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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
33/39

襲来、奇人隊三人衆

互いに互いの協定を違反した十大財閥が二つ、みざくろ製薬と村正重工。

双方は、己の非を認める事で相手が強まる事を恐れ合い、相手を悪とした主張を譲らず、遂に決戦に至った。


ポリス壁外地、全財閥の管轄外にて行われる、表沙汰には生じた事になっていない戦争。

主人公イロハは、みざくろ製薬の畏能保有者として戦線を駆ける――。

 またひとつ。鉄屑は瞬いて消え墜ち。

 その潰した眼下へ飛び出し、白い体躯が疾走を始めた。


「コクマ。次がノルマ最後、いくよ」


『ひ。ひ……ッ、いけましゅ。ついていきますぅ、もうマジ、死にたくな……ッ』


 もはや、隠れる必要などない。

 前線の列を成していた軍団、最前線の表層部分の眼は全て打ち落とされた。

 崩壊して生じた偏りの脇道を縫って、量の足は阻まれる事無く、快適に突き進む。


(ぶっちゃけ、多少は見られたハズだけどしょうがないよな。さっさと終わらせて、帰らないと)


 というか、必要があろうと隠れられないのだ。

 だだっ広い平地なのだから、最初からそう隠れ忍べるワケがない。

 となれば誘導されるまでもなく、イロハは前進し、奧に群が控えているだろう懐に向かう他になかった。


 血液消費は今のところ全体の八%。ならば、問題ないリスクだと判断し――。


「――!」


『あれっ。どうしたんだい、イロハちゃ――』


「コクマ。タマは、まだみっつあったよね」


『――えっ。ちょ、まさか。待ってタンマ、勘弁して下さい! お願いします、せめてひと思いに一度で――』


 命乞い空しく。

 イロハは何を見たのか、同じ視野を共有したハズのコクマさえ知るよしもなく。


「――ッ!」


『――うァああああああなんでええええぇ――っ!!』


 取り出される雪玉めいた肉塊に血が通され、全速力でいた素足は半ば掴む形で地を踏み。

 肩から、過程の肘さえ耐えかねない、全ての勢いを献上されたソレが細く大気を裂いた。

 よりにもよって、繰り出されたのは最高記録。

 弧を描く間もなく一直線に、遠くの岩盤を撃ち抜いて。


「な――ッ」


 その影に潜んでいた、確かな気配が、息を呑んだ音を聞き取る。

 肉塊から伝わる音の波。

 そいつを穿てと、主人は遠隔に行動を命じ――。


「ヒトかぁ。じゃあ【控えめ】に、【抉糸房】――」


「――矯源乖域(きょうげんかいき)!」


 ――。

 座標を。

 今その音が、どこにあって、どこを飛んでいたかさえ見失う。


「……。はぁ、メンドーだなぁ。コクマ?」


『う、うぅ……爆発……しない、あれっ。どこぉ。もしかしてスデにここは黄泉の国?』


「ちがう。ここ、ちゃんと方向わかる?」


『え、いやそんなの分かるに決まっ……あれぇ?』


 瞬時に治った右手で、だめだこりゃとフード越しに頭を搔いた。ハズである。

 本当にそれが右だったかどうか。少なくとも、目と耳では確かめられそうにない。

 唯一、確かなのは。


「相手に畏能で庇われた――ひとりじゃない上に正面で戦わないとか。いいシュミしてるよね」


 これは中々。厄介なのと行き合ったらしいという現状だ。




 ――畏能、『亜種錯成』。

 そのアウトプットが敷かれた空間は、知的生物の受け取る感覚を絶えず屈折させる機能を持つ。

 本来五感全てに働きかける事も可能な畏能だが、仲間を庇わんとした主人により今現在、視覚と聴覚にのみ集中。


 結果――実際にそれは、イロハの感覚を欺く程の効果を発揮するに至った。


「おい、おいハルキ応答しろ! 無事だよな、おい!」


『――な、なんとかな……たぶん。なにも浴びていないはずだ』


 しかしながら。イヤホンというゼロ距離で音量を最大にすれば、辛うじて遠隔の通信音声は拾えるワケで。

 ヘルメットの中、壮絶なノイズの最中に仲間の声を見出し、漸く弛緩。

 同時、改めて行動の実施を呼びかける。


「よかった……まだいけるな。目をつぶって後方へ待避しろ、これじゃ武器がすぐ消える。範囲外へ待避完了次第狙撃だ――ここで対象を殲滅する!」


『アイサー。異論なしだ。とてもあんなのは回収できっこない』


 『矯源乖域』は、畏能を体の外へ追い出す程の最大出力の発揮。

 それ故、発動者のみは畏能の効果を享受できない。

 ここにおいて、そうも有利に働く条件はないだろう。


