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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
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34/39

陽動達成

 思考の間隙を突かれ、両脚を固定されて転倒。

 後頭部強打。

 そのまま気絶、ノックアウト――なんて間抜けまでは流石にしない。


 性能からして、既にそれはダメージにすらならないので当然だ。


 だが、こと今現状においては。

 させなかったというより、そもそも硬いものには当たらなかったという意味が正しかった。


「ん――、っ!?!?」


 どんな声が出たか。割ける意識はなく。

 足が無事かさえわからなくなった。


 否、無事ではある。

 この重量の下でも原型は留めているとわかる。


 味覚痛覚に加えて視覚、聴覚が機能不全の空間に身を置く今、強化された身体性能の感覚が最集中した其処を見失うハズがない。


 わからないのは――知らない感触を、そこへ大容量に注ぎ込まれた故で。


「な……にッ、これ」


 反射的に、押し返そうと勝手に伸びる手までも、それにうずまった。

 足よりは過敏でない、というのもあって、寧ろそちらは客観的に感じ取る。


 ――なにか。溶解した何かが、大きく纏わり着いたのだ。

 巨大な体積が状態変化を起こした、液体と固体の狭間にある新触感。琥珀色で無臭とは得体が知れない――しかし、まずい。これでは、まず物理攻撃が通用しない。


「ほんと、こんなコトしてる場合、じゃ……!」


 水気混じりな音は咀嚼音に似ていた。

 そんなものが重く、総毛立つイロハの足にのしかかって、所構わず絡みついて蠢いているという事態。

 

 以前と似ている。

 勝手に味覚を共有されたことによる、十年使わなかった脳を刺す刺激、神経が剥き出しになったかのような体感。


「ん~。なんか、あたってる……えっと、それじゃ~」


 激震する世界で、膝を引き戻そうとし上体を起こす。

 常時必殺の間合いだ。今すぐ蹴飛ばして、襲い来る感覚を追い出したいのに凡そ腰の入る体制と状況ではない。

 その、せめてもの立て直しを見透かしたかの様に。


「たくさん、ぬる、なるべく、ぬりた、くる」

「――ぁ」


 食い込まれる。浸食が膝上へ、腿を舐って這い上がる。あがった腰まで範囲が渡る。

 肌は泡立ち、広がる大顎と眼が合った。

 丸めていた身を広げて、縦長の原を見せ、そこから赤ん坊めいた人の手がふたつ生えていて。


「……っ、ぁ――あ、ぐ、……ァ!」


 折檻される。

 背中には鞄がある。押し潰された上体は自然、心臓を晒すように胸を反らされる。

 ずり下がったジャケットの下、旗着が露出していた分だけ事態悪化は著しい。

 潰される中身の息苦しさが、遂に喉で殺せない。


 痛覚はないがダメージという他ない。

 腕をあげて範囲から逃したのは、そういう意味での暴力を僅かでも回避した行動だ。

 決して、自分がどんな顔をしているか、見えない目に眺められるのを拒んだわけではない。


「……、……っ」


「――すごいなぁ、まだ動けてる。おわるまでは、ぬり、ぬらないと――」


 しかし、ある意味それは幸いだった。

 手探りの拡大が、明確な殺意をもって口元に伸びんとなったとき。


「――――ッ!!!!」


「あば、ばばばっ、耳が、……ガクッ」


 隠された裏で前動作は完了。

 本能半分、不慣れな感覚への恐怖半分、なんとか溜めた息の爆発をゼロ距離で喰らわせた。

 どんな防御性能だろうと、人間である以上は最低でも鼓膜損傷が確定する大音声。

 実際にそれは有効だ。押し掛かっていた身は脊髄反射で背を反らし、上体を離そうとした所で、意識を途絶。


 漸く、相性最悪のソイツは行動を終えた――。




「……、はぁ。【亜種脈轄】、【誘汐泉(ユウセキセン)】」


 拘束を逃れ。即座に左手を伸ばす。

 言葉は機能を持ち、左肩に付いて凝固した血の引かれるままに引き上げる引力が発生。

 未練は皆無。いっそ堂々とうち捨て、足と思考は無事解放――いや、大分すーすーする。肌寒いだなんて感じるのはいつぶりか。


 それにこの、本来の仕様でない畏能。

 血を引き入れるのでなく、血に引き入れてもらう畏能の発動負荷を受け、またも頭蓋の中で焼かれる思考の音を聞く。

 以前の、落下に逆らう形じゃないだけ大分マシだが。

 不快度で言えば、足し引きゼロである。


(発動したって事は、(なんだよあれ。)ちゃんと範囲外に(ばかじゃないの)結構時間経ってたんだ(ばかじゃないの)けど、まだ大して落下(ばかじゃないの)してなかったのかな(ばかじゃないの。))


