百鬼夜行、もとい寄せ集め
――ドナドナド~ナ……と、幻聴させる光景。
それが、こんなザマのコイツが、どうやってここまで辿り着けたのかの回答だった。
頭上。最初からそうするつもりだったかの様に滞空していた円盤が降り。
洗濯物干しにプロペラがついたかの様なソレが垂らすワイヤーが、先端のフックを鎖骨の様な留め具にかけて、ずりずりと。
下半身諸共引きずり上げて連れ去り、遠くの空へと遠のいていく出荷、もとい回収風景――それを見届ける目は、紅眼の他にもあって。
「ばいばぁい~……いやぁ。にしてもきょーも頑張ってたねぇ、すごい進歩してたもん!」
「ですね。前なんて一歩目の片足上げた途端にぶっ倒れてたし。ね~、リッくん?」
「ぁ……あ~う゛ぅ!」
「……ねぇ。いい加減はなれてくれないかな。タマあたっちゃうよ」
と。ちゅどーんと辺りで地を割る一撃が墜ちる最中。
体感覚は、モフモフに支配されていた。
その質感の塊、数えて三つ。共々、ふたつしかない手に収まらんと熾烈に取り合っている。
いや、例外として、突き立てられる爪と牙が喉笛に食い込んじゃ居るが、まるで障害にもならないのでノーカンとしておくべきか。
「なぁにさ。あたったとこで大して効かないでしょーよ、お互いに」
「……実際。イロハさんの周り以上の安全地帯はそうありませんよ。正解なのですよ、本能的にも」
みざくろのジャケットから覗く二叉の尾に、髪の毛から生える同色の三角形ふたつ。
――溟亞人。ヒトの体で、ヒトでない部分だらけの謎生物。
それはスペックにも表れている。
つい先程もだ。
遙か後方、七キロ弱という距離でありながら、遠目に先程までの一部始終を視認し、過程の邪魔者をぶっ壊してすっ飛んで来たのだから。
そんな全力突撃を背面に受けて、ほぼ全く揺らがなかったイロハの体幹も凄まじいものだが。
「つうか、なんでいるワケ」
「それはアレです。お助け外国人枠ってやつです」
「んー、なんか前からアタリ強くないぃ?」
「ジャマだからなんだけど」
そう、ジャマなのである。
イロハが、その様に見なすほかない性能。
なまじ力が強いだけに、イロハでさえ三人がかりとなれば、簡単に拘束という歓迎を逃れ得ない。
畏能以前に、体の根本的な作りからして開けた性能差がある。
――そんな奴等が、辺り一面。ムダにだだっ広いばかりの戦場を駆け回っている最中にも幾度と見られた。無論だが、味方側としてだ。
それだけに。
「ふふん、お褒め頂きかんしゃカンゲキ――あっ。ご先祖様いるぅ!」
「え、ああホントだっ。久々に見ましたね。曲芸旅団」
――。
ええと。あれって、その。
味方とはいえ、これ。大丈夫なんだろうか。
そう思わず、同じモノを見た途端に無表情の頬さえもが固まる。
ここにきて参戦したのか、見覚えのなかった新勢力。
その絵面が、こう。きわどかった為だ。
「……えぇ、っと。わたし、いつからテレビ見てたんだっけな」
そんな事はない。だがそう思わずにいられない。
遠目ながらに、過剰でしかないスケールを見上げる。ずしん、ずしんという形容詞は実在したのだと、鼓膜を打たれながら思い知る。
それらは兎に角、妙に揃って大きく、そして、何かしらの体部が多くあった。
四つ足に、九つの首を伸ばしとぐろをまく、蛇めいた何かやら。
炎を口から吐き、ウロコと水嵩が連なる長いトカゲの胴。
地中を穿ち付き上がる、足で毛むくじゃらの大口を開いたナニカ。
そして最早「多けりゃいいってもんじゃないぞ」と突っ込みたくなるレベルに、首から上に多くの頭をひっさげた四足獣たち。
それらは、そろっておよそ人の太刀打ちできる大きさでなく。
まさしく災害の名を借りて、機械を次々とちり芥に変え――ー。