 立ち上がり、自分と同じ土色の迷彩服が匍匐前進で引く様子。

 崩れた土砂から這い出る様を遠目に眺めながらも、思わずにいられない――ついでに。


『うわぁ! タクトぉ、見えないよ〜! 見えてるけど万華鏡みたくなって、見えな、あだばっ!』


 などと。

 視点やら何やら変わり続ける視野の中、左右を見失い転げまわるソイツにも。


「ちょっ、大丈夫だって『ブロウゾーブ』。だってお前元々、そのスーツじゃロクに見えてねーだろ!?」


 着膨れ、という言葉があるが、ありゃその最たるモノだろう。

 スーツ名が体を表す通り。半透明な大きいボールの中に人が入り、共々転げ回るというアレに近い。

 中身はこちらからでも見えないのだから、無論視野は最悪なのであろう。


『――あっ。そうか、そだね。そーだった』


 めちゃくちゃ必死に身を捩っていたが、それは雨にうたれた虫のようにすんなりと落ち着く。

 宇宙飛行士もかくや、という程に白く膨れた衣服はもはや関節を動かす余地もなく、内側からくぐもった声を発する謎の大玉にしか見えない絵面。


「ソイツは防御特化の特殊設計なんだ。オレが誘い込むから作戦通り、そこらじゅうをテキトーにぐるぐる回っててくれりゃいい、頼むぜー!」


『わっ、わかった! やる、やって、くる〜』


 巨大質量で在りながら。

 大玉は快調な滑り出しで、緊張感皆無に、ほぼ無音に転がって前進を開始する――蒸発反応のせいだろう。

 

 高出力高濃度の畏能を受ける表面から、構造と組織を維持できずに崩壊し、溶け落ちた分だけ摩擦よどみなく。

 起き去られた彼は、鋭い吐息で視野の結露を眺めて腰を落とす。


「……向こうは漏出がなかった。のに初手からハルキを正確に見つけているって――対畏能持ちぶっころマシーンとか言われた方が説得力あるぞ」


 もはや。こうなると、相手が畏能保有者かもわからない。

 溜息と共に、本来の趣旨を確かめる。

 畏取だった場合は同業者なのだから、可能な限り殺すのを避け、可能であれば回収との事だが。


「そもそも、殺させてくれるのかよ。あれ」


 なんにせよ、試すほかにあるまい。

 最大出力の空間偽装はそう長く持たない。少なくとも、三分以内でカタをつけねば、とギリギリと軋む頭蓋を聞いて結論付ける。

 ――『むらまさ重工』の『奇人対』。これは、その精鋭たる彼等にこそ任された討伐だ。




「コクマ。これ管制室(そっち)じゃ、どのくらい広がって見える?」

『半径三百メートル、ドーム型だ。この濃度の割にすごい範囲を両立させてるね。これじゃ敵陣じゃなくても何のカメラにも映らない』

「……えっと。それってヤバいの?」


 目を閉じ、ロクに聞き取れない耳に代わり、脳内に直接語る声と対話を交わす。

 さっきから全神経に血を注いでいたが、どうやっても感覚が定まっちゃくれない。

 しかも、イロハにとって十秒未満で踏破できる距離だが――そこまで出力を保ったまま、畏能を届かせるというのは。


『激ヤバだよ、余裕のステージ3、レッドの人員の平均以上。攻撃機能のない畏能を、更に感覚ふたつに絞って何とか実現している。オマケに、瞬間的発動じゃなく持続するだなんて……!』

「ねぇ。これもしかして見たことないヤツ?」

『ないね、ボクが知らないヒトである以上、前例ナシと見ていい』


 ムダに説得力の有り余る断言を受け、漸くイロハは事態を重く見る。

 道中どれだけ、幾つもの熱烈レクチャーを受けてきたことか。


 ――この空間においては、飛ばした畏能の綱を持ち続けるのが難しいのは実証済み。

 その上、範囲は最長に近いとのインチキぶり。

 生き証人になれるのはイロハだけに違いない――となれば。


「ヒント無しで、皆が喰らったら危ない……」


『管制官から連絡を貰った。まずは脱出。あとで情報あったら伝えてくれって。ボクは応援を要請する、その間、やりかたは任せるよ』


「わかった。なるべく寄り道はしないよ」


 まぁ、そうなるよな。

 思わず嘆息が漏れた。

 いや、やる気はある。この身をより役立てる時だ、と高揚さえしている。

 だが目も耳もなしに、何を拾えというのか――なんて途方に暮れていたら。


「――、へぇ」


 刹那。

 硬いもの同士がぶち当たる甲高い爆音。

 広げて翳される掌のなか、綱引きに負けて収まった衝撃――細長く小さな弾を、片手間に転がして確かめる。


 このなかで眉間を狙ってくるとは。もうちょっとさっきみたく、殺意を飛ばしてくれてもいいものを。


(まぁ、そうか。肌感覚ってのも、捨てたもんじゃないんだな)


