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魔女姫と呼ばれた第1王女に拾われました 〜平民特待生ですが、なぜか天災王女の側近になっています〜  作者: 彩名氏シエル


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6/8

ーーー魔石盗難事件 ー 2

その日の夜。

私ことアビゲール・ローゼリア・ウィッチクラフトは、学園内にある王族専用の学生寮の一室でソファに横になり、天井をぼんやりと見つめていた。

いつもなら適当な書籍か書類を読んでいるところだが、今日ばかりはそういうわけにもいかない。

頭の中では今日起こったこと、聞き取ったこと、その他諸々の情報を整理し続けている。本当ならレベッカかカイト君と話しながらの方が面白いのだが、彼をここへ呼ぶのは難しいし、レベッカは紅茶を淹れに行っている。

さすがにいい加減侍女を増やせと周囲からは言われているが、身の回りのことは一人で一通りできるし、雑用を任せる下女もそれなりに雇っているのだから別にいいだろうに。

まあ、彼らが言いたいのはそういうことではないのだろうけれど。

思考がそれた。今回の事件について、もう少しまとめておきたい。

そう思って紙とペンを取ろうと上半身を起こしたのと、レベッカが紅茶の入ったポットを持って戻ってきたのはほぼ同時だった。

「殿下、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう、レベッカ。いつも通りそこに置いておいてくれ」

そう言ってローテーブルの上に置いてあった紙と魔道具製のペンを取り、すらすらと今回の事件について私なりにまとめていく。

レベッカはワゴンの上からポットを取り、紅茶を陶器製のカップへ注いでこちらへ差し出してくる。

それを片手で受け取りつつ、私はもっとも信頼する側近に話しかけた。

「さて、レベッカ。話を聞いてもらえるかい?」

「なんなりと」

わずかに緊張を帯びた声で答えが返ってくる。さて、それは事件の重要性からか、それとも私が何か突飛なことを言い出さないかという警戒からか。正味、どちらでも面白いが。

あ、レベッカの目が据わってきた。彼女は勘がいいから考えていることがバレたかな。さすがに彼女に嫌われたくはないので、話をいい加減進めよう。

「今回の事件についてだが、まあ情報が足りなすぎて今は何とも言えないね」

「そうですか。だからと言って、自分から動き出すとかは言い出しませんよね?」

「さすがにそんな非効率的なことはしないさ。偶然見つけたら別だけど、私だって当てもないのに動いたりはしない」

「当てが見つかったら動くようなことも控えていただきたいんですが……」

「今回はそうするのもやぶさかじゃないけどね。まあ証拠の内容によるとしか」

「はぁ……。まあ、いつものことですね」

「そうそう。いつも通り、いつも通り」

あきらめきったようにため息をつくレベッカを見て、ケラケラと笑いがこみ上げてくる。キッとにらまれたので笑い声を止めて、咳払いでごまかしておく。

「しかし、犯人候補の絞り込みならできなくはない」

「と言いますと?」

「まず今回は兄上たちが直接動かしている話ではないね。王族にとってあのレベルの魔石を手に入れるのは合法的に可能だし、ちょろまかすにしても一つだけじゃ費用対効果が悪い」

「なるほど。騎士団の戦費として計上すれば問題ないからですか」

「その通り。レオナルド兄上も、リチャード兄上も軍を動かせる側だからね」

そう言って王冠の絵を書き、その横にバツ印を書く。

「また、彼らの側近が独自に動いたという線もないかな。ほぼ同じ理由だけど、側近というポジションを失ってまで狙うものではない。あと、ほぼ同じ理由で高位貴族の当主でもないかな」

王冠から線を伸ばしてそれっぽい紋章を示し、それにも×と書く。

「だから私より上位の地位の人が絡んでくることはないと考えていい。そうなると、側近でもない人たちの中から、それなりに財力か権力を持っている人物をピックアップしていこう」

「なぜその二つなのでしょうか」

レベッカが不思議そうに質問してくる。こういう、長年の信頼関係があるとはいえ、気後れせずに質問を投げかけてくれるのは本当に助かる。

「理由は二つ。まず学園に入れるのが基本貴族だけということ。これは在校生だけじゃなくて卒業生でも同じ。で、財力の方は、一番厳重な場所ではないとはいえ魔術師が張った警備用の結界を無力化できる魔道具を買えたかどうかだね」

「魔術師が破壊したという線はないのでしょうか」

「たぶんない。いや、教授型ならあり得るけど、その場合は別途調べればいい。で、今日の入館記録を見たけど、高位の魔術師が来たという履歴もない。となると魔道具の線が濃厚だろう?」

