第23話:正規工房の看板と、次なる課題
マテオ・コブラオロの失脚により、ヴェルダの流通網を縛っていた資材封鎖は完全に解除された。
差し押さえられた物資が適正価格で市場へ放出されたことで、街の商人たちも活気を取り戻し、リオたちの拠点へも正規のルートで必要な基礎資材が届くようになった。
さらに、フィエル・セルタセロの尽力により、領主館から正式な書状が届いた。
境界林の廃小屋一帯の土地利用権と、領主直属の『特命技術工房』としての認可証である。
「これで、もう隠れ家みたいにコソコソする必要はなくなったわね」
イクミは小屋の入り口に掲げられた真新しい木製の看板を見上げ、満足そうに息を吐いた。
そこには、クラロが手配した職人の手で、シンプルなフラスコと歯車を組み合わせた紋様が刻まれていた。
「うん。でも、マテオが捕まる前に口走っていた『王都ギルドのアルトフエルテ』という名前が気になるよ。王都の本部が直接動いてくるとなると、地方の監査官一人を退けただけじゃ終わらないはずだ」
リオは作業台の上を片付けながら、慎重な面持ちで言った。
「そうね。相手が巨大組織である以上、次に来るのは個人の暴発じゃなくて、もっと組織的で大規模な圧力のはずよ。……それに備えるためにも、今のうちに工房の生産体制と技術基盤を固めておかないと」
イクミが作業台に広げたのは、街の防衛結界塔の稼働状況をまとめた羊皮紙だった。
「フィエル隊長から共有してもらった結界塔の記録よ。マナ・シリカのレンズ核を導入したことで、結界の出力自体は三・八倍に伸びたわ。でも……」
イクミは六基の塔の位置関係を指先でなぞった。
「結界塔同士を繋ぐ地中の魔力伝達経路が、昔のままの粗悪な青銅導線と粗い石組みで敷設されているの。せっかくレンズの透過効率を上げても、塔と塔の間を流れる途中で漏れ出して、四割近くが無駄に土の中へ消えているわ。水車をいくら強力にしても、水を運ぶ水路が穴だらけで途中で干からびているようなものね」
「なるほど……塔同士を繋ぐ地中の魔導線が、全体の流れの滞り(つかえ)になってるんだね」
リオがイクミの意図を察して頷く。
「その通りよ。都市全体の防衛を盤石にするには、結界塔そのものだけじゃなく、塔同士を結ぶ『高効率な地下魔導ライン』を敷き直す必要があるわ。それには、あの旧鉱山から採掘した純銅の導線と、スラグから作った黒鋼の保護材が大量に必要になるわ」
「素材の精錬は僕たちの魔導炉でできるけれど、街を一周するほどの導線を作るとなると、今の設備と僕たち二人だけの手作業じゃ追いつかないね」
「ええ。だからこそ、ハディードさんの鍛冶場と本格的な分業体制を組むべきよ。私たちの工房で高純度のインゴットを精錬して、ハディードさんの水車動力を使った大型の伸線設備で均一な導線を次々に引き抜く――分業による大量生産の仕組みを作るのよ」
二人が新たな計画の図面を引き始めたその時、外からガラガラと荷馬車の車輪の音が近づいてきた。
扉を開けると、そこにはクラロと、腕組みをしたハディードが立っていた。
荷台には、マテオの倉庫から買い戻された大量の純炭と、旧銅鉱山の粗鉱石が積まれていた。
「よう、小僧! 正式な認可が下りたって聞いてな、景気づけに資材をドカンと運んできてやったぞ!」
ハディードが豪快に笑いながら、丸太のような腕でリオの肩を叩いた。
「ハディードさん、クラロさん! ちょうどお二人に相談したいことがあったんです」
リオとイクミは二人を工房の中へ招き入れ、机の上に引かれた『ヴェルダ地下魔導網刷新計画』の図面を広げた。
王都の脅威を見据え、一過性の発明から都市規模のインフラ改革へ――二人の技術は、より強固な形へと歩みを進めようとしていた。
第23話をお読みいただきありがとうございました!
次回、第24話は、明日18:00に更新予定です!
────────────────────
少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
画面下の【ブックマークに追加】や、広告下の【☆☆☆☆☆】評価(★をポチッと押していただけると最高に励みになります!)で応援していただけると嬉しいです。
感想やいいねも大歓迎です! 明日の更新もよろしくお願いいたします。




