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『ヒト』それぞれにPSYはある  作者: ガラマサ
2『This fire is――』
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確固たる意義らと、白無垢と

 ――いざというとき、己が組織の指針に準ずる事ができるか。

 それは、無理解に放り込まれ、完全に余裕を失わない限り試し用のない事である。

 常日頃から何の為に生き、何に労力を割き、何故にそれを自分ができたのか。


 ただ働いてきたのか、単に金を集めてきたか。

 それとも、積んだモノで夢を成そうとしてきたか。


 その意義が、実のあるものを問う、試練でなければ。


「……こいつ等。自分の腕を」


 黒塗りの地上。その一点。

 何事か。突然に瓦解した備え付けの入口が、崩れて塞がれ、丈夫に硬貨しきった蓋を。


 重力に逆らい、岩盤が如きそれを突き開き、一気に彼等は湧き出してみせる。


 緑色だった筈が、土色に塗れた作業服。

 口内と目以外全部が土と苔になった様な肌。

 一様に栄養の足りない痩せた男達が限りなく。


 その先頭集団は。異様に伸びた腕が途上で折れ曲がり。或いは失い。そもそも原型を伴う事無く。

 それを瓦礫共々にかき分ける後続は、続々と。


「いけ……いけ――ッ!」


 誰が言ったか。倒れた者の声か、湧き出した彼等か。


 或いは悲鳴をあげる前に叫んで仲間を呼んで、それきり見当たらない第一発見者によるものか。

 しわがれた断末魔に近いそれを号令に、目に収めた目標へ、誰が言うでもなく彼等は黒塗りの地へ駆け出して、


「女だ、あいつオンナ持っていやがる。そいつからねら――!」


 膝どころか足元から、崩れ落ちた。


「――。まさか。頭のヤラれ具合が半端とはいえ、こうも元気だとはな」


 男達の咆哮が、途端に尾を引いて滑落。

 勢いに、後ろ髪が引かれて躊躇いが混流する。

 彼等の目標物。八雲カフクは後退の足を止め。両手で眠る後輩の体を庇うように振り返り。


「信じ難いが、鉱山の実在は確かなようだしな」


「実際連れもいる。念のためだ――間引きさせて頂こう」


「あっ、やっぱオンナいんじゃねェか――」


 相貌で視認した足元、片っ端から睥睨と作用は飛んだ。


 つい二週間前。巨大未確認生物『ヘキト第三号』によって大きく踏み鳴らされた地平。その地盤は、再びそれを思い出したかのように不規則に、局所的に崩れ落ちる。


 光景は、特攻歩兵さながら。

 ただ穴に落ちるだけならば遙かにマシである。

 なにせ底に落ちた瓦礫が、異様に固まって足を刺す場合もあり。

 ――けして少なくない。鈍音と肉を削がれた悲鳴が足元を震わす戦場。その直中にあって。


「それがどうしたっ、皆が居る、怖くない!」


 それでも。確信が再び彼等を歩ませる。

 群靴に代わり、安いブーツで輪唱した。


 ――あれは、使っていてそう長生きできるものではない。

 ひとつの体でそう保たせ得るものではない。

 その事だけは。脆さだけは彼等、土濡れた働き蟻の群勢こそが知っている。


「――殺さば極天(ごくてん)、殺さぬば闇溟(あんみょう)!」


「もうちっと覚えとくべきコトあったろ……」


 それに。発動が不確定故の命中率の低さ、まだ地を占める足音の多さ。手数の有利の証明という希望があり――その一点の不利だけは。彼自身の僅かな瞠目の肯定が見えた。


 目を剥く彼等は。いける。いけるぞと誰もが、より抱えた意義が奮起して。


「今度こそ役立てる! 今度は、みざくろポリスの連中に使い潰される為じゃない! 死ぬためじゃない!」


「皆の為に、皆で作った暮らしの為に――だから皆ァ!」


「――『粉』キメろォォ!!」


 誰もが手際よく、懐から取った袋で息をした。


 腕と爪がより伸び、心臓と共に全感覚のピッチが引き上がる極まった即効性栄養補給。

 自ら状態を進行させ。追い立てるまでもなく退路を断ち。より一点に血走る。

 拡がる欠損を、増える犠牲を張り上げた声で補完し。自分達は健在だと、『皆』が居ると。


「……てめェ等。それがなんだかわかって――」


 その咆哮の最中。八雲カフクは後輩の身を優先し、再び退去を視野に入れんとして。


「――ひゃわっ!?」


「……、うん?」


 ――明らかに。場違いな声が自分の胸元であがったのを聞き。

 それがなんの拍子だったか。

 何故に今起きたのかはすぐにわかった。


「せ、先輩? これっ、え?」


「……えぇと。うちのテント、だよな」


 ただただ頭が疲れ切り、寝起きで情報が理解しがたい後輩、豊山ミノルと。

 状況を知っていながら、彼にも彼等にも、そこに割って入った物には流石に困惑があった。


 黄色のビニルに覆われた。三角形の四つ並ぶテントだ。


 重厚な音を立てて落ちてきた辺り、しっかり中身を伴って態々やってきたと見える。しかし、流石に骨は耐えかねたか。即座に表面はシンプルな図形から、草臥れたハリボテとなってもいた。


