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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
36/39

一緒にゴールかは初速次第

「これほどとは――キミの友達は本当に凄まじいね、ソメイさん」


 極めて、純度を高め切った感心の声。

 その返答に相応しい笑顔でめい一杯、少女は毒を塗った舌を巻く。


「……あはは、何を言いますか。そんなんじゃありません。それにやはり、貴方の従者には負けます」


「早く命令しないと、また大きな勝手を働くのではないですか。第一候補サマ」


 並列する、長机と蛍光灯。

 ワープロに突き立ち、ヘッドホンと直列した、色の移り変わりが凄まじい液晶の面々。


 その中にあって唯一目を離して空の手を口元に重ね、車椅子の上で薄桃色の髪を流し咲う。

 色んな意味で浮きまくった少女に。


「あぁ、確かにそうだ。多感な子供にとってすれば、我々の社会かまだ狭すぎる事は否めない!」


 より浮き立つ。痛い程に突き通った個の性の主張。

 バカでかい声という意味でなく、圧倒的純度で占めた清涼感。


 黄金の短髪に、澄み渡る碧眼は柔らかな頬と笑みの貌に填め込まれて輝く。

 白く僅かに角張った衣服に、前へ重ねた両手の下へと伸びる剣――騎士だ。

 そうとしか言えない。

 清廉にして戦士たる、男の善性。属性の結晶が。


 ――その長すぎる脚を曲げ、パイプ椅子の上に座らされているとは。

 なんとも、涙を誘う光景ですらある。


「それでは帰投命令を。ただし通常手順は無視する。君の発言が妄想でないのなら、一滴で致死量の毒にまみれているとの事だからね」


「もー、なんでそーキミは一度だってボクにだけ素で応対してもらえないんだい絢乃はるのクン」


畏取ここでは副社長だ、コクマ。残念ながら、公私混同は宜しくない」


 そして。もっともっとシュールな。


 腰を越えて伸びる白い線の束に、赤い目と。

 短い金髪に白い、カラフルなタグがやたらとジッパーから下がる上着にショートパンツ。

 という、中性的な顔立ちと、上から社用ジャケットに包まれている他に共通点皆無な――それも。綺麗に正中線の左右でバラバラに異なる容姿の持ち主を前に。


 机の上。当初こそ噂に聞くご尊顔にコソコソと公私混同を混ぜていた者等は、もはやヘッドホンで閉じた世界せんじょうへと一様に向かう。

 このような、内側に機能を集結させた突貫工事の掘立小屋が基地という、進軍された側の現状。

 切迫した今、善し悪しもイケメン無罪もなく。目に入る邪魔者は悪でしかないのである――。




『――コクマさん、お願いします。オレ達に今こそ、追撃のご許可をください!』


 第一声。影響を及ぼすハズが、喰らった自己主張。

 さしもの、コクマも驚きを得ていた。

 受けた畏能の質に起こる変化、再起された共感覚に気付くや否やの反応。

 異様な食いつきもあったが――それよりも。


「……君ら、がって。本当かいイロハちゃん!?」


 そう。そこの方が気になる。とコクマの声は身を乗り出したと分かるほど張り上がる。

 鼓膜に心配はいらないが、頭蓋を内側からハウリングされる不快感。顔をしかめた少年そっちらけに驚愕を見せた。


 以前。彼等は喧嘩をしたと聞いている。

 それも一方的な。片方が片方を完全否定したという形。ことその時点では、最大に決裂した双方だ。

 それが今、いつ間に意思をひとつにするまでに――?


