4-2:アイスクリームと乙女心 -前編-
翌日。
約束通り、エフィたちは女性3人で遊びに出かけていた。
エルシオンには、エフィの故郷にはなかったものがたくさんある。ミラが笑顔で近寄っていったアイスクリーム販売のワゴンもそのひとつだ。
「魔法がなくてもアイスが作れるなんて……」
エフィはエルシオンの蒸気機関の技術力に目を見開いた。
イーリスでも、アイスクリームは存在していた。しかし魔法による温度管理が必須なため、氷属性魔法使いが経営する氷菓店はいつも混雑していた覚えがある。
「チョコアイス、みっつください」
アリステアからお金を預かっているミラが注文してくれた。店員ははじめ金貨にぎょっとしていたが、てきぱきとお釣りをとアイスを用意してくれる。店員は硝子の容器にアイスを盛り付け、その上にスプーンで焦げ茶色のとろりとしたものをかけた。
「これは……?」
鼻を近づけると、甘く濃厚な香りの中にほんの少しの苦味を感じた。
「チョコレートだよ。もしかして、エフィさんの故郷にはなかった?」
「うん。はじめて見たよ」
邪魔にならないように道の端に寄ってから、改めてアイスに向き直る。
ミラが迷いなくスプーンでアイスとチョコレートを掬っているのを見て、エフィもそれに倣う。アイスの甘さとチョコレートのほろ苦さが程よく混ざり合い、端的に言うととても美味しい。
「これ、すごく合うね……!」
「でしょ? わたしの好物」
ミラがアイスを一口含んでから胸を張る。
「チョコアイスなんか、久しぶりに食べたわ……」
ナターシャも頬を緩め、アイスを口に運んでいる。そんな彼女がふと、エフィを見た。上から下まで、じっくりと検分するように。
「ナターシャさん?」
「エフィ、その服は自分で選んだの?」
言われて、エフィは下を向いて自分の体を眺めた。今日の服装は落ち着いた生成りのブラウスとコルセット、白の膝丈スカートというシンプルなものだ。動きやすいし目立たない。
「何か変でしたか? これは前にアリステアと一緒に買ったものです」
アリステアの名前を出した瞬間、ナターシャの眼光が鋭くなった気がした。その気迫に、思わず一方後退る。
「こういうことに関しては、アリステアが信用ならないってことがよくわかったわ。全く、機能のことしか見ていないのかしら」
「ナターシャさんもそう思う? わたしと同じ意見だね」
ミラまでそんなことを言い出した。エフィはふたりの顔を見比べてしまう。
「どうしてアリステアを同行者にしてしまったの? ルーカスの方が、そういう気配りができるタイプだと思うのだけれど」
「護衛の問題。兄さんとエフィさんがふたりで遠出するのはリスクが高いから」
「そう……とても残念なことね」
ナターシャが唇を噛み、ミラは渋い顔をしている。
「えっと、話が見えないんですが……?」
エフィが声をかけると、ふたりが示し合わせたように一斉に振り向いた。いつになくふたりが怖い。
「エフィの服のことよ。もう少しなんとかならないかしら……。エフィは元が良いから、もっとお洒落な服装をすれば化けると思うの」
ナターシャがエフィの顔を覗き込んで微笑む。彼女はチョコレートと同じ色のケープとロングスカートという服装で、大人の落ち着いた女性といった雰囲気を醸し出している。
(お洒落だな……)
端的に言って、その服装はナターシャの魅力をよく引き出していた。
「わかる。スタイルもいいし、可愛い服が似合いそう」
そう言うミラもまた、フリル多めの可愛らしいスカートを穿いている。
「ちょ、ちょっと待って」
ふたりの勢いに呑まれそうになり、慌ててエフィは声を上げた。
「お洒落なんてその……したことないんです」
「そうなの? その髪留めは?」
ナターシャの指摘に、エフィは編み込みを留めている花の形をしたバレッタに手をやった。
「これは兄様にもらったんです」
「……ええ、そうよね。アリステアにそんなに気が利くとは思えないもの」
アリステアの散々な言われように、エフィは目を瞬かせる。
「……故郷にいた時は、エルシオンみたいにたくさんの服やデザインがあった訳じゃなし、特別裕福でもなかったから、あるものを着ていました」
素直に白状すると、ナターシャはアイスを食べるのをやめ、こちらに真剣な眼差しを向けてきた。
「エフィは、それでいいと思っている? アリステアと一緒に服屋に行ったんでしょう? それで何か感じなかった?」
ナターシャの問いかけに、そっと視線を逸らす。道行く人々は、誰もがお洒落に着飾っていた。
エルシオンに来たばかりの頃、アリステアと婦人服の店に行ったときのことを思い返す。
(あの時、店の中に色んな服やアクセサリーが売っていて――)
華やかな、非日常の空間。エルシオンの人たちが唯一選べる場所。その空気に、エフィは――
「……ドキドキしてた」
口から本音が滑り落ちる。ナターシャとミラの空気が緩み、ふたりは満面の笑みを浮かべた。
「ね、じゃあ後で、お洒落な服も買いに行きましょう」
「お金あるし、豪遊しちゃう?」
「ええ。それであのふたりに見せつけてやるのよ。特にアリステアには念入りに」
「それ、いいね」
ふたりが何やら盛り上がっている。エフィは目を瞬かせた。
「み、見せつける? なんで?」
「なんでもよ」
ナターシャが力強く断言した。普段の冷静な彼女らしくない、答えになっていない返答だった。
「あ、あのね、ついでになんだけど……エフィさんに聞きたいことがあるの」
ミラが真剣な顔で、改まってそう言ったので、エフィは思わずアイスを食べる手を止めた。賑やかな街中なのに、この一角だけ空気が張り詰める――
「好きな男の人、いる? というか兄さんとアリステアさん、どっちが好み?」
「……………………え?」
予想外の質問に、エフィは硬直した。




