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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
32/39

二足歩行の利点はぶん投げろ

 ――そこにおいても。実用性とデザインの差し引きというものがあった。


 壁一面、こんなにあってどうするというレベルで並ぶレーダーやら、謎にうねうねと線を揺らめかせ、パラメータの変化を知らせるグラフやら、謎にチカチカと光るランプやら。

 所構わず液晶の並ぶ前に座り、一様に突き出たキーボードに手を置く彼等。


 ムダに薄暗く設定された空間――『むらまさ重工』の管制室、兼隣接した工場の企画室では。

 流石にビジュアル重視とはいえ実用性も担保されたのか、面々は至極真面目に通信を飛ばし、オペレートに従事され。


「『パルスオメガ』回収どうぞ~。……やっぱ、あの機構は無茶でしたかねぇ。四徹の構想はロクなもんじゃなかったか」


「いやなにしてんだよ。アイツ結構なリソース費やしてたと思ったら深夜テンションかよ!」


「はぁ!? そっちに言われたかないね。なんだよハサミの手って二足歩行の利点ぶん投げてるじゃねーかよ、チョキオンリーじゃんよ」


「きーっ、うっせぇやい! ミンミン言いそうな顔もあって愛嬌あったろ、性能は兎も角!」


 ……ているワケなどなかった。

 いや、ある意味真面目ではある。頭が良くなければこういう諸々を作れはしない。

 いい歳の大人でなければ組織は、特に職人集団など成り立たない。

 ヘンな方向に忠実な、頭のいいバカしかいない、というだけの話。


「――だっはっは、ばっかもんがこんにゃろうめ! おう桔羽(きつは)、お前のパワードスーツはエネルギー効率より、演技指導ばっか上達してんじゃねぇかよ!」


「……、虎徹さん。一応勤務中なんスから、呑まないでいたほうが」


「あぁ? 好き放題出来るうちに呑まねぇでどうすんだよ、バカがよぉ」


 思わず「馬鹿野郎」、とソレが言う度、条件反射で一同の肩が震えを見せる。

 ――断っておくが。けして普段からこう、彼等はバカげてなどはいない。


 少なくとも、その小太りな髭面は、なにをせずとも小皺の浮かぶ程に日常では顰め面だ。いつも着物でどっかりと構え、少ない口数で業務に勤しむ。

 その指導は厳しく、理系あがりの弟子達は半ば体育会系精神を求める彼に、若い者ほど頭があがらない。

 が、今日は無礼講と、全員同様にあつらえたムダにカラフルなスーツに袖を通し此処に居る。


「だいたい。マジメにやるって方が無理だってんだい。別に武装作成は喜んでやるけどよぉ」


「……今回は、向こうもウチのお偉いサンもルールを破った結果だろうがぃ。そんなテメェのケツを拭け、従え、だなんてよ。よくも現場に偉ぶって言えたもんだぜ、ったく」


「ま、実験さ(あそば)せてもらえるってんだから何でもいいですよ」


「それは、まぁそうだわな」


 なんなら。ノリノリでリーダーたる自分だけは、色違いで意匠までも勝手に加えた衣服を作り。

 部屋の中央に座した『虎徹』は、妙に硬い音を立てる左手でまたひとつ、空にした酒瓶を重ねて山を成し。


 ――ううん?

 と、突然に、怪訝な声と共に身を乗り出した。


「おい、おいそこ。カメラ!」


「えっ、どうしました――」


「どうしたじゃねぇタコッ、統制乱れてンだよ。そこには何が映ってやがる!」


 唐突すぎる変わり身。詰め寄られ、間近に浴びせられる酸性の息と怒声。

 それへの戸惑いを差し引いても誰一人気付かなかった変調を知らされ、一斉に調査の目は集まった。

 確かに、移動する点達の動きには澱みがあり。その要因を目視すべく、最寄りのカメラにデータをアクセス。表示されるウィンドウを最も大きな液晶に映し、


「んだぁ、こりゃあ」


 ――それが。

 ノイズしか映さずにいるという事態に。

 どうやら真面目にあたらねばならないらしい。と、職人達の空間は張り詰め始めていた。




「――社長さん。これ、ヒトの肉だよね」


 それは、数日前。

 戦線投入を目前に控え改めての、以前と同じ呼び出しの場において。


 手渡されたモノを、両手で危なげながらも包んで、受け取る程度の機能まで改善が見られた頃。

 小さすぎる掌に収まる、雪玉めいた白い球。その材質を、事前情報なしで紅眼は認識していた。


「す、すごいねキミ。一発とは……安心して。培養肉だ。皆が普段食べてるような、みざくろ製薬のバイオ技術による作り物だヨ」


「へぇ……まぁ、ヘンだとは思ったよ。普通こう、アイスみたいにくり抜かれるまでもなく、丸まった肉にはならない」


(気にするトコそこかァ~?)