「って、あれ。思ったより弱いな」
――てはいなかった。
むしろ、傷を負ったそれらが赤い血を垂らしたのを見て、漸く実在する生物なのだと存在を受け入れ。
同時、「でっけーすげぇ!」と抱いていた妙な興奮が、急速に冷める内心を感じ取る。
「ご先祖だからねー」
「遅れてますからね」
「ばうっ、ばう!」
なんでも、そういう事らしい。
途端に残念な生物に見えてくる。
ウロコがなんだ、と巨大はんだこてをぶっ刺されたり、巨大な足の裏で踏みつぶそうとした途端、柔らかな足裏を刺す鉄塊を前に情けない悲鳴を、大音量で漏らして倒れこんだり。
なんなら、興味を持った対象が異なる頭同士がケンカで自滅に向かいかけたり。
スケールが変わったところで、やはり、生き物でしかないのだなぁ。
と。現実に引き戻されたからである。
「ねぇ、アンタたち。あれって大丈夫なの?」
「んー? それむしろ、イロハちゃんのが心配なんだけど――あれ、嫌い?」
こちらに身長差はなく、ほぼ同じ。間近に、獣じみた眼が問いかけた。
その意図を、イロハは無学でありながら、正確に理解できる。
――あれらを。わたしは、地上にあってはならないと感じ取っている。
思考を中継するまでもなく。体がそう認識している。
それは見るに、この場の他の人間もだ。
無理解による恐怖とはまた違う。
打倒せよ、全滅せよという敵意とも別に――異物感がある。
この干からびた大地が、あんなものを産みおとすハズがないと。
「まあぶっちゃけ、私らから見たニンゲンも、そんなものなんですけどね」
「だろうね。怪人みたいなもんだよね。わたしは、そういうの慣れてるけど――やっぱ、だいじょばないか。ご先祖様っての、明らかに飼われてんだし」
そう。きわどいのはそこだ。
異物感がある。そんなものはいい。怪人を何度も目にしてきたのだから。
だが。あの獣達の傍らには、随伴する人々の姿もある。
一室を背負わせ、そろいもそろって埋め込んだ機械の管の先に、明らかに大きさに反する鞭を、首ひとつひとつに繋がった弦を引く者達。
それらがケンカが起ころうと、余計を挟もうと本来の目的を想起させ、強制させる。
――似た事をした経験があるのでわかった。あれは、もはや道具として動かされている。
溟海種曲芸旅団。
考えたこともなかったが。仲間を操られるという残酷さについてを指摘され、
「んー。いや、別にぃ」
「可哀想とは思いますけど。私らみたいに喋れない相手を、自分らみたいなモノとは思いませんね」
「ぅあう、あう!」
「あーごめんねっ、りっ君は大事だから。ちょっとこっちまでかみつかないで!!」
うーむ。あくまで、WeにあらずItであると。
そりゃよかった、と胸をなでおろし、ついでに、ずっと噛みつかれて首筋にできた跡をさする。
これで人様を奴隷にしやがって、みたいな見方であったなら敵が増えるところだっただろう。
――いつかの取るに足らない怪人モドキならまだしも、これらをまとめて敵に、となれば先ず間違いなく血液の習得以上にデメリットが勝る。
まったく頼もしい味方である。
というか。そりゃ問題あったらやれる事ではないだろう。安心安心。
「って。じゃあなんでわたしには寄ってくんのさ」
「んー? さっき言ってたじゃん、慣れた眼ぇしてくれっからだよ!」
「……わかった。とりあえず離して。またやったげるから」
と、首に居たヤツが一名を引き離し、残る一名からも交渉成立と逃れ、晴れて自由の身。
話している最中、さらっと三者三様は砲弾を二、三度くらっちゃいたが、まるで何事もなかったかの様な様子には思わず「こえぇー」と漏らす他にない。
――さて。お助けマリグナーと、そのご先祖の図体任せな、おんぶにだっこ戦術。