 空を切る急速高度上昇。

 着直そうと触れたジャケットの、でろでろとした触感にゲンナリ肩は落る。


 考えたくない。

 片手をあげたまま不可視のロープに引かれるという絵面のシュールさも。

 頭には被らずに済んだが、背後にまとめた筈の髪の状態を考えたくない。


 ありゃあイロハにとって、『死にたくないからやってもいいが、やりたくない事ランキング』十位以内を独占する事だろう。


 まったく本当、他の人が被害に遭わなくて良かった。

 そう思う事で辛うじて現状を肯定――さっさと次の行動へと思考を徹し、身を移す。

 本来の目的たる、撤退である。


(――あぁ。そりゃあ、外に出てるわな)


 目を開く。視野と聴覚の復活。無音の真っ暗なエレベータを抜けた。

 叩き起こされれた三半規管が空間に上下を見出し、同時に中空。

 滞空する、血を被ったドローンと対面を果たす。


 いやそりゃあ、使えるカメラが側にあれば、何事か監視に飛ぶであろう。

 あいにくと、丁度レンズが色濃く盛大に血を被ったらしいが。


「たっだい、ま!」


 翻り、出迎えご苦労と両脚も頂戴してやった。

 辛くもノルマ回収だ。これで名実共に逃げ帰れる。身を射出すべく膝を撓める。

 理想としては味方側の方向、そうでなくとも機械兵のない辺りへ着地したい。と、僅かな間に思考と目を凝らし――、


「――っぶな!」


 中断。脊髄反射で踏み出した。

 殆ど同時、跡形もなく撃ち抜かれた衝撃で爆散する見慣れきった光。近くで見りゃあ煙立っていて、思ったより綺麗じゃない。

 じゃなく――今の、さっきの銃弾なのか。やたら速くなかったか。


「しつこいなぁ。仕事終わったんだから帰らせてよね――」


 真相が気になるが先ず着地だ。

 平べったい地面の一色が、徐々に解像度をあげていく光景に足を向けた。

 ――突然。遠近感を失い。

 音と視点と、複眼でも得たように、一貫性を失った。


 マジか。

 矯源乖域ってのは境界が見えないのもあるの!?


(――うっそ、外に降りれなかった!)


 土色一色、万華鏡の視点に囚われる。

 低まったり高まったり、見たくもない太陽を直視されたり、希に眼球の裏の方へ目が向かう視界。

 

 目をつぶり再度、触感に意識を集中。

 纏わり付くノイズを体感情報(しこう)と切り離しながら衝撃に備える――しかし何故だ。

 間違いなく、領域に入らない方角で身を投げたハズだったのだが。


「――!」


 地面が足元に迫った刹那、重力に引かれるままの自由落下に蹴りを加える。

 着地時に発生する垂直抗力を、そもそも地面を割って黙らせる暴力的解決。

 綱引きに競り勝ち、その身はいっそ跳ねて、漸く着地した。


(まあいいか、少なくとも外に向かって飛んだし。同じ方にもう一蹴りすれば――)