 肌を持たない筋肉繊維の肉団子。

 その実情をぷにぷにと指先で確かめつつ、しげしげと眺めているイロハ。

 酷く事態を平然と受け入れている彼女を前に、さしもの畏取の女社長もタジタジである。

 ――なにせ。衝撃の事実を、ここで明かさねばならないのだから。


「えっと。それなんだケド~……」


「――何を隠そうっ、ボクの体部を元にした培養肉なのだぁ!」


 ――。

 あ。固まった。

 目を丸々としたまま、瞬きを忘れて固まった。


 血が昇った頭なのに、それほどの思考時間を要する新事実であったらしい。


 そして、たっぷり二秒の間をおいて、


「――ッ!」


「どわー!?」


 やっば。

 しゅぱーんつったぞ、しゅぱーんて。


 と、大気の悲鳴さえも呼ぶデッドボール。

 強襲という意味では一切の迷いなく、ストライクこの上なく。

 顔を出して早々に部屋の隅まで、投げつけた肉塊がコクマをブッ飛ばした。

 行動不能、という意味ならば、間違いなくバッターアウトである。


「ちょっとどーゆー事ですかっ、なんてもん握らせやがる、ですっ!」


 そんな右耳をかすめていった諸々に次いで。

 怒りというより恐怖に支配されて真正面に詰め寄る、ハズが身長差で見上げる形になった、明らかに平静でない無表情。

 両手はわなわなと震え、思わず形成した握り拳が衝動と理性の狭間で揺れていた。


 いや実際。すごい嫌な事をさせている実感しかないので同情の他にないものの。


「仕方ないじゃんか。キミに求めた遠距離投擲には必須だ。報告じゃ血液の外部操作が出来たとはいえ、体外操作(アウトプット)が成立したワケじゃないンだろう?」


「……ぅ」


 呼吸は落ち着く。ピッチが下がる。

 血の気は引いたのか、相貌にみなぎったギラつきは不本意気な色も映しつつも、なりを潜めていく。


 ――そう、必要なのだ。

 確かにイロハは、身体の外でも血を使えるようになった。


 だがそれは、ややこしい話。

 『体と切り離した別物として使えていない』以上、通常の外部発動とは異なっている。


 人が畏能を外に使う上で、『矯源乖域』が必須であり、それが畏能の最大体外行使なのは。

 自分の体が少しでも、後付けされた機能から受ける悪影響を避ける為に、『体から加減なく追い出す』事を最初に覚えるからである。


 だが。イロハの最初のコンセプトは、血液の完全支配。

 体の外にあっても、中にあっても、彼女の血は彼女の肉体と一体だ。

 一体化している。人体と別稼働していない。


 これでは、体の外で畏能()を使うとき範囲が限られ、なにより、自分が自分の畏能を直で受ける


「キミの力は強すぎるんだ。以前、壁外で血を広範囲に展開したらしいケド、それだって広すぎれば理性制御にムラが生じる。最悪、暴走すれば本当に手に負えない」


「その時ほど暴れろとは言わないが。アレはコクマ君の一部だ。コクマ君の感覚共有で中継してもらう事で初めて、どんなに遠ざかっても一体化を維持できる。確実かつ安全に仕事する上では、必須の処置なんだよ。これは」


