊れて当然だろ。あんな欠陥ひ――あっちょやめ、クソっ! オレの自走車輪爆弾が!!」


 腹に代わり、痛めてきた手で頭を抱えての大絶叫。もはや指揮も何もぶん投げの大量殺戮。

 いや強いて、うちの子はどうなった、とレーダーに張り付くものはいるが、即その場で周囲の仲間入りを果たすという悲惨ぶり。


 パンデミックは指数関数的に、ものの数分で破壊規模を広げて無論。

 この管制室に留まらず、その上にさえ波及をし。


「は――おいおいカミさん。ソイツだけはもう引き返しつかな――。あーハイハイ。さいですか。あい、御意に」


「……もー、マジで知らね」


 やはりというべきか。

 中間管理職は、ここにおいても、飲んでなきゃやってられんという顔で皺を増やしていた。




 ――なお。

 味方側でさえ、例外でなく。


「はーっはっは! 青春っ最高!!」


「いや最悪でしょーよどうすんのこれっ!」


 また余計な事しやがったなこのヤロー。

 という不満は後々に投げ、デスマーチの行進がカタカタと響き合う。

 通信兵達の声が響きあう密集空間、そこは、まさに戦場の様相だった。


 最早イケメン司令官さえも、イケメンか否かも個性も突き通せず、よく通る声が組織の部品として全力稼働中。


 最悪だ――作戦の段階が繰り上がった。

 具体的には、進軍されてる側だったのが、わずか三分で攻め入った側になったレベルだ。

 試験運転程度しか求めてなかったのに、大金星をあげられたのだ。そんな用意は無かったのに。

 手綱を間違えた我々にも余裕で非はあるが、にしたって、これはどうすれば――。


「たたみかけるべきです。絢乃(はるの)さん」


「――、ソメイ君か」


 なにも。そう呼ばれた彼女は、仕事をほうっぽって出てきたわけではない。

 その身を乗せた車椅子と、その背から、真後ろに伸びる配線。

 そして背後で彼女のPCは独りでに、誰よりも高速で画面の色を白黒させ稼働し続ける。


 機械との一体化。それにより片手間で起こる最高効率。

 彼女からすれば繋がったそれは、最初から人体の一部だったかのように、さして意識を割かずとも正確に動く。

 故に、その場で唯一。

 桜色の髪を優雅にいじりつつ、余裕に満ちた目と声は彼に向けられ――。


「いまさら、組織(マトモ)ぶってなんになるんです。最初から、我々は畏能持ち。特別な個人。ルールを侵す存在なんですよ」


「そんなものがいる組織、ハナからマトモなワケない。特別な一個人達に比重し、左右される集団のルールを守る価値は、薄れて当然です。この抗争もそうして起こった」


 ――、訂正。

 まるで理論の中身は、余裕皆無でメチャクチャだった。

 毒か薬か、で言えば前者に振り切っている。構造的欠陥をついた完全否定。


「……だから、押し切るしかないと」


「我々に出来るのは、強襲とスタンドプレーですから。十八番の矯源乖域(わざ)は瞬間火力特化。半端な強襲で泥沼化するよりは遥かにマシでしょう」


「こんな事、早期決着が可能なら、畏能で攻め入るべきです。後の始末を考えるのは、その後で良い」


 しかし。流石に、政治家志望というべきか。

 車椅子に座した視点ながらも大仰な動きを伴い、臆さぬどころか大声で、大手を振った主張は飛ぶ。

 誰が見るわけでもない状況ながら、シャツと毛布の乗ったスカートと、整った見た目は堂々として隙が無い出で立ちだ。


 ――美味しい場面、と言われればその通り。

 ここでは畏能を持たない職員が、みざくろ本社も含めて大多数。残り少数には、政敵がいる。

 顔を売る機会としても、手柄争いの面でもアピールは必須だろう。


 それに。実際問題、これ以上の有効手段は誰にもない――だが。


「君は、それでよかったのか」


「僕の立場で言うべきじゃないだろうけどさ。君の考え、実は結構いいと思ってるんだ」


「どちらも悪い面があった、その事を認めさせる。一時は信用を失うだろうが、それはきっと、長く確かに続く善行だ」


 ――。

 少女の、勢いがぴたりと止まった。

 予想外が起こると、目を丸くして頷きもできないとは。

 ある意味、相手をしているのは子供であったと絢乃は想起する。


 いや実際、想像だにしていなかったのだろう。

 同じ百名弱の『候補者』のうち、一位の人間がビリッケツ手前の思想を把握し、どころか認めたというのは。


「確かに、僕ならここから勝たせられる。だがその後、全体が間違えを認めるかまでは決められない――全『次期会長』候補で唯一止めるだろう、君から言ったんだ。改めて聞くが、それでいいのかい」


「――、それは……」


 ――方向性は、示されたのだ。

 しかも、短期決戦というカタチ。

 演説は、見事に大成功だ。


 今更言い出しっぺが話の腰を折るな、という程に視線を刺す周囲の前面同意。

 つうかどっちが優れてるとか論じるより、まず場を収束させろや。という現場との温度差。


 大きな流れが、個人の思想を置き去る。その寸前、


「副社長、こればかりは報告します!」


「敵軍『不知火』五機の出現を確認、同時、八雲カフクが無許可で襲撃しました!」


「「――、は?」」


 ――、より大きな衝撃が。

 正しく強襲として、これ以上ない形で攻め立てにかかった。

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