 ――地が爆ぜる。

 体制と、確立された新たな思考が足元を崩された。

 狙い澄ました様なタイミングでの爆破。となれば条件反射で事態を察する他にない。


 次がくる。

 その山勘で整わない姿勢ながらも両腕を揃えた。


 頭から首にかけてを遮りにかかりつつ、後ろへ飛び退くべく再度足を伸ばし。

 予想は当たった――あろう事か、右脚の腿を削る形で。


「――ッあ!?」


 皮の下を削り焦がされ、閉じられた視野がチカチカ光る。

 こと、戦場に入って初めての苦鳴。

 否、痛覚がないのだから、それは悲鳴というべきなのか。


 飛来した弾丸は、その図体以上に伴った衝撃で右脚の、付け根のすぐ真下を穿たんとし。

 それを反射的に割けた結果、膝までの細い柱は外側の面をかすって、その貧相な肉を僅かにこそぎとっていった。

 道理で速かったワケだ――減速しない弾丸なんてものを持ち出していたとは。


 だが所詮その程度。今更即座に回復してなくなる傷だ。

 だいたいイロハは基本あらゆる衝撃に鈍い。

 これさえ致命打としてイロハの身体中枢を傷つける威力でないと、彼等が殺しきれないという敗北の証明に等しい。

 本来ならば、そうなのだが。


「……っ、んで、なに、こ――れっ」


 ――途端。

 氷が。頭蓋に詰まった様だった。

 思考の歯車に致命の邪魔が挟まり。


 膝からくずおれた体は、糸が切れた様に、支えの働きさえ放棄し。

 無理解に埋まる頭は横たえた事にすら気付かず――ただ、呼吸さえ危ういという事態のみを理解する。

 兎に角。その程度に、今は動ける状態ではなくなっていた。


「っぐ!?」


 間髪は許されない。射角が変わる。

 倒れ伏しても止まれば外されはしない。


 次ぐ衝撃に蹴り上げられて躯が転がる。

 射貫かれた肩は、偶然にも左。凝固させた外付けの血液に硬く阻まれ、ただ吹っ飛ばすだけに留まった。

 ――血液の理性制御は相変わらず機能している。であれば、尚更に何故と動かない口は混乱を叫ぶ。


 血でも、それを含む臓器や肉でもないならば、何故に頭から下がつながらない。


 骨がやられたか。絶対に有り得ない。あんな攻撃で脊髄は折れるものか。

 神経か。まだ現実味はあるがどうやるというのだ。

 何かしら神経に悪影響を与える手段があるなら、どう牛耳られた肉と皮の壁を突破して入れ込んだ。


(――ッ。あの、バカヘドロ……っ!)


 ひとつしかない。この思考でも理解は容易い。

 ここまで喰らってきたのは通常火薬による爆撃、畏能を内包する特殊弾頭、そして――あれだ。あのドロ団子だ。


 畏能ではないだろう。塗料か、或いは半液状化していた材質の特性か。とにかく、傷口から侵入したのだ。

 相性最悪なんてなまやさしいモンじゃなかった。なんてもんを人間に使いやがる……!


「――ぅ、……く」


 人体という上下逆さの大樹、その麻痺していく根っこを緩慢にも束ねる。

 回数制の思考は酷く視野が狭い。

 追撃が、右目の直ぐ横を削り、目蓋の口元を裂いて引かれた延長線にさえ見落とし、甘んじる。


 体の修復促進は不可能だ。

 だがこの毒だけはなんとか克服せねばならない。

 手足から筋肉さえ痙攣をはじめている。

 また深くこれが身に刃を立てれば、今度こそどうなるか。


「――、……」


 また撃たれる。

 今度は掠めるのでなく命中、貫通こそないが中央にストレート。上達している。


 どこからか、わからない。感覚は神経が途絶した時点で血液しか手綱がない。

 ――視覚と聴覚が解放されていた事など、知るよしもない。


 既に戦闘は、開始から七分経過している。

 許容時間を倍以上オーバーする酷使ぶりによる強制解除の結果だ。

 もはや畏能を全開し続けた者は戦闘続行不能、どころか怪人化した可能性さえあるだろう――かくして。


 一人に対して三人を出さねばならない事態、その終結は、残された狙撃手に委ねられた事となる。

すんませんっ投稿ド遅刻しました!

ここまで読んでくれてる方にはマジ感謝!

お久しぶりですガラマサです。

〇マスはひろし推しでございます。こんなもん書いちゃったのはアレが悪い!


さて、いよいよ大分投稿がデスマ染みてきました今日この頃。

多分あと五話足らずで本章はゴールとなりますが、その後はもう一章できてから再投稿開始、みたいになるかもです…。

それ以前にまず本章終わらせないといけませんがね、ハハ。

ですが今度こそ、それまでは一日置き投稿を維持して見せましょう。

毎日投稿とかマジ怪物ですよね、と染みた骨身で頑張ります。


のでどうか!

今後とも感想、いいね、ブクマ等々、ボタンいっこだけでもいいのでお恵み下さい!!

もはや数週間、一個もないとなると苦情コメントでさえ跳ねて喜べちゃいますからね。余裕で。

貴方の一手間で、地続きの匿名人間を飛び上がらせて下さい。何卒~。

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