 事実だった。

 以前、大規模に血を外で使ったが、あれはせいぜい半径数十メートル。

 強化された体にとって、距離にならない範囲に展開していた。

 そのうえ。そこら中から使っても使いきれない血量があった故に実現した無茶だ。そう気軽には起こせない。


 本当にその外となれば。

 例えば、はるか高く上階の場所に血を置いて、効果を発動せよと訴えなんてしたら。

 その発動から、効果の実行完了まで。

 仕様外の畏能行使に、頭脳に強制される重労働ぶりは、身をもって知っていた。


 故に、首肯せざるを得ず――かくして、当日。

 即ち。今現在へと、視点は戻る。


『あぁ――っ、感じるよ! 熱が染み込んでくるのを、キミの精気が沸き立つのを感じ取れる!』


「……」


 なにぶん、強さなんぞより生き汚さを極めた身分だ。

 音を消し、目を盗み、岩肌の陰に身を潜め、容易く潜伏は完了した。

 変化を続ける戦場の最中、偏りによって生まれた、頭蓋に同居しやがる声音と風の他にない立ち位置。


 そこで、背負った鞄の中。ケース内から取り出した質量を手に取る。

 心臓にも臓器にも、骨という支えもない肉はスポンジの様に、貪欲に与えた血を吸い上げ、生気を得た細胞が覚醒していく。

 ――主人の為に産まれたのだと。作り変えていく。


『昨日の事のように思い出せる。もはや習慣となったキミとのキャッチボール。あれから毎日、たまにピッチングセンターにも行ったりして送った、正しく青春の一ページ!』


「……」


 ――。

 行動の意義を確かめる。対象は既に見て取った。


 機械兵らは絶賛班行動中。その群れには一機、必ず上空にドローンが付随する。

 畏能ひしめくこの戦場では、決して長くない距離のレーザー通信でしか無線が繋がらない。それ故の有視界戦闘。

 あれが全体の目なのだ。

 広い視点を機械兵らは提供され、監視されながらも合理的に行動を共にする。


 つまり。

 その高度三千メートルにある目さえ潰せば、進軍行為が大きく瓦解する。

 机上の空論だ。通常、体外発動の畏能はそこまで届く事はない。そんな距離にまで出力も、コントロールも届くわけがない。

 スナイプしようにも、敵軍の真上というのも相まって、射程からしても場所的にも困難極まる。


 ――だが。ここに例外がふたつ、存在する。


『えー、選手が入場して参ります。はるばる遠くから十年の孤独を越え、つらくも日々を乗り越えた仲間と共に、立派に胸を張って今っ、その努力は結実を――!』


 なにをどう感極まればそうなるのやら。

 うるさいとしか思えない実況には理性を割かない。


 雑音のが幾分マシだ。

 意味が通るだけに理解しようとしてしまう。

 おかげで最近、イロハは広告が嫌いにさえなった。


「ふ――、ぅ」


 長く、鋭く息を吐く。ここばかりは純粋にフィジカルがモノを言う。

 正しいフォームだなんて知らないが、せめて真っ直ぐと見据えて佇み。

 右脚を引いて、大きく完成した凶器を右手に引き絞る。

 初仕事だ――集中を極限とすれば、そこへ放り投げる程度など容易い。


 それにこれは、腐っても投擲行為。

 つまるところ。

 人という貧弱な二足動物が繰り出せる唯一、生存競争に通用した攻撃手段の実行故に。


「――死ねェ!!!!」


『死ね!?』


 困惑は、大気の炸裂に掻き消えた。


 世界を置き去って加速する思考。振りおろされた右手が、肩から千切れず繋がっていたのを目視して漸く気付く。

 これもまた、仕様とされていないと言われればそうだ。

 細い肩と腕と、小さな未発達の手は見た目以上の動作で当然に故障した。


 ――そして。困惑の中でも仕事は忘れなかったか。

 これまた剛胆にも、思考に割って入る情報がタイミングを知らせる。


『おわわわわわわ風ががががが――ッ!』


「【亜種脈轄(いきばをここに)】――」


 言葉がスイッチだ。

 空を切る肉が、主人の命令を中継され血の気を滾らす。

 目視で、ドローンが回避行動を取ったのは確認していた。

 死角から放たれた割に天晴れだ。あれなら直撃はかわせるだろう。


 そう。直撃だけは、だが。


「――【抉糸房(ケッシボウ)】」


 刹那。

 戦場においては、誰の目と耳にも留まらないであろう。

 余りに小さな爆発は瞬く。


 ……今のを、余波と言うには激しすぎただろう。

 肉を切って内側から弾け飛んだ血の飛沫。

 それは宙に勢いそのまま細く線を引いて、ショットガンが如く針となって、小さな的を八つ裂きに貫いたのだ。


 以前、壁外で発動した『弾ける』という水分としての性質の最大行使。

 その命令を最小に短縮して実現するワード。