そこに加えて勿論、みざくろの戦術はそれだけではない。畏能持ちでなくとも、人間による戦術は当然動いている。
というか。遠目に見ずともそこらじゅうで、基本戦力として大半を占める面子。それが、
「……なんか。あれ見ると、最初の仕事を思い出すなぁ」
最初の仕事、もといある種の初敗北。
然程いい思い出のない、銀色のツナギを着た者達に、四肢をほぐしながらもイロハは嘆息するーー元気なのはいいが。ちょっとばかり、むさくるしすぎる絵面だった故。
「――龍吐水、照射ぁ!」
「あいよぉっ」
「お頭、ありゃ火筒のが効くんじゃあないすかね?」
「ん、そうだなぁやれ、機械は壊せっ。間違っても随伴した整備兵、及び通信兵にあてんなよっ!」
なんというか。こちらも負けず劣らずバカげた恰好である。
祭り会場と間違えたのではという鮮やかな法被に、もはや必要性が感じられない高く掲げられた飾り物つきの大梯子。
同じ人同士、理性をお持ちなだけ幸いだ。
――でなければ、その装備。
その身を固める銀一色の鎧と、手にした長筒の威力を持たすに余りある。
「水ぶっかければ機械は壊れる。のは分かるけど……作った人からすりゃ、たまったもんじゃないんだろうなぁ。コレ」
戦闘をする為の機械等に、出会いがしら遠巻きにウォーターカッターか、超高温レーザーによる火炎放射を浴びせるという完全な対話拒否。
そして、その圧倒的威力を直立状態で、背中の背負いものからホースの様に伸ばす形で手に取った砲身で、気楽にポンポン連射可能という防火衣の保護性能。
よしんば近づけても、その防御性能と数にものを言わせた、近接による持久戦を強制する。
それがレスキュー、対テロ鎮圧など何でもござれの、みざくろ製薬直属の多目的機動防衛部隊。通称『マトイ』。
この場において、彼等が主力となるのは当然の事。
三日前、突然の進軍に対する彼等の即時対応によって平坦な地平上、前線は維持されている。
(でも。そうか……みんな、偉いなぁ。誰も弱くない)
――いや。お互いにこれで済ませている、というところだ。
「んじゃっ、仕事また行ってくるね~」
「くれぐれも、作戦通りお願いしますよ!」
「……ん。任せて。これ、畏取の初仕事なんだから」
手を振って別れ、口にした目的を再確認。
眩しい笑顔は遠のいた後、痛覚のない胸を、ズンと鋭さが刺したように思えた。
「……、ふ――ぅ」
――立派に戦争行為。とはいえ、それほど大規模ではない。
味方側はこれだけ足しても百人いるかいないか。
相手も人数のみを言うならば、殆ど出してすらいない。
互いに様子を見て、戦力を出しあぐねている戦況だ。
なんなら、遊ばれているまである。
少なくとも、相手はそうしても消耗の問題がない兵隊だらけなのだから。
これを打破する上で、こちらは人員をこれ以上多く、長く消耗させるワケにいかない。
『――そういうワケで。ボクらの出番という事だねっ!』
「……、はぁ。時間の兎が追いついた……」
『なんだよ、張り切った顔だったのが、そんなゲンナリしちゃって』
「別に。やっとこさ読めた本の話だよ」
フードのついた頭を揺らし、そのままの軌道で腰を落として胡坐をかきそうになるのを何とか我慢する。
どうやら、先輩様の僅かな自由時間は終わりらしい。
こちらも適当に暴れ回って状況は大凡つかめた。
『本丸の方も予定の地点に到着だ。準備はいいかい』
まったく、人の頭に居座っておいてよく言ってくれるものだ。
こうも心拍が上がってるのくらいは聞こえてるのだろうに――しかし。
「行く――頑張ろ、わたしらも」
『いよっしゃい、それでこそ!』
皆が頑張る事は素晴らしい。
そう言う所にだけは同調を見せ――彼女らの行動は開始する。