 ――いや。やってきたとはなんだ。何がどうやってこうなる。


 まるでワケが分からず。とはいえ戦闘の盤面を変えるわけでもなく。

 その困惑と理解は、その場の勢いで起き去られ。


 ――そう、するには。

 隣で佇んだ躯は無視しようがなかった。


「――ッ!」


 今度こそ全員、足が止まる。

 全ての咆哮は、その一体の喉の爆発に容易く負けていた。


 何より重く、甲高く足を震わす音と、紅い睥睨が陣取った真正面。そこにだけは飛び込むなと。狂気ですら覆えない本能に気付かされていた。


 見るまで、これに気づけなかった。

 その出現を、強化されたハズの身体でさえ捉えられた者は、誰一人。


「……何故に来た。お前サマ」


 それは。ある種全員の総意であり。

 同時。恐らく仲間である男女でさえ、それを理解していないという、より大きく重い脅威の裏付けでもあり。


「――。血のニオイ」


 ひどく冷静に。ただ、その殺意だけを確かであると。

 真白の獣は小さく、そう獲物だけを見て告げていた。




「……なぁ。アイツ、大丈夫そうと思うか」


 それは道中、正門の門番に行き会う前。


 なるべく接敵を避けつつ、かといって出遭えばスパスパと切り捨てていた丁度そのときのやりとり。

 対象を畏能ほぼなしのステゴロ作業でまた一人殺し終えたカフクの、書制服の汚れを手払いながらの発言だった。


「何を言いますか。あの子に荷物番をさせよう、と言い出されたのは八雲さんじゃないですか」


 そうであるから問題ない。

 とばかりに前衛役を交代し、後ろで伸び伸びと弛緩したミノルは疑問符を浮かべる。

 ――イロハについては兎も角。コイツ、和多志を疑うと言う事を覚えないのか。と彼が思ったのはさておいて。


「戦力的には申し分ない。だがお前サマの初対面時然り、アイツの見た目はただの貧弱なガキだ。もしも盗人が入れば、いの一番に掻っ攫われるだろうとも思えて――」


「――もっと言えば。また何かの災難に遇っちゃいないかと」


「昨日の今日ですもんねぇ……あはは」


 なるほど、と傾いた頭は流石に理解した。


 返り討ちにして撃退するのは間違いないが、それってまた要らん火の粉が降ってるんじゃん。という事らしい。

 確かに、あまりいい事とは言えまいが。


 とはいえ、案件以外の話題を口にする彼は極めて珍しい。こうも明後日の思考がはたらくとは、味気なく撲殺された者共に心底感謝せねば。


「うんうんわかります。寝てるイロハちゃん、無防備極まってますし。私も、よく抱き枕にしちゃってるくらいです♪」


「直球ど真ん中の睡眠妨害じゃねぇか。よくぞ朝日を拝めたものだ」


「いえいえ。なにせ私の体、気に入られておりますので――あっ、そうだ! 先輩もどうでしょうか!」


「断る。というか間違っても、その軽口は他人に叩くな」


 いや本当。雑談とは、大分珍しく。

 胸を張っての得意満面。そこに話題を振っておいて、鉄面皮は至極真面目な大人の回答のみ。それは再び前を向き、仕事を続行しつつも。


「まぁでもご安心下さい。あの子には、人がそう寄りつかない加工をさせていただきましたので!」


 やはり。不安だ。

 と、彼は黒く長く結ばれた、後ろ髪を引かれずには居られなかったワケだが――。


「――たしかに、元気になったんだから。モノの作りってのは覚えなきゃなんだね」


「こんな、簡単に壊せちゃうようじゃあさ」


 ――遠く。ハリボテの灯台が鐘を鳴らし。

 鐘の音に釣られたか、地上から盆地全体まで突貫工事で張られたレール上、トロッコで運ばれる援軍の声と車輪が近づく最中。


 なるほど加工とは、こういうことだったかと、八雲カフクは漸くの理解に至った。


「ガマンしてたんだよ、ホント。こんなのぶつけるわけにいかなかったしさ。でも……()()なら、いいよね。八雲さん」


 ただぽつぽつと、口の利く獲物に零された自分本位。

 帽子と前髪が落とす影の下、紅く光る二点が背後、こちらを向く。


 想起されたのは文献上、孔雀というやつの目玉模様。

