第11話:廃小屋の改築と、資材待ちの探索計画
交易都市ヴェルダの東門を抜け、境界林の鬱蒼とした木立ちの中を歩くこと約半刻。
木々の隙間から、石造りと古木で組まれた見覚えのある廃小屋が姿を現した。
「ふぅ……戻ってきたわね。なんだか、ヴェルダで過ごした一昼夜がすごく長く感じたわ」
イクミが背負っていた麻袋を下ろし、額の汗を拭った。
袋の中には、クラロの店で調達した保存食や基本的な錬金器具、そして手付金の金貨がぎっしりと詰まっている。
「まずはここを、安全に研究と生活ができる拠点に作り替えよう」
リオはハディードとともに一晩で組み上げた『小型集光型魔導炉』を作業台の木箱から慎重に取り出し、小屋の頑丈な石造りの土台へと据え付けた。
【詳細把握】で小屋全体の構造を走査する。
長年風雨に晒された梁や床板には傷みがあるが、土台の石組み自体は極めて堅固だ。リオは指先から魔力を流し込み、壁や床の継ぎ目に【再配置】を施して隙間風と湿気の侵入を完全に遮断していった。
イクミも腕をまくり、作業に加わる。
「リオ、この魔導炉から出る排熱と換気のラインだけど、煙突から直接外へ出すのは避けた方がいいわ」
「煙や熱気で、外の魔獣や怪しい奴らに気づかれるから?」
「ええ。熱気と空気の通り道を二重にして、排熱の流路を切り替えられるバイパス弁(分岐機構)を組み込みましょ。冬場は床下の石組みを通して床暖房にできるし、夏場は床下を通さずに小屋のさらに深い地下土壌へ熱を逃がして冷ますの。外へ抜ける頃には完全に外気温と同じになる『地中熱交換構造』よ。これなら季節を問わず、外部から熱源を探知されないわ」
「なるほど……! 季節に合わせて排熱ルートを切り替えるステルス構造だね。やってみるよ」
イクミの理論に基づき、リオは真鍮の切り替えバルブと銅パイプ、石材の配置をミリ単位で調整していく。
炉の基部に下級魔石をセットして起動レバーを倒すと、キィィンと澄んだ共鳴音とともに炉が静かに息を吹き返した。
煙も出ず、音もほとんど漏れない。
バイパス弁を調整すると、余分な熱は床下を介さず地下深くの岩盤へとスムーズに放熱され、室内の空気だけがさらりと心地よく澄み渡っていった。
「完璧ね。これで最低限の生活と実験の環境は整ったわ」
イクミが満足そうに息を吐き、机の上に羊皮紙のメモを広げた。
「さて……問題はフィエル隊長から請け負った『防衛結界用の大サイズレンズ六基』の製作だけど」
「うん。クラロさんに頼んだ『特殊な触媒鉱石』と、ハディードさんが使う『固定枠用の特殊合金インゴット』の仕入れには、あと二、三日はかかるって言われた」
「ただ待っているのも時間がもったいないわね。……リオ、手持ちの素材で足りていないものって何がある?」
リオはポーチの中身を確認し、眉を少し寄せた。
「マナ・シリカの母材になる『超高純度の珪砂』と、結晶の成長を安定させるための『粘結性のある特定の樹液』が底をつきかけてる。街の市場で買おうとすると、王立ギルドの息がかかった高値の粗悪品しかないんだ」
「それなら、このあたりの森で自力採取できないのかしら? 近くに川や原生林があるみたいだし」
「うん、境界林の土壌なら魔力の通り道になってるから、手つかずの良質な鉱物や特殊な樹液が豊富にあるはずだよ。街の採取業者も魔獣を恐れて奥までは入らないから、手つかずのまま残ってる。外縁部の浅いところなら、僕の【詳細把握】を使えば良質な鉱脈や樹液をすぐに見つけ出せると思う」
「決まりね。資材が届くまでの間、森へ素材の採取に行きましょ」
二人は探索の準備を整えた。
リオは腰に、ハディードの工房で仕立て直した「黒タガネの刃先を取り付けた護衛用の短槍」を佩き、イクミは採取用の背負い籠と、即席で調合した刺激性のアルカリ粉末の小瓶を腰袋に収めた。
木漏れ日が揺れる境界林へと足を踏み出す。
街の喧騒から切り離された深い静寂の中、二人の新たな採取行が始まろうとしていた。
第11話をお読みいただきありがとうございました!
次回、第12話は、明日18:00に更新予定です!
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