君が1番輝ける場所
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プロムから数日が経ち、卒業式が終わった午後。リアンは最低限の荷物をまとめて約7年間を過ごした黒曜館を出た。寮や団体を問わず、関わりのある後輩から受け取った花束やらプレゼントで少しだけ荷物が多い。一通り挨拶は済ませたリアンは、本日最後の場所に向かっていた。
南塔の研究室が連なる一室。きっと部屋の主の次に自分が出入りしていたに違いない。廊下を進むと、すでに扉が開いていた。
「失礼します」
「あ、リアンいらっしゃい」
「珍しいですね、開けてるの」
「さっきまでゼミの子たちがクラッカーたくさん鳴らしてたの。だから空気をね、ちょっと入れ替え」
窓まで開け放って、部屋に風を通しているからカーテンの裾が揺れる。窓際のテーブルに寄りかかって、手の中にあった懐中時計に蓋をしたエトは、どこか遠くを見ながら照れ臭そうにそう言った。
「ここで追いコンできるなんて、ちょっと感慨深いな」
「あと、リアンを待ってた」
ここへ来るのは最後だから。少し違う空気に戸惑いながらリアンが話に乗ろうとすると、エトがこちらを見据えてシンプルな言葉を寄こす。
「ここまで来てくれてありがとう」
「……」
エトの言うここまでにはきっといくつもの意味がある。何をどこまでではない。リアンが通過点に立った今、二人は改めて向き合える気がした。
「あたしはここに居る。ここであなたを見送るの。だから……いつでも帰っておいでなんて、あたしは言わない」
きっぱりと、彼女が真顔でそう言った。断ち切るのは未練か、愛情か。そういう話ではない。課せられる使命がそれぞれにはあるのだから。
「言って、っ……あげない」
「……うん」
にじむ声は聞こえないふりをした。寂しくないといえばお互い嘘だろう。でも今はきっと、お互い側に居てほしいわけじゃないのだ。
「もし進む道が辛くなったら、振り向いて思い出してほしい。あなたの選んできた道が、歩いてきた距離が自信になってくれる。自分で決めた所でしっかり励んで」
「はい」
「夢を叶えるのに流れ星はいらない。それはあたしが一番よく知ってる。だからどこに行っても大丈夫」
「っ…はい!」
かつて両親がそうしてくれたように、エトは思わずリアンを抱きしめた。最後に力を分けてあげたくて、回した手で背中をさすった。少し目元を赤くしたリアンが、エトには少し心細そうに見えた。でもそう見えるだけで、きっともう違う。
肩口に埋まるリアンの頭をわしゃわしゃと撫でて、エトは努めて明るく言った。顔を上げたリアンが観念したように前に少し倒れてこつんと額がぶつかる。
「お願いだから、ちゃんとご飯は食べて。ちゃんとベッドで寝て」
「わかった。ちゃんとご飯行くよ。リアンもね、夢中になって寝落ちはダメだよ」
祈るように額同士をくっつけたまま、二人はだんだん互いが言った言葉がおかしくなってきて笑った。
ぽんぽんと腕を叩いて、居ずまいを戻す。離れたところから残る温度で寂しさを思い出してしまう前に、リアンは荷物を持ったしエトは弾けたように笑って手を振った。
「いってらっしゃい!!リアン」
「いってきます」
閉じた扉の向こうで小さく聞こえる星の調は、きっとリアンの門出を祝福してくれているだろう。
どうか行く道に希望がありますように。
__さあ、新たな星々よ。
己の軌跡を照らし続けろ。
いつかその名を、宙に刻むまで。
宙に名を刻め(了)




