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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
4『economic-A』
25/39

ルールを殺した結果

 殺しは得意だ。

 目的は殺し。手段は外傷による失血。

 そこに着くまでは、右脚から駆け出し、踏んだ左脚でまたひとつ蹴る――畏能どころか、呼吸からフルマニュアルの肉体が、短期的目的を得て歓喜を鳴らし、


「――ぇ、イロハさ――」


 理解は置き去られる。

 ベントーみっけ、というのが第一声。

 背後の同業者さえ初速で差があった。

 中をのぞき見る為に僅かに開いた戸、その間を、鈴音もなく吹き抜けた白い風。


 追いつけた変化は僅か二つだ。


【――怪人発生。怪人発生。一般市民は退避行動を、畏能保有者は――】


 ひとつ。あらゆるモニタ。一斉に鳴り出す、警告画面と警告音。

 そうなる、ハズなのだが。

 この屋内でのみ映らず、窓の外、巨大ビルのモニタから遠目に見えるのに留まるという。


 事を、都市設計をそうも歪めた、もうひとつ。


「――うっ、ぶ! ぶっ、ァ、あぁっ、ア!?」


 一番の異変。頭を抱え、皿を割り、咲き乱れる脳天。

 音を立てて瓦解し出すカタチと中身。

 そこから、影の様に花弁を広げた、『ナニカ』としか見えない生き物。


 キャパシティの足りず、行動の知性は死に、無意識と有意識の境は人の尊厳と諸共潰れた。

 その残骸の上。巣穴にて産声を上げ、テーブルの皿に乗る内容物が如く、殻を割って外へと手を広げんとした刹那。


「で。いただきますのごちそうさま、と」


 一閃は奔った。

 熟した実の萼を、『切った』としか言うべき蹴りを受け、ソレはテーブルの下で踏み台になる。

 ぱっくりと開かれたソレから漏れる、今日まで育ったモノも全て、やはり風は奪っていた。


 お仕事完了だ。時間にして、行動開始から僅か二秒弱。警告が発生してからは、もっと早食いの爆弾処理。


 先の警報も即座に止んだ。

 彼女の顔写真と名前を晒してポイントとやらを加え、一般市民には『通常業務にお戻り下さい』と呼びかける。

 まったく、正確この上ない。街を生き物とするなら、脊髄反射というべき反応速度。

 怪人化した元人間の、顔と座標を即座に映せるのは怖い程だが――そんな事より。


(……うん、やっぱだ。怒ってるって言うか)


 漸く、加速を終えて鎮まる胸の弾み。

 落ち着き切っていた真っ赤な瞳は初めて、佇み、辺りに僅かな困惑を映す。

 裸足の足元から、吸い上げたモノを固めて、赤い入れ墨の様に刻んだ白い痩身。

 それは、どこに置いても目を引く故に、邪魔をしたと謝罪でもするつもりだったのだが。


(なんで今日、どこも、こんな空気なんだろ)