 真似事にしては、まずまずだろうと思いたい。


「……うし。次いこっか」


『ねぇ死ねっつったよね、なんで死ねっつったのねぇ!?』


 現実時間にして、要した時間は僅か五秒。

 その間に治された右肩を回し、不備がないのを確認。

 ついでに、予告無しで爆散させた肉塊の体感はしなかったのか、未だご存命でいる声も確認された。


 ギリギリまで位置は知らされる必要がある作戦だ。

 文字通りの『お前ボールな』状態で、爆発寸前で感覚接続を解除したとは。

 人並みに生存本能と恐怖心は持ち合わせていたらしい――ならば。仕方ない。


『なんで!? あのリンイツ君にさえ殆ど感情を害されず、ボクにも「悪いやつじゃない」認識でいたキミがなぜっ!?』


「そうわめかない。アンタに言っちゃいないよ、集中したかっただけ」


『うわぁ過去一に笑ってるよ。初めて笑ってくれているのに、何故か嬉しくなれないよ!』


「ほら。速く案内してくれないかなァ。センパイ?」


 本当に。苦しめる様で遺憾であるが。

 今の一撃は再現可能と証明された。

 よって、いそいそと退却し、彼女等は次の的へと足を運ぶ他にないのである――。


 ――以後、ちょっとコクマの対応は多少マイルドになっちゃくれたが。

 そもそも、そこまで普通は付き合い切れず、皆が保たなかった相手であると、彼女の名誉の為に改めて書いておく。




「――またです。こっちのカメラもやられました!」


「広く敷いた所へまばらに穴を開けられている、連絡網がもちません!」


「回収にまで滞りが起きています。統制の乱れが……!」


 ――無論だが。やられる側からすればたまったものではなく。

 液晶に向かう面々は混乱を脱せずに居た。

 情報がまともに集まらず、ただ破壊された被害のみが結果として知らされる。


 手遅れである、と一方的に宣告するかの事態に、ただ焦燥のみが育つばかり。


「あぁ、ったく。これだから畏能持ちはきれぇなんでい……でぇ、誰か絞れたか」


「わかりません、断片的に搔き集めましたが、辛うじて映っている分だけでは――」


「――虎徹さん、コイツじゃありませんか」


 と。頬杖を付いた顰めツラの前に、ひとつの映像が掲示される。

 非常に遠くからの、拡大しても解像度の低すぎる存在。

 しかしながら、異常な速度で地をかける、赤のラインの黒ジャケット。


「桔羽、なんでコイツだってん――」


「他のカメラにも映ってました。それも破壊される二分前以内に限って。その上ここ十五分で健在のカメラに上空と地上問わず、コイツが全然映った形跡は今のところ見つかりません」


「……共通する見た目の特徴は」


「身長が推定、百四十センチあるかのチビって事くらいしか。フード被ってやがんので」


 ――。

 およそ、現実味がある話とは言い難い。

 それが本当なら、どうやってあの高度にある目を落としたのか。

 というか、移動しているなら絶対に何かしら、過程で交戦せざるを得ない筈なのに目視した個体は居ないのか。


「ったく。てめェは普段からそうなのにいいのによ」


()()()()()()なんですぜ。まだ効率が悪いにせよ、新たなエネルギーの模索は急務ですよ」


「へいへいわかったよ。予算減らしたりはしねぇから」


 そもそも、頑なにこの頑固親父は畏能持ちによる個人犯行だ、とする所から真偽は怪しいのだが。


「うし、ソイツもうちっと探れ。前線はそのまま下げるな。『奇兵対』に連絡。続く対象の進路の予想を立てて、向かわせる。どいつをどれだけ置くかは一任すると言っておけ」


「――ぇ、あの。それじゃあオレらの作品って」


 言った傍から、失言と察して口を紡ぐ誰かの声。

 だが、それは誰もがあげかけた声でもある。

 つまり今言い渡された命令は、彼等の努力の結晶をおとりにするという事なのだ。

 そんなこと、到底受け入れられるハズがない。


 あの――大艦巨砲主義に里帰りしたかのような、大砲による石製大型弾丸の雨あられやら。

 なにをトチ狂ってか戦場に割って入った、意外と暴れ回るバカデカいドリルを頭に奔る地底戦車やら。

 特段の仕様意図が見当たらないサブアームやらを失うなど――。


「ん、どうした」


「いや。打倒でしかないすっすね」


「だろう? おら、それじゃあ取り掛かれ。動けってんだよぅ!」


 よくよく考えてみりゃ。

 否、彼等の頭脳をもってすれば少し考えるだけで。


 ――あんなの兵器ってかオモチャだし。多少減っても損失ですらなかったわ。


 という、元も子もない結論に行き着いて漸く、正気に戻ったように彼等は業務を再開した。

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