表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/59

3-2:お願い


「エフィ、いくよ」


 アリステアが告げる。

 ふたりがいるのは、エフィの家のすぐ横にある平原――昨日、魔法銃の試し撃ちをした場所だ。

 

 エフィが頷くと、すぐにアリステアが後方へと回り込み、右手首を掴んできた。そのまま強い力で彼の方へと引き寄せられる。

 普通に振ったり、引き抜いて振り払おうとしてみるが、彼の右手はびくともしない。逆に、こちらの手のうっ血が増すばかりだ。


「これで終わり」


 耳元で声が聞こえた。左手も伸びてきて、エフィの胴を拘束する。両手で抱えられるようにされると、もう暴れても逃れることはできない。無駄な体力消費をやめて、全身から力を抜いた。

 細身に見えるアリステアだが、こういう時は彼も男性なのだなと思い出す。


「相手が男だと、君が力で外そうとするのはまず無理。だからそれ以外の方法を考える必要がある」


 言われた瞬間、エフィの頭にぱっと閃いたものがあった。


「例えば、魔法を使うとか?」


「もし本当にヤードに捕まった時は有効だね。でも、これは魔法を使わずに逃れる訓練だから――」


 話しているタイミングを見計らい、エフィはもう一度、逃れようと暴れる。が、アリステアの拘束は揺るがない。


「んー! だめ、逃げられない。話し中なんだから、ちょっとくらい油断してくれてもいいのに」


 エフィが再び大人しくすると、アリステアの力が緩み、今度こそ解放された。ぱっと身を翻すようにして、彼から一歩、距離を取る。


「そうだね。でも、相手の油断を誘うのは良い作戦だと思う。こういう風に拘束されたら、膝を曲げて前傾姿勢をとってから、踵で足を踏んで」


「……えーと、やっていいの?」


 エフィの躊躇を、アリステアが小さく頷いて吹き飛ばした。


「遠慮なくどうぞ」


 言うが早いか、アリステアが動き出す。咄嗟に身構えたが、目で追えないほどの速度で背後へ回り込まれた。先程と同じように後ろから両手で拘束され、身動きが取れなくなる。

 咄嗟に暴れそうになるのを抑え、エフィは腰を落とす。


(……ごめん!)


 心の中で謝罪してから、彼の足を勢いをつけて踏みつける。息を堪えるような音が聞こえ、力がほんの少しだけ緩む。その隙をついて、体を捻るようにして腕の隙間から滑り出た。


「できたね。……この感覚、ちゃんと覚えておいて」 


 アリステアの方を振り向くと、彼は僅かに顔をしかめていた。


「痛かったよね、ごめん。治癒魔法をかけるよ」


 しゃがみこもうとしたエフィの手首を、アリステアが掴んだ。ゆっくりと首を横に振る。


「僕は大丈夫。……ところで、この状況だったらどうする?」


「えっ!?」


 彼がエフィの手を掴んだのは、訓練の一貫だったのだとようやく気付いた。

 力押しで何とかしてみようと試みるのは、最初に一度失敗している。アリステアの手を見つめ、考え込んだ。


「どうにかして捻って脱出するか、さっきみたいに弱いところを見つけるのがいいのかな」


「そうだね。掴んでいる方の親指側は力が弱くなりがちだよ。前腕を捻って、肘を支点に振り払う」


 アリステアに言われた通り、腕を回して位置を整える。少し力を込めてみた感覚だと、確かに親指側の方は比較的拘束が弱そうだ。エフィが一気に振り払おうとした瞬間、反対側の手首を彼に掴まれる。


「あ……!」


「捕まえた。……時間をかけると、相手がより有利になる。今の動作を素早くやってみて」


 エフィが頷くと、アリステアは両手の拘束を外した。間髪いれずに、再度手を掴まれる。

 先程の感覚を思い出しつつ、今度は素早く手を捻り、思いっきり腕を振り抜いた。驚くほどあっさり手が抜けて、逆に勢い余って体全体のバランスが崩れてしまう。


 アリステアが受け止めてくれたので、転倒は免れることができた。エフィは息をついてから、姿勢を整える。


「できた!」


「うん、この感じだよ」


 アリステアが言いながら、手首をまた掴んだ。


「咄嗟の時に体が無意識で動かせるように、何度も練習する方がいい」


「わかった!」


 エフィは頷き、自分の手首を掴む彼の手に視線を落とした。






 それからしばらく、アリステアとふたりで様々な拘束から逃れる方法を練習した。


「少し休憩しようか」


 彼にそう言われるまで、何度練習したかわからない。アリステアがそのまま草原に座り込んだので、エフィもそれに倣った。


 激しい運動ではないから疲労はないが、精神的には張り詰めていたらしい。爽やかな風が吹いて、故郷の気配に心が和んだ。

 掴まれ続けた手首には、赤く跡がついていた。それを見て、アリステアが目を伏せる。


「……ごめん」


「こんなの良いよ。私からお願いしてることだもん」


 エフィは笑った。


「むしろ、私が申し訳ない気持ち。わざわざ時間割いてもらってるし、何度も足を踏んじゃったし」


 普段のアリステアなら、淡々と返してくる局面。しかし今は、彼は僅かに視線を逸らした。その態度の理由が気になって、エフィは彼の顔を覗き込む。


「……どうしたの?」


「いや……」


 アリステアが言葉を濁す。

 

 そのまま沈黙が続く。エフィはなにも言わずに、彼の言葉を待った。いつになく歯切れが悪いその言葉の続きが、ただ聞きたかった。


 長い長い沈黙の後――


「……エフィに、お願いしたいことがある」


 アリステアが繰り出してきたのは、予想外の言葉だった。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
イラストの銃らしきモノはこの辺りで初登場なんですね。ヤードのオッサンからかっぱらったのは単なる借り物だったんですね。意外と出番が遅かったのは意外でした。
真面目なシーンなのに、後ろから手首と胴ってことは実質バックハグ?更に様々な拘束……?という邪な感想しか出てきません。どうしたものでしょうか。不真面目な読者をお許しください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