『いや? アンタの妄想ほど上手くいっちゃいないよ。わたしは。どっちでもいいってだけ』


 ――。変わってなどいそうになかった。

 強いての変化は、身軽さに磨きがかかったなぁ。と露出する真白の痩身。


 どちみち帰るんなら動くでしょ。とジャケットに袖を通したイロハは、あっけらかんと飾りげなく、赤い硝子玉で辺りを見据える。


『こんな深くからタダで帰る、ってほーがムリだし。ジャマも一度あった。二度目だってありうるからね』


 手厳しい、という意識は、発言の割にどうやら一切ないと見える。

 つうか、そんな事より。


「い、イロハちゃん」


『……なに』


「いえ。なんでも。その……おつかれ、ホント」


『……』


 社用だからと脱ぎ捨てなかった上着の、肌の吸い付く感じにばかり意識は向いていた。

 流石に、露出魔スタイルとまではいかない程度に、理性という名の衣服も残されているが、なおさら不快らしい。

 どこか不機嫌げな半眼は、現実逃避気味にゼリーじみた食感を咀嚼している。やさぐれ感が相まって、ガム食ってる不良役なら一等賞の出来だ。


 にしても。単に乾いただけなのだろうか。やけに、肌に毒の水分がなさすぎる気が――。


『へへっ。いいのかよイロハ――みんなの役に立てるチャンスだぜ?』


 ――と。

 何を言い出したか。

 今の、口を利くのも億劫とばかりなイロハに、彼は何事か持ちかけるつもりらしい。


 それ。前の喧嘩のときと同じでは。

 とも思うが、コクマはあえて傍観を選択する――良くも悪くも。あの目の色は変わった。


『……そうなの』


『そーだろ。これだけの前線深くに潜れるチャンスはない。オマケにあの軍団、ダンゴになったまま味方が出会ったとなりゃ流石に手を焼くぜ』


『索敵機は打ち落としたが、復旧するかもしれない。最も奥地のここは一番にそうなる。いま攻撃ができるのはオレ達だけ――かなり。減らせたらデカいと思わないか?』


 昂ぶる彼は、イロハの状態が理解できていない。

 ある種、それこそ当然の状態ではある。

 できる、ならばやりたい。特別ならばなおのこと。


 思春期真っ盛りの十四歳でも、畏能は得られる。

 それだけで歳を問わず強制加入の畏取という受け皿。

 その実力さえあれば、希望次第で加われる戦闘職務。

 そこにて、グループ次期会長候補第一位の番犬として彼は仕えるまでに成功したとなれば――で。そこを最近ブチ折られたワケだけども。


「いやぁ。確かにチャンスだねぇ。しかし何故やらないとなんだい、もう十分帰っても誉められるし、頼まれちゃいない。それを分からないキミだったかな?」


『……、いーや。それではダメだ。なぜなら』


『――早くなんかして一人前になるんだよ! 給料面とか待遇とか。まずは認められないとイミねーだろうがッ!』


 あー。そっかそっかぁ。

 と、知らないフリの果てに引き出された本音にコクマは神の視点でご満悦。


 実際。ポリスにおける成人年齢、20歳未満となると、契約社員というカタチでしか雇用は不可能。

 実力社会の割にそこだけは揺るがなかった故、チグハグ体制なのは否めない。

 よって完全に弄ばれている現状なぞ、まるで認識してもいないし気にもならず。来栖リンイツは燃え上がり。


 それ故に。双方共に、反応は遅れた。


『――ずっと。あいつら、後ろ首見せて歩いててさぁ』


 ――ぉ?

 と。どちらの声が発した反応か。

 聞き取れないハズの音のうち、あり得ないと半ば除外された変化が、思考に挟まる。


『たいして見えない目で。戦うために作られて、そんなのがウロウロとしてさ――』


『「――ぉ、おお」』

 

 ついさっきまで禁止、と言われていたゴーグルをリンイツは目元に付ける。遠距離の畏能故に必須のズームアップ。コクマにサラッとその視野を一方的に共有させ、覗き見た。


 ――頭に血がのぼる。というなら、あれほど分かりやすい例はあるまい。

 遠目にもわかる心拍の上昇。

 引き上がる体熱に、肌にまとわる温い毒は蒸気となって揮発し、立ち昇る。


『――そんなの。殺されたって、文句言えないよね?』


 白熱する体躯。

 こちらを、見返した血走った双眸。


 脳と異能と、限りなく繋がった生命体。

 臨戦体制だ――性能云々じゃない。その気になった時点で、アレは活性化するように出来ている。


「『お――おお!』」


『なんだよイロハ。お前話わかんじゃねーか!』


「ん、え。復唱ですか。えー今いいとこで……いやなんでもないですよ、はいは――」


 ぷつん。

 何事か、リモート参加を切って退室するコクマ。

 関係ない。

 もはや二人の間に、二人の世界に、そんな変化なんぞは無に等しい。


「来栖さんだっけ。わかってんのかよアンタこそ」


「畏能のやり合いなら、最後にはムダの多いアンタがダレて、わたしは残る。それで倒れられても、今は背負って帰らせらんないよ」


 互いの片耳に取り付けられたレーザー通信機器。

 イロハにおいてはなくたって聞き取れるが。

 交わされた視線と、その意図の交換に支障はなく。


「そんなわけがあるか。たとえそうでも、そうなる前にオレはお前の分まで敵を掃討する。今度こそお前を超える――それが出来なかったオレになんて意味はない!」


 へ。へぇ、すごいな。それは。

 と、意味の見えない執着を向けられて覗いた戸惑い。

 イロハらしらかぬ生じた間隙。


 そして、それこそ。攻めれるものなら攻め込むワケで。


「いいか。オレは二百は倒すぞ。また余裕ぶっこくつもりなら、そのうちに事は終いだからな」


「……に、にひゃ……うん?」


 指折り数え、無理解に首を傾げるイロハ。

 強襲という点では成功だ。


 そもそも。いない。

 そんなにいない。

 前方集団は居ても百弱だ。

 だが。やはり、数を理解できていないワケで。


「じゃーわたし四桁だよ。四桁。アンタがそのくらいってんなら、それぐらいはできなきゃだし」


「なんだと!?」


 いや。いない。

 そんなに居ない。

 しかし。彼らは何を見ているのか。

 

 勝手に上げ合ったハードルの手前、少なくとも彼は尚も鼻息を荒げる一方――そりゃもう。


 これヤバかったかな。とイロハに気負わす程であり。


「……でもさ。あんま期待してると損かもだよ。やるかなんてコクマさん次第なんだか――」


『――いけ――ッ! ゴーゴーゴーッ!!』


 刹那。それだけが二人の間、唯一許される干渉だ。

 その他にはいらない。

 後方から「えぇぇ――ッ!?」と響いた気がするけどさしたる問題ではない。


 現実時間にしてコンマ一秒あるかないか。

 相手が優しく出るという考えのパージ、というより、それが自然だったとばかりに。

 いの字が聞こえた時点で、完璧にスタートダッシュしていた彼女に。


「ちょ――ぉ、ッ負けっかぁああ!!」


 なーにが期待すんなだ。アイツやる気満々じゃねーか!

 とヤケクソ半分。盛大な置き去りを喰らい、開いた差を越えるべく不可視の力は駆け出す。


 ガキらしく可愛らしい。

 とするにも、バカの赤子に刃物を持たしてはなるまい。

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