魔石盗難事件 ー 1
「さて。」
あれから数十分後。
生徒会質に現生徒会役員のアビゲール第1王女、エレイン第2王女、ベンジャミン様、そして僕の4人に加えて、王族の侍女二人が集まっていた。
あれから連絡をしてきた警備員の人は王族二人がここに来た時点で扉前で警戒態勢に入っている。もうすぐ王族の護衛専門部隊の近衛騎士団が来るとのことで、それまでここから僕たちは出ることを禁じられてしまった。
「前代未聞……ではないにしろ、かなりの不祥事が起こってしまったわけだ。」
中央の生徒会長席のソファに座ってアビゲール様はそう言って面倒くさそうに手を振りながら言葉にしてまとめていく。
「今回盗まれたのは学校の備品である直径30㎝の巨大魔石。本来は校内全体の動力確保用のもので、本来は複数の魔術師が結界で保護している貯蔵庫に置いてあるはずのものだ。」
魔石とは、何かしらの要因で魔力が結晶化したものである。現代では魔道具の動力源として指先サイズの小さな物ならどこでも流通している一般的な物だ。
基本は地脈と呼ばれる魔力の吹き溜まりやダンジョンと呼ばれる異空間から採掘できるが、ごくまれに魔獣などの魔法生物の心臓となっていることもあるらしい。
魔獣から取れる魔石は品質が良かったり、特殊な特性を示すため、冒険者はこれを主な報酬減として日夜魔獣と闘っている。
その中で、直径30㎝サイズはかなり珍しい。それに内包されている魔力量は厖大で、基本的には大規模施設の運用用に用いられるのが普通だとアビゲール様は言う。
試しに金額を聞いてみたところ、平民が5年は生活できるほどの額を出されて目が飛び出そうになった。
それに対して僕以外の周囲の人たちは平然としていたので、つくづく住む世界が違うなと感じるばかりである。
一通りの魔石の基礎情報を確認すると、ベンジャミン様が手を上げて質問した。
「では、犯人はその結界を突破して魔石を盗み出したということですか?」
「それがねぇ、これまた面倒くさいことになってるんだよ。」
アビゲール様は頭が痛いと言わんばかりに額にその陶磁器のような白い指先を当てて、首を横に振る。
「これは学校側の仕組みなんだけど、今回盗まれたのは保存していた次の交換用のものだったんだ。で、まあ魔道具基礎の授業を担当する教授がビンセント先生なってから、交換前の魔石を工学のために見せるということをしていてね。念のために魔石に不備がないかを先生に確認してもらう次いでということにしてある。」
「と、いうことは……。」
僕が思わず口を開くと、ベンジャミン様がこちらをにらんできた。
思わず首をすくめると、エレイン様がアビゲール様が面倒そうに手をかざしてなだめてくださった。
「はいはい、今はそれどころじゃないからそういうのはやめてね。で、まあカイト君の言う通り、ちょうど教室で保管されていたものが盗まれたというわけ。どうしても保管庫と比べるとセキュリティが甘くなるのは仕方がないんだけど、うかつとしか言いようがない。」
そう言ってやれやれという風に肩をすくめた。見回せば侍女も含めて全員が呆れたような表情をしている。
僕自身、それはだめだとは思う。ただ、だからと言って何かを言うつもりはないが。
「管理体制の杜撰さは後で厳しく追求するとして、こっちはこっちで仕事だ。生徒への説明用の資料を先生方に造ってほしいと頼まれていてね。今先生たちは犯人捜しで躍起になっているから、概要だけでもまとめて、明日生徒たちに、というよりかはその保護者達への説明用に資料を整えなくては行けない。というわけでカイト君。私がまとめた話を代筆してくれ。」
「あの、何で僕なんでしょうか……。」
「そりゃ、あとの二人には通常業務を早く処理してもらわないといけないし。」
「あ、いや、その……。」
「あぁ、私が自分で書けばいいって?違う違う。こういうのは対話形式の方がまとめやすい者さ。文句ばっかり言ってないでさっさと終わらせよう。二人も早めに業務終わらせといてね。レベッカとシトリー。二人の補助をお願いするよ。」
そう言ってパンパンと手を叩く。それを合図に全員が仕事を開始した。
ぼくは自分の机から数枚の紙を取り出して羽ペンの入ったインク壺と一緒にアビゲール様の席に近づく。
そうしてアビゲール様の話す内容を書き出していった。
まず、盗まれたものは巨大魔石一つ。
盗難が発覚したのは午後4時30分ほど。
ビンセント先生が自分の研究室に入った時に、魔石を入れていたガラスケースが割られていて、なくなっていたそうだ。
最後に魔石が確認されているのは午後1時。授業の準備のために立ち寄った時にビンセント先生が確認している。
保管状況については、アビゲール様の言葉尻から推測していたよりは悪くなかった。しっかり専用のケースに入れて、魔法で今日かもしていたそうだ。
そして、鍵も魔法式と物理式の二つを併用していて、キーワードを知っていてなおかつ鍵も持っていなければ開けることができない。
そして、ここからが重要だ。
鍵を持っていたのはビンセント先生1人。ただし、この錠前ふくむ校内の全ての物理式の鍵を開ける事の出来るマスターキーが二つある。
一つは厳重に事務員室で管理されていて、もう一つは学園長が保有していた。
そして、確認したところ、その両方とも紛失はしていない。
現在、1時から4時30分までの間に借りている人はいなかったか等を含めて調査中。
また、窃盗目的は不明。
「これで大丈夫でしょうか。」
そう言ってぼくはインクの乾いた書類をアビゲール様の方へさしだす。彼女はそれを机から拾い上げると、しげしげと一通り読んだ。
「うん。良くまとまっているよ。あとはこれを専門部署に届ければ徹夜で印刷してくれるはず。」
「て、徹夜でですか……。」
「そりゃそうだ。なにせ学園の沽券にかかわってくるからね。早めに状況報告をしないと一斉に生徒たちが来なくなるなんてこともありえなくはない。」
「は、はぁ……。」
そう言って書類をまとめて紐で結ぶ。
それと同時に部屋の外が騒がしくなってくる。
「どうやら、近衛が来たみたいだね。さて諸君。言うまでもないが今は各自警戒をしなければならないことは理解しているね。
あのサイズの魔石なら一通り魔道具を動かせるし、そうでなくても魔術に一定の心得があれば魔石から魔力を引き出して術を強化するなんて簡単だ。ベンジャミン、君でも可能だろう?」
「そうですね。あの大きさを使うには苦慮するかもしれませんが、砕いて細かくすればどうとでもなります。」
「まあ、そうでなくてもあの魔石を爆弾にでもされたらたまった物じゃない。ということで、各自警戒しつつ、何か異変があれば報告するように。」
そう言って、今日の生徒会業務は終わるのだった。




