6-20:地下の街
地下の街に、ルーカスとミラは大はしゃぎしていた。
「この技術、上に持っていくつもりはないのか!?」
「は? 馬鹿か、そんなもの星府に目をつけられて終わりだろうが。こっちは表向きは普通に貴族してるんだぞ」
オズワルドはその熱量に呆れつつも、律儀に一つ一つに答えている。
「魔法の明かりって不思議で、とても綺麗ね。ルーカスじゃないけれど、今のエルシオンにこの技術が使えないのはとても勿体ないわ」
「やっぱり1個貰って、家に飾りたい。それくらいいいでしょ?」
ミラがオズワルドの袖を引っ張っている。最初は彼の粗暴な態度に怯えていた様子だったのに、いつの間にかすっかり打ち解けていた。
「おい、これを渡しておく」
オズワルドが言って、小さな何かを投げた。エフィはそれを慌ててキャッチする。手の中にあるのは、小さな金属製の鍵だった。
「中央にある谷沿いの、赤い屋根の家の鍵だ。お前らにやる」
「えっ」
オズワルドが貴族であることは重々承知しているが、家をまるごとひとつ渡してくれるのは予想外で、エフィは目を瞬かせた。
「エルシオンからこの街に降りる道はいくつもある。後でそれも教えるから、『もしもの時』に使え」
その言葉に、少しだけ胸に重さがかかった。オズワルドは、エフィたちが追われて、逃げ込む場合のことを想定しているのたろう。貰った鍵をぎゅっと抱きしめる。
エフィの背後から、誰かが近寄ってくる靴音がした。
「へえ、こんな所にいい嬢ちゃん方がいるじゃねぇか」
「ん?」
どこかで聞いたことのあるような口説き文句に、エフィは振り向く。声をかけてきたのは30代くらいの男で、こちらを見て下卑た笑みを浮かべる。
「あれ、貴方は――」
「軽々しく話しかけないでくれる?」
ナターシャが不快感を顕にしながら、軟派な男を睨む。エフィは思わず、彼女の肩をとんとんと叩いた。
「待って、ナターシャさん。この人、あの時の情報屋ですよ」
ナターシャがルーカスの家に来たばかりの頃、生活費のために彼を追い回したことがあった。エフィはそれをはっきりと覚えている。
「えっ?」
ナターシャは男をまじまじと見つめた。しかし、首を横に振る。
「ごめんなさい、思い出せないわ」
「まあ、前に一回会っただけですしね。……情報屋は、どうしてここに?」
エフィに水を向けられ、情報屋は大袈裟に肩を竦めてみせた。
「ま、地上じゃ追われて生きていけないからな。ここでオズワルド様の