表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/59

2-21:監督


「なに、これ……」


 それを見て、エフィは絶句した。

 

 時刻は夜。ミラ以外の全員で、例の詐欺師を捕まえるために賭場を訪れていた。エフィは賭場に行ったことがなかったが、こそこそと賭け事をする裏社会文化のイメージだったので、路地裏にひっそりと佇む薄暗い屋内施設を想像していたのだが――


「すごいだろ。賭場(カジノ)は大人の社交場だからな」


 ルーカスが笑う。


 エフィの目の前に広がっていたのは、電飾でギラギラと彩られた扉と、その向こうに広がる豪華な大ホールだった。赤い絨毯にシャンデリアが煌めき、着飾った人々がグラスを片手に賭け事に興じている。

 場所も大通り沿いにあり、誰でも入れるようになっていた。


「ここは星府公認なの。数少ない娯楽のひとつなのよ」


「予言があるのに、賭け事は成立するんだね」


「誰がどれだけ当てるか、なんてことまで記されてないからね」


 アリステアがカジノ内で一喜一憂している客を見ながら呟く。


 ナターシャは来たことがあるのか、慣れた様子で専用のコインを購入していた。色とりどりで可愛らしいデザインだ。


「はい、どうぞ。くれぐれも、目的を忘れて遊び倒さないようにね」


「なんで俺を見て言うんだよ」


 ルーカスが言いつつ、ナターシャからコインを受け取る。


「固まっても仕方ないし、適当にバラけて探すか。あ、エフィは俺と行くか。こういうとこ、初めてだろ?」


「うん、よろしくね」


 ルーカスに向かって頭を下げる。


「……エフィ、ルーカスがやり過ぎないように監督して」


 アリステアがそんな一言だけを置いて、素早くエフィたちから離れていった。 


「おいアリス! どういう意味だよ!」


 ルーカスの声にも彼は振り返らない。ナターシャは笑いながら、アリステアとは別の方向へと向かっていった。


「エフィ、何か興味があるものはあるか?」


 ルーカスの言葉に、エフィはきょろきょろと周囲を見回す。


「あれ、ルーレットだよね。私の故郷にもあったよ」


 懐かしさに惹かれて、ルーレット台に近寄った。

 

 魔法で動いているらしく、当たりのマスがキラキラと光るようになっていた。台の周囲で見守っていた客が、ゲームの結果にざわつく。

 エフィたちが見守る中で、客が各々チップを賭け、新しいゲームが始まった。玉を投げたのはディーラーではなく、小さな人形だ。エフィは目を見開く。


「人形が動いた……!?」


「あ、エフィは自動人形(オートマタ)を見るの、初めてなのか。ゼンマイで動いてるから、魔法じゃないぞ」


 ルーカスが笑いながら説明してくれる。


「ディーラーによる不正対策として、ウィールは機械で制御してるから、機械の調子で当たりがある程度予測できたりするんだよな」


 他の客に聞こえないように、ルーカスが耳元で囁いた。彼はルーレットを制御している機械をじっと観察し、それからコーナーにコインを5枚賭ける。彼が自信ありげなので、エフィも同じ所に賭けてみた。

 ディーラーがゼンマイを巻き、自動人形(オートマタ)が玉を投げる。かちん、と軽快な音を立てて玉が落ちた。エフィとルーカスが賭けたところだ。客がどよめく。


「ほらな」


 ディーラーから随分と増えたチップを受け取り、ルーカスは得意げに唇の端を上げる。


「なるほど、アリステアの『監督しろ』ってこっちの意味だったんだ」


「ん? まさかエフィ、俺が大敗すると思ってたのか?」


 ルーカスが眉尻を下げてこちらを見てきたので、微笑んで誤魔化しておく。


「ま、確実に不正だからあんまりやりたくないんだよな。それに今日の目的はコレじゃない」


 彼はそう言って肩を竦めた。

 

 ふたりで適当に賭け、勝ったり負けたりしながら周囲の客の様子を観察する。客は楽しそう、もしくは外して悔しそうにしていて、不審な様子はない。


(詐欺師って言うからには、人を騙して儲けようとするんだよね……?)


 エフィたちのテーブルで、特別大きく勝っている者はいない。何ならエフィが一番勝っているくらいだ。ルーカスも同じことを思ったのか、腕を組み直した。


「なあ、ちょっとここにいてくれ。アリスに様子を聞いてくる」


 そう言うが早いか、彼は席を立った。離れたテーブルでトランプゲームをしていたアリステアに声をかけ、ふたりでカジノの奥の方へと歩いていく。


(ナターシャさんはどうしてるかな)


 気になって、カジノ内を見回す。ナターシャの姿はすぐに見つかった。

 

 彼女は壁際にあるカウンター席で、優雅にグラスを傾けていた。すらりと長い脚に、女性らしい体つき。美しい顔も相まって、思わず見とれてしまう。

 そんな彼女を周囲の男性が放っておくはずもなく、ナターシャは頻繁に話しかけられていた。彼女は嫌な顔ひとつせず、都度にこやかに対応している。


 エフィは無意識のうちに、自分の胸元に視線を落とす。


(……ご、5年後! 5年後にはナターシャさんみたいに……)


 そう思ってはみたが、何となく無理な気がして、小さくため息をついた。



 

 エフィはひとりでルーレットを続けていたが、ある程度のところでチップを回収し、席を立った。


 ルーカスが戻って来ない。


(何か、あったのかも)


 そう思ったらじっとしていられなくて、エフィはルーカスが向かったカジノの奥へと歩を進めた。

 カジノ内には、特別異変はないように感じる。ナターシャはまだカウンター席で男性たちと喋っている。ルーカスとアリステアの姿はない。


 絵柄を合わせるゲームができるエリアまで歩いてきたが、やはりふたりは見つからない。ため息をつき、元の台に戻ろうかと悩み始めた時――


「……エフィ?」


 後ろから声をかけられた。振り向くと、ルーカスが立っていた。


「どこ行ってたの?」


「それはこっちの台詞だぞ。エフィは可愛いからな、悪い男に連れ出されたかと思った」


「あのね、そんなにほいほい誰かに着いてったりしないよ」

 

 エフィは彼の冗談を笑い飛ばす。ルーカスが笑い返した。その表情に、目を瞬かせる。


「それくらい心配したんだよ。エフィは妹みたいなものだし。ほら、行くぞ」


 ルーカスがエフィの手を取って、元いたルーレット台の方へと歩き出す。エフィは彼の手をぎゅっと握り返した。


「お、おい?」


 自分で握ってきたのに、彼は戸惑ったようにこちらを見た。照れているのかほんのりと赤くなっている彼の顔を、エフィはじっと見上げる。

 その反応で、確信した。


「貴方、ルーカスじゃないでしょ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すごい! 違和感を書くのがうまいぃぃ(´゜д゜`) 最初の「……エフィ?」からどことなく漂う他人感! なんだろ。微妙に、お前違うな!感が出てる!! 読み手側にその感覚を抱かせられるかどうかってムズいじ…
Xの予告で「胸」「5年後」という単語を見て、ミラかと思ったら、エフィでしたか。さすがに無茶があるかと^^; ナターシャが、星詠みという立場から、なんとなく箱入り娘的なイメージでしたが、話が進むほどに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