「そうですね」

レベッカが納得したようにうなずく。私は紙にローブと杖を書いてバツ印を付け、白衣のマークに△と書いた。

「それで言えばビンセント先生は第一候補。でも、それだとわざわざ窓ガラスを破壊した理由が不透明だから、まだ疑念段階。他の先生たちもまだアリバイが分からないから証拠なし」

「となると、生徒の誰かでしょうか」

「まあそうなるけど、こっちはアリバイを探すのが面倒くさい。そういうのは専門家に任せよう。四、五日もたてば報告書なりなんなりが来るはず。まあ、これはなくはないけど、外部犯……カルトだったり外国勢力だったりだと面倒くさすぎて兄上案件だから考えないことにしよう」

「かしこまりました」

そう言って紅茶に口をつける。若干冷めていたが、猫舌の私にはちょうどいい温度だ。

「次に今回の犯人の狙いだけど、まず換金はないと考えていい。何かしら自分で使うつもりだろう」

「そうなんですか?」

「そうなんだな、これが。まあ単純な話で、表の魔石市場だろうが裏ルートだろうが、三十センチ級の魔石は大きすぎて証拠が残る。そこから手繰られたら簡単に捕まえることができる。そして我が国の騎士団はそこまで無能ではない。だからそうなったら私たちの出番はないね」

「砕いたものを売るというのは……」

「うーん、そっちも考えにくい。魔石って大きければ大きいほど価値が指数関数的に跳ね上がっていくんだ。魔力の出力が大きさと密度に依存しているからね。砕いてしまうと元に戻せないし、貯蔵量もガクッと落ちる。例えば十センチの魔石一つと三センチの魔石三十個で比較しても、十センチのほうが高いからね」

「なるほど。強盗するほど金に困っているなら、そんなことはできないと」

「その通り。それをするぐらいならもっといい方法がある。だから動機は個人利用に絞っていい。まあ儀式魔術に使うのか、特攻用の爆弾にするのかは分からないけどね」

「となるとかなり厄介です。儀式ならこれからも必要な魔石が盗まれるかもしれませんが、爆弾にするならこれ以上尻尾が出てこない可能性すら……」

「そうだね。だからまあ、こっちから動けることはないし、手を出すつもりも今はない」

そう言ったところで、あくびが自然と漏れた。置時計を見れば、もうすぐ十二時を回ってしまう。

「さすがにそろそろ寝ることにするよ。そっちも早めに休んでおきなさい」

「かしこまりました。お休みなさいませ」

レベッカはそう言うと、足音を立てずに部屋から出ていく。私も着ていたガウンをソファにかけ、ネグリジェのままベッドに倒れ込む。

「まったく。なんでこう、私の周りだと事件が絶えないのだろうか」

魔女の悪名の一つの要因を愚痴って、そのまま目を閉じた。

ーーーーーーーーー

目が覚める。

僕はベッドの上で体をひねって起き上がると、両腕を上に上げて全身を伸ばす。

そして、一通りストレッチを済ませると、外へ朝のランニングを行うべくクローゼットを開けた。

ここはセイレム魔法学園の学生寮。その中のもっともグレードの低い学生寮だ。

ただ、最低グレードと言えどさすがは国の肝いりの学園。8畳の個室が平民にも与えられ、追加で簡易キッチンとシャワーとトイレも完備された部屋である。

そして、クローゼットに高級な鏡が設置されていて、僕の姿もきれいに映った。

平民では珍しくもない黒髪茶目に白い肌。自分でもキャシャな体躯。ただ、その下には筋肉がついている。

ぼんやり自分の姿を見ていて、慌てて頭を振って意識をしっかりさせる。

学園指定の運道着に着替えると、クローゼットの扉を閉め、部屋から出ようとしたときにクローゼットの隣り、壁に立てかけられた剣が目に入った。

それは古ぼけた黒い鞘に入った、武骨なロングソード(両刃長剣)だった。そして、柄の所に透明度の高い黒い宝石のはめ込まれている。それが唯一これが宝剣のたぐいだと示している。

僕はそれのグリップを一度なでて、握りこんで持ち上げる。それはずっしりと下重みを右手に伝えてきた。

……。

微妙な表情で一通りその剣を眺める。今日はなんかいろんなものが目について仕方がない。

また大きく首を横に振って胸中のモヤモヤを振り払うと、その剣を立てかけなおす。そして今度こそ部屋を出てランニングへむかった。

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