 ――。

 これは、幸先が良いものを拾った。

 畏能が籠もった銃弾とは。アウトプット――否。それとも違う。


 スイッチを切られるみたく、機能として効果が終了したのを感じ取る。

 内側には焼け落ちたような熱がある。

 なにより漏出の『あそび』が一定で単調すぎた。


 ……向こうは、畏能を機械の一部に組み込むのが当たり前なのだろうか。


「どうせ逃げるなら、景色見てからにしようか」


 次は鬼が出るか蛇が出るか。

 どうにも、散策というのはワクワクさせられる。

 しかしながら仕事だ。安全策を敷くとしよう。


 そう、手探りで背のバックに銃弾を突っ込んで、代わりに取り出した肉塊を手に、血を通す。

 ただ、液体として。

 それを吸い込んだスポンジを、


「そう、れっ!」


 真上に打ち上げた。

 より確実に、使い始めた腕でなく爪先で蹴り上げる形。

 風の影響までは計れないが、体感としては寸分なく、垂直直上の射出が完了。

 ――これで最悪、また血に引き上げて貰うというプランも使えよう。


 そうして、上げた片足を再び地に戻し、


「さすがに、見えない場所を全力疾走とか怖すぎだしな――ぉ?」


 すかっ。

 と、両脚共に、なにやら地面を見失ったのに気付く。


 触覚は健在、その上で、畏能の予兆なく足元をすくわれた。

 いいや、というか初めから仕込んでいたという事か。

 ――極めて瞬間的ながら、土砂の飛沫と熱を足裏に感じ取っていた。


「ったく、いらんもんを置きなさ、るっと」


 低体重故、ノーダメにせよ吹っ飛びはする。

 反省しつつも中空、上下不能ながらも身を捻る。ここにおいても力学は正常だ。

 大気を裂いて迫っていた小粒の一線からさらっと逃れ、重力に引かれそうになフードを抑えて見出した重力の先、楽々と着地。


 三半規管が怪しいというのは不安だったが。

 よしよし。やはり腕なんぞより、両の足の方が多くを拾えるらしい。

 今だって、この通り。

 本当にごくごく小さな、何かが転がる感覚も手に取って分か――、


「――。うん?」


 ――。

 ちょっと待った、なんだそれ。

 と、その奇妙なものを前に、反射的に目を開いていた。

 そして気付く。


 ゼロ距離の音を聞き取れはする。ならば、視覚においてもそうなのだ。

 故に、眼前のモノに。


 見上げすぎて尻餅をつく、という小児めいた事になった己の身も。

 死守したハズが後ろに、肩にもかからず垂れたフードとジャケットも。

 徐々に迫る、『予想外』をも見て取れた。


「……え……、っと。え」


 ごとごと。わずかに、腰へと地面の震えが伝うなかのフリーズ。

 行動の手前、認識して滞る判断を、総動員した理屈で推し進めんと測る。


 ――恐らくソレは、通りすがりに垣間見た戦隊っぽい奴等と同じ理論。

 最も自分の体に近い物質である、衣服にアウトプットする事で、可能な限り最大出力で畏能を行使するという手法に違いない。

 だから、そこは旧知だ。では予想外だったのは。


「――ぐるぐる、まきこむ、やッて、くる〜」


 ――ものすごい蒸気を発しながら、影を敷く、自分の身の丈の数倍はある半透明の。

 なんか、でっけータマが迫って来るよオ~!?

 という、低身長の身としては、見るもビックリなド迫力衝撃映像で。


「あ、なッ」


 結構ビックリしてたイロハ。あまりの絵面を前に右脚で蹴り出すも僅かな脚力差により、左足の跳躍が遅れた。


 身を捻り後方へ、起こした下半身を運び身を丸めて一回転、頭から抜けようとしたものの。

 悲しきかな。体の末端。

 最も遅れてるのは、どうやっても足先というもので。


(――あれぇ。これ、やば)


 がくっ、と。

 勢いが重みに負ける。

 左足から巻き込まれ、動作過程にあった体制が崩れ、後頭部を打って火花を幻視。

 文字通りに足を引っ張られて倒される。


(あぁ、本当。楽に帰らせちゃくれないか)


 などと。ダメージらしいダメージがない現状故、そうとしか感じなかったワケだが。

 彼女はここから、余裕ぶれない事態に陥る事となる――。

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