 ちょっと今日は、街の方が、普通じゃないらしいと見えた――。




 いや。ぶっちゃけ、たいして此処の普通なんて彼女は知らない。

 なんなら、今まで言うほど普通だったかも怪しい。

 だがイロハの目にさえ、これは異常と言う他になかった。


「いいから詰めろッ、先方は二十も在庫を寄越せといっている。不良品にせよこちらは――」


「えっ、ええはい。承知致しました。次の月曜までですね。はい、ではこちらの方で――」


 注釈しておくと。

 この、ふたつの聞こえた声は会話ではない。電話はしているが、別の電話相手と話している。

 加えて言うと。

 ここ、平日12時半のレストランなのである。それも一応たった今、人が死んだ場所の。


「イロハさんナイスですっ。コイツ、自分が輸送車呼ぶので任せて貰っていいすか!?」


「え。ああ、じゃお願い。血抜きはしてあるから」


「うっす、じゃ足元失礼して――そうれ、昇進昇進……っ」


 ――そこにもう、ドカドカ入り込んでくる同業の肉体労働者。


 一人は、待ってましたとばかりに寝巻きを取り出し、まさにお眠りのソレに手を合わせ、渋い顔をしつつも後片付けを実施する三等市民の少年。

 ハイエナじみた所業だが、ズルズルと異物を店の外に連れ出す動作は手慣れきっている。

 歳はイロハより少し上程度、17歳だが長身短髪。質素な上下ジャージスタイル――今日は驕って貰えるとはしゃいでいただけに、流石に同情モノだ。


「クロト君には、申し訳ない事になってしまいましたね。あまりいい物を食べていないと聞いていたのですが……」


「ご店主へのお話は完了しました。特段、大きな影響はなさそうです。イロハさん。迅速な対応、ありがとうございました」


「そりゃどうも……でも。待って、撫でないでいいから。気持ちだけ貰っとくよ」


 そしてもう一人。一歩引いて、その手を逃れる。


 嫌いという事は無い。その、和泉という男は、むしろ調和と安堵をもたらす側の人間だ。

 これまた長身ながら腰は低く、小皺の浮かんだ、如何にも教師でした。というカンジのチョッキに眼鏡の男。

 実際、その老紳士はまたひとつ場を収める事ができたらしい。


「おや、そうでしたか……。それはそれは、寂しくも嬉しい変化です」


「しかし――これは少し、皆さんとお昼を、というのは厳しそうですかね」


 他にも、連れは数人居る。居たのだが、昼休憩だったハズが皆手を動かざるを得ない事態だ。

 ぶっちゃけ、もうクロト君の手伝いでしか仕事は残っていないが、参加しないと市民信用度ポイントはゼロ。

 多少なり関わった事実を作る必要がある、らしい――イロハには、その辺よく分からないけれど。


 これには、奢る気満々でいた彼も流石に肩が落ちるだろう。全員、誰も喜ばない臨時収入とは珍しい。


「98%は一般人、2%は畏能保有者……その2%が、これでまた少し上がりましたね」


「怪人はもっと多いよ」


「違いありません。実際に戦えるのは1%もいない……私のようなものは、あなた方に頼ってばかりだ」


 なにせ。ここまで、何件渡ってきたものか。

 どこも戸を開き、中を伺ってアタリを見つけようにも、全部が全部こうだったのだ。


「それにしたって。どうしたんでしょうね、最近は……怪人の発生件数がより増えているし……」


 言おうとしてる事はわかる。イロハも、そこは戸惑った。


 こう、冷静すぎるというか。

 どたどた人が来て、人外は死んだ直後というのに。

 ちょっと怪人が出ても、それを倒すものがいても、こうドタバタと事後処理に負われる者達がいても、それを日常として見過ごす。

 なんてこと、流石に今までなかったのだ。


 普通に命の危険なのだから、仕事道具も鞄も置き去って逃げるなり、机の下に潜るなり誰もがやる。

 いつもならそうだ。しかし、もうそんなのも、頼んだハズのご飯もそっちらけで、液晶に釘付けとは。


 そこらじゅうそうだなんて、明らかに普通じゃない。


「これは。本社の社食しかありそうにないですか……いや。もっとあっち空気のが大変そうでしたっけ」


「……もう歩かない方が良いよ。また『膝に来る』とか言うんでしょ。あとここ、弁当買えるらしいけど。そこのベンチ、抑えておこっか」


「……。それでは、お言葉に甘えます」


 ――しかし。ある意味、人の目を気にする必要はない、と。

 黒の半袖Tシャツに、黒に白い水玉が浮かぶロングスカートという、他所からすれば完全に女児に世話をされるお爺ちゃんめいた、情けなくもある構図だが。

 そもそもが、戦闘能力皆無の腰巾着。彼は抵抗なく、彼女を頼り、先の店主にも頼る事となった。




「――しょうもない話ですが。現在、みざくろ製薬は『村正重工』との抗争により、切迫した現状に立たされています」


「数年前。『村正重工』がひとつ、鉱山を建設しました。しかしそこは、つい一ヶ月前に『隔人第三号かいじゅう』発生により崩壊。それをいいことに――まだ『村正重工』の手にあるそこを一週間前、『製薬ウチ』のバカは手続き無しに占拠したんです」


