第22話:断たれた奸計と、監査官の失脚
クラロの手引きにより、フィエル・セルタセロ率いる警備隊の小隊が境界林の廃小屋へと急行した。
小屋の床に転がされていた四人の私兵は、フィエルの姿を見るなり完全に青ざめ、観念したように項垂れた。
「……なるほど。ギルドの印章が捺された私兵の登録票、それに金貨と手付け金の借用書か」
フィエルは押収された羊皮紙の筆跡を検分し、鋭い眼光を光らせた。
「都市防衛の重要物資を採取中である認可工房主への武装襲撃――明白な重罪だ。この者たちの身柄と証拠品は、直ちに領主館の地下牢へと移送する」
「隊長、マテオ・コブラオロはどうなる?」
クラロの問いに、フィエルは冷徹に言い放った。
「現行犯の供述と物証がこれだけ揃えば、治安評議会もギルドの越権行為を庇い立てできん。今この足でギルドヴェルダ支部へ踏み込む」
正午過ぎ、ギルドヴェルダ支部の執務室。
監査官マテオ・コブラオロは、手元の帳簿を眺めながら優雅に紅茶を啜っていた。
森へ放った私兵たちから「ガキどもを片付けた」という朗報が届くのを今か今かと待ちわびていたのだ。
だが、部屋の重厚なオーク材の扉が、激しい音を立てて蹴破られた。
バァンッ!
「な、なんだ!? 誰の許可を得て――」
激高して立ち上がったマテオの視界に飛び込んできたのは、抜刀した警備兵たちを従えたフィエル・セルタセロの姿だった。
その後ろには、静かな眼差しを向けるリオとイクミ、そして冷ややかな笑みを浮かべたクラロが控えている。
「マテオ・コブラオロ監査官。領主代理および警備隊の名において、貴公を『武装私兵の不法使役』ならびに『都市防衛特務への反逆罪』の容疑で拘束する」
「な……何を馬鹿な! 証拠でもあるというのか! 私は王都ギルドから派遣された特任監査官だぞ!」
喚き散らすマテオの足元へ、フィエルは一枚の羊皮紙と、私兵が持っていた金貨袋を投げ捨てた。
「貴公の直筆による襲撃命令書と、ギルドの裏金を流用した報酬の証拠だ。森で捕らえた貴公の部下四名も、すでにすべてを自供した」
「っ……!?」
マテオの顔から血の気が一気に引いた。
紙切れに記された筆跡と印章は、言い逃れようのない彼自身のものであった。
「ま、待て……! これは王都の上層部、アルトフエルテ様の意向でもあったのだ! 私一人の独断ではない! 貴様ら、王都ギルドを敵に回してタダで済むと思って――」
「見苦しいな。責任の所在は領主館の法廷でじっくりと吐いてもらおう。連れて行け」
フィエルの合図とともに、警備兵たちがマテオを取り押さえ、その両手へ重い鉄の枷を打ち込んだ。
喚き立てるマテオの声が廊下の奥へと消えていくと、支部内に残されていた職員たちはただただ震え上がっていた。
「……さて、クラロ」
フィエルは剣を鞘に収め、商人に向き直った。
「マテオが不正に買い占めていた倉庫の珪砂や鉱石、木炭の山はすべて不法蓄財として差し押さえた。これらは適正価格で市場へ再放出し、リオたちの工房への優先供給枠を確保する」
「へへっ、ありがたいねえ。これで街の物資の巡りも元通りだ」
クラロが安堵の息を吐き、リオとイクミへ視線を向けた。
「これで、市場の素材も手に入るし、堂々と工房を広げられるわね」
イクミが腕を組んで微笑むと、リオもまた深く頷いた。
「うん。でも、マテオが言っていた『王都ギルドの上層部』の影はまだ残ってる。今ある素材と技術を組み合わせて、もっと確固たる力をつけないと」
不当な圧力と資材封鎖を打ち破り、二人の工房はヴェルダの地で名実ともに確固たる地位を築き始めていた。
第22話をお読みいただきありがとうございました!
次回、第23話は、明日18:00に更新予定です!
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