 体の模様を多量の眼球だのに見立て、天敵から逃れるための能動的なグロテスク――この場合は、口だ。


 みざくろグループの社員に支給される、黒字に赤ラインのジャケットは改造されていた。


 追加された黒いフード、その裏は胸と背から首元にまで伸びて固まった血塊の様に紅く。

 被さばって行き場を失った長い白髪は、左右の三つ編みにまとめられ、フードの曲線をなぞるように両耳の下から真白の鎖骨部にまで落ち。


 ――さながら。瞳と同色のそれは、白い大顎が覗かせた真紅な口腔。つり上がって浮かんだ、笑みのようで。


 そして恐らく。それが内心と齟齬のない本音の代弁でもあると、隠しきれない目の色の高揚が物語る。


「……」


「わっ、先輩あれ、あれですよ加工! ホラ、良い感じじゃないですか!?」


「……いいから。お前サマはテントに隠れとけ」


 わかっている。八雲カフクは、正しく事態を理解している。


 イロハの方針は要するに――鏖殺だ。

 あれら全員がポリスの使者を逃がす気が無い。

 それ故にあえてポリス出身者の装いで立ち、殺しにかかる全員に正当防衛を喰らわす。

 攻勢防御戦、迎え撃つのために盆地のど真ん中、鉱山地帯の丁度中心部のここにテントを設置して陣取った。


「……お前サマ。ここは地下鉱山地帯だ。多少足元を荒らしたが、いけそうか」


「そうなの。まぁ最悪、瓦礫蹴って昇るくらいは出来るけど」


「その時はコイツら、上から被さってくる程度はするぞ」


「いいじゃん。自分から来てくれるなんて」


 徐に、両手両脚の関節を回しての準備運動。靴はとうに脱がれ下半身は二本線の入った黒ズボンのみ。そして両手にパンと手を合わせ、短く息を吐く体が再び前を向く。


 彼女のやれることは単純なフィジカルによる圧倒。

余分にステージギミックを増やしかねない八雲カフクが、今この場で許されるのは、自分達自身の防衛のみ。


 奴等とて行動力だけは生半可ではない。

 すぐに囚われた衝撃を脱し、他のヤツも含め、恐怖を狂気に呑み込ませて迫るだろう。


 手出しはご無用。他に、役立てる事はない。


「――。わかった。すまない、やってくれ」


「後にどう評価されようとも、ここでの責任は、お前サマにない」


 故に。最小限の許可と共に引き継ぎを済ませた。

 言葉の意味を分かってか分からずか。それは敵への合図にも繋がる。

 そして、紅くつり上がる笑みの張られた、白い躯もが、駆け出して。


「……ふぅん」


「余裕でいいね、タダの殺害(しょくじ)なのにさ」


 ちゃんとテントに隠れててね、と。

 くすぐるような声で。


 気負うことなく――置き去られる。

 物理的にも。理解においても。

 否。理解はしていたが、受け入れ難く。

 それは確かに、今ここで意味のない事でしかなかったが。


「……いいわけが、あるか。悪しき事だ」


「ガキはただ、明日誰と遊ぶかだとかを考えてりゃいいんだ」


 そんな。今更にマトモぶった頭で。せめてそれが責務と、見届ける事とした。

シテ…かなーり元ネタ透けて見えるけどユルシテ…。

まぁうん、問題視されるほど見られてもないしええでしょう()

そんな本作をお読み頂き、本当にありがとうございます、ガラマサです。


活動報告でも記載しました通り、今後は文字数をコンパクトにする代わりに三日投稿でなく、一日おきに投稿となります。

あんま変えるのよくないとは思いますが、二日待たすのが余りに心苦しいもので…すいません。


元々、けっこームダに長かったですもんねぇ、この作品。

働くようになっても一応すすんでるのでキャラのコンセプトとか、こういうキャラってどれだけ伝わっているのか。初めて読んでくれている皆様には届ける事ができているか、けっこー不安です。はい。


とりあえずそういうわけで、次回は火曜となります。

ぜひ、ぜひご感想を!!! しょーもないのでも跳ねて喜びますので!

いいねひとつでも跳ね上がりますから! よろしくお願いします!!!

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