「これだけなら、ただ我々のお頭が、そのお高い頭を下げ、身を引くだけで済む話でした――ですが」


 聞き覚えのない単語と、聞き覚えしかない単語。そして、一週間前という点。

 それだけで、疑問やら何やらは置き去って、耳はただ聞き入ろうと努めた。いったい何の話を、とは未だ思うが。

 少なくとも、他人事の話ではないらしい。


「そもそも。『村正重工』が鉱山を作った位置は我々の敷地内なんですよ」


「ポリス付近の外周り。そこには、ポリス外部の企業は一切の『外部設備』を置いてはならないという、全ポリス共通の『璧外中立地帯』協定。それに村正重工は違反をしていた……つまり。両方悪いんですよね」


「というか。破壊された後も残された『等外市民』は『教会』との接触だかでヤク漬け同然にされていたと聞きますし。そんなのを見過ごすんだからウチにもやられるんですよ……」


「そんなこんなで、双方は睨み合い『お前が悪い』としか言えないし、認められないのです。認めようものなら、取って食われるのが目に見えている」


「互いに同等規模の十大財閥たいこくです。そのひとつが弱まり、ひとつが強まるパワーバランスの変化は文字通り、人類社会全体を左右するコトですから……本当、。矛先を向けられては、もう、引くに引けません」


 切迫している、と。

 うん、やっぱり、大半の単語は分からなかったが間違いない――コレ。全部、あそこの話だ。

 教会だの、鉱山だの。身に覚えがありすぎる。


 最近の情勢も、おおよそ納得できる。

 何やらウチと同等にデカい企業が、ウチと喧嘩をしていて、それがヒートアップして社会がヤバい、と。


 ……そういや。

 ある少女とこの社会の問題に首を突っ込んだのは、一週間前。

 その時から何やら、やんわりと世の中の不穏さを感じてはいたが。


「そっか。そんな時に身内の問題を掘り返して悪化させたのがアンタで、だから廊下で名前呼ぼうとした時に、口を塞いでここまで連れ去った!」


「そーですよッよくもやりかけてくれましたねぇ!」


 と、身を乗り出し。

 事実のみに徹していた語り手は遂に我を出す。


 ここは、個室だ。

 キーは自動ロックされ、カメラも含めた全てが、部屋のコンセントに自分の腰から延長コードを刺した彼女が支配している、という点さえ無視すればまんまタダの一室。


 なハズが、絵面は詰め寄られた尋問のそれという。

 色々食い違う空間に放られた矢先、ティーセットの横に並んでも何ら違和感のない品ある少女、ソメイは、眼前で桜色の髪をさわがせ主張を飛ばす。


「いやでもっ、この機を逃せば会社間抗争云々で流されちゃうとこだったんですよ。あれが、あんな事をした人がまだのうのうと社会で残るとか、流石にダメですって!」


 ……、う、うん。

 いやぁ、そりゃ分かるんだけど。

 あの子を見殺しにできたか、と言われたら、今としては少し寝入りが悪くなりそうだけども。


「で。結果どうなったの、協力してやったんだ、説明くらいもらってもいいんじゃない?」


「え、っと。そうですね……彼に付き従っていた方々は社内の大半、主にコアメンバーで、彼の狼藉が判明した事で『関わっていた』扱いとなり軒並み左遷やら『怪獣案件』行きやら。次期会長候補のランキングが大きく変動したのは勿論、末端の方々さえも身近な上司や先輩が一人はそうなるもんですから、明日は我が身といった社内情勢に――」


「そっか、わかった。殺されたって文句言えないよ、アンタ」


「なっ」


 うん。そりゃ、やりたがらねーわ。

 ソメイ以外、誰もやろうともしなかったワケだわ。

 と、こればかりは擁護不可能とイロハは両手を上げた。


 後の始末をしない革命なんて単にテロではないか。なんかもう色々と、イロハ目線でさえ為政者に見えない少女である。

 太々しさの一点なら、まぁ上等なのかもだが。


「ま。大丈夫、大丈夫。少なくとも、アンタとやった事の正しさは、後々わたしが語っとくからさ」


「そんな精いっぱい優しげに語らないでくれますっ!? と言うかご内密にお願いしますよ、痛くもない腹ですが、探られては不利になりかねませんので!」


「今回だってそうです。このままじゃいけません。双方が、互いの悪かった点を認めないなんて大人げない事をしなければいいんです。どちらか片方が美味しい結果を得ようだなんて、この件において誰一人でも、許される身分なものですかっ!」


