表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

2-19:世界が終わるのは10日後


 モーニング事件から、また数日後が経った。これで、ルーカスの家に暮らしているのは5人になる。

 一応エフィの家も使っているから、この同居生活が手狭ということはないのだが、ひとつ、重大な問題に直面していた。

 

「あのね、お金が……ないの」


 買い物係を任されているエフィとアリステアは、帰宅して席に着くなり、みんなの前でそう白状することになった。育ち盛りのミラにはたくさん食べてもらいたいし、男性ふたりはよく食べる。それを考慮すると、どうしても食費は嵩んでしまう。

 

 俯いたエフィの肩を、隣に座っているルーカスがぽんと叩く。


「暗い顔するなって。別に今すぐ世界の終わりって訳じゃないんだ、何とかなるさ」


「ルーカス」


 彼の明るさに、エフィの心が僅かに軽くなった気がした。


「そうだね。生活費は計算上、あと10日分くらいだから、世界が終わるのは10日後だ」


「おいアリス、俺の渾身のフォローをぶっ壊す発言はやめろ」


 ルーカスがアリステアを睨むが、彼は全く意に介する様子がなく、生活費が入った財布の中身を確認していた。エフィも横からそれを覗く。


「なんとか節約はしてみるよ。そうだなぁ……お肉を減らしたりとか」


 何気なく言った一言に、ルーカスの顔色が青ざめた。本当にこの世が終わるかのような、絶望的な表情だった。


「兄さん、ドンマイ」


「それが嫌なら、一番節約すべきはルーカスだね。いつも無駄遣いをしているから」


 アリステアが青い瞳をルーカスへと向けた。彼の目が、途端に泳ぐ。


「無駄遣いってなんだよ。俺のはほら、アレだ。蒸気機関をバラすのは俺の使命であって――」


「無駄遣い。だいたい兄さんがばかすか閃光弾とか使うから、それも家計に響く」


「え、そんなこと――」


「ある」


「あるね」


 ミラとアリステアにぴしゃりと言われて、ルーカスが項垂れる。テーブルの向こう側で、ナターシャが笑っているのが見えた。


「ごめん。私が仕事をしてない分、ルーカスたちの負担だよね。今からでも、仕事を探して来るよ」


 エフィは席を立とうとしたが、ルーカスに手を掴まれて即引き戻される。


「おいおい、エフィは星府に追いかけられてるだろ。ひとりで出かけるのは反対だ」


 そう言われてしまうと、反論の言葉が思いつかない。


「そうだね。それくらいならルーカスを仕事漬けにした方がいい」


「なあ、今日のアリス、めちゃくちゃ辛辣だよな? もしかしてお肉減にキレてる?」


 アリステアは返事をしなかった。エフィは思わず笑いそうになってしまい、慌てて彼から見えないように顔を背ける。


「僕も……富裕層相手に治療をすることを、考えたほうがいいかもしれない」


 アリステアが考え込むように顎に手を当てる。


「いや、それはやめとけ。ていうかアリスが貴族に媚び売ってるところとか想像できねぇ」


「た、確かに……」


 エフィはうっかりルーカスに同意してしまった。アリステアが何か言いたげにこちらを見たが、結局彼は何も言わなかった。


「冗談はともかく、アリスが現時点でしてないってことは、それはしたくない事なんだろ。無理は必要ないぞ」


「でも、それだとお金の問題は解決しないよね。どうしよう……あ、兄様の部屋にあるガラクタ、売り払っちゃう? 魔法のアイテムだから一応、需要あるよね?」


「それはダメ。お肉抜き」


 ミラはとりつく島もない。


「くっ……そんなことが許されていいのか……!?」


 ルーカスの眉尻が下がる。憔悴しているらしい男性ふたりが、なんとなく可哀想になってきた。


(うーん、私の魔法を活かして、何かできないかな)


 エフィがそう考え始めていた頃のことだった。


「ちょっといいかしら」


 これまでずっと口を閉ざしてきたナターシャが、すっと手を上げた。


「ナターシャさん、どうぞ」


 ミラが仰々しく告げると、ナターシャがおもむろに立ち上がった。全員の視線を受けて、僅かに頬を染める。


「ええと……お金がないのなら、稼ぎましょう。私、実はいい仕事を知っているの」


「いい仕事!?」


 ルーカスがぱっと顔を輝かせた。 


「ええ、とっても割がいいわ。少し肉体労働がきついかもしれないけれど……お肉のためなら余裕よね?」


 ナターシャが含みを秘めた笑みをルーカスへと向けた。その迫力に、彼の顔が引きつる。


「おい、嫌な予感がする」


 ナターシャはルーカスの発言を無視して口を開く。


「賞金首を捕まえるのよ」


「賞金首……バウンティハンターってこと?」


 アリステアの問いかけに、ナターシャは力強く首を縦に振った。


「世のため人のためになって、しかもお金も貰える。いいことばかりよ」


「私、やりたい!!」


 エフィは机に手を着いて、勢いよく立ち上がる。隣のルーカスが信じられないものを見る目でこちらを見た。


「エフィ、相手は犯罪者だぞ。危ないんだぞ」


「わかってる。でもね、それなら私も役に立てるでしょ? ルーカスに気兼ねなくお肉を食べてほしいの」


「うっ」


 エフィはルーカスの顔を覗き込むように見る。料理担当として、やはり食べる人が好きなメニューを提供したかった。

 

 彼はしばらく無言で抵抗していた。が、ルーカスの顔が僅かに緩みそうになっていることに気付き、エフィはめげずに彼の顔を見つめ続けた。

 

 やがてルーカスははあ、と息を吐く。


「……ああもう、わかった。それなら俺もやる。荒事を女性に任せるわけにはいかないからな」


「ありがとう! あ、でも、そういうのって予言で誰が捕まえるか、決まってるんじゃないんですか……?」


 エフィは恐る恐るナターシャに視線を向けた。彼女は優しく微笑む。


「大丈夫。賞金首が捕まるとは予言されているけど、『誰が捕まえるか』は予言に記されていないわ」


「……つまり、捕まえるチャンスはあるけど、ライバルも多い?」


 ミラの質問に、ナターシャが頷いた。


「それでもやるよ」


「エフィに賛成。失敗したら、僕が貴族からお金を巻き上げ……じゃない、貴族相手に働く」


「何か今、変な言葉が聞こえた気がするぞ」


 ルーカスの突っ込みに、アリステアは無言、無表情を貫いていた。


「よし、決まりだね!」


 エフィの言葉に、全員が揃って頷いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これはあれですか? ルーカスとアリステアでエフィをつかまえて、もらったお金で美味しいお肉っていうツッコミ待ちですか?(笑) バウンティハンター……なんでナターシャがそれを知ってたかは謎ですが、この5人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