 そうそう。こういう、自分の考えに間違えはないと、今でさえ考えられてるこのカンジ。

 こんな事をするだけの知性と行動力がありながら、それこそ、そこだけは頑なに譲らないとは。意外と幼稚な所もあるものだ。

 などと、ナチュラルに下に見ながらも可愛がるイロハ。


 この手の、こすられるとダルいばかりな、からかうネタとしては結構上出来な真似をするイロハ。

 だがその実、本気で言っていると認識できるのは一握りだ。

 特に。ついこないだ色々と共にした、ソメイはより一層顔を赤くして――、


「ん――待って。それさ、わたしって超ヤバい立ち位置になんない?」


 ――。

 さー、っと。

 今まで、至れていなかった気づきを得た途端。その場から一瞬、感情が抜け落ちた。


 まず、一回目。鉱山での一件。あれで、邪魔者を排除し、教会を撤退させ――その結果、みざくろ製薬が勝手に私物化。

 で、二回目。社内情勢悪化を盛大に後押した、お偉いサンもとい企業のガンの排除――ソイツも、一応、というかガッツリと作戦成功に戦力として、イロハは荷担している。


 後者は、世間に参加が表明されてこそいないが、事実としてイロハによって、こうなったと言っても過言ではなく。

 そして、前者。そもそもの抗争のキッカケ作りには、思いっきり関わってるのは企業の履歴を見れば明らか――。


【――皆さん、お疲れ様です。社員の出頭を連絡します。三等市民、スケール4・ブラック、イロハさん。三等市民、スケール4・ブラック、イロハさん。至急、社長室までお越し下さい。繰り返しま――】


「……、おっ、とぉ?」


 即座。意味も無く、相手を見ていた。相手も見ていた。

 互いを見合うカタチ。

 だが示し合わすつもりもなく――見当違い、という戸惑いさえもなく。


 正しく、一切の迷いもない。


「じゃっ、強く生きて下さいっ☆ 骨はひろっといたげますんで♪」


「どわー!?」


 もう一度言おう。

 ここは、彼女に牛耳られた空間だ。

 椅子をぶっ壊す勢いで回転させ、踏ん張る以前に両脚プラプラな低体重のイロハを吹っ飛ばし、丁度通った瞬間だけドアを開く。

 そのような事は、文字通りに一体化し、我が身同然と機械を扱う彼女にとって朝飯前の独壇場。


「……ヒトを切り捨てる、くらいはするだろうけど……こーも物理的にやられんのかなぁ、この会社……」


 結果。日頃の恨みか。

 思いっきり受け身もとれず、顔面から廊下を雑巾がけし。

 長髪も相まって、突如巨大な新品モップが投げ出されていた。

 という衝撃映像は、通行人により、噂としてビル内を一過したという――。

なっ、なんとな次回出せました。

どうもおはようございますガラマサです。

さてさて。今回の新たなエピソードも何やらヤバそうな事が起きています。解決になるのは何話先なのか、もはや筆者も分かりません。未定という意味で。

(たぶん、どう膨らんでも十何話と思われます。シナリオは確定してますが、いざ文面に起こすとどうなるか…)


それでも、なんとか一日おきの投稿は維持していきたい所存ですので、いいね、コメント、ブックマークにてどうかお手軽に、応援を是非、よろしくお願いします。

マジで、誰かこの作品について感じたことがあれば、なんでもいいから伝えてください。

こればかりはしょうもなくても泣いて喜べますので。ボタンひとつで、安易な人間ひとりを跳ねて喜ばす経験を味わえるチャンスですので。どうかッ何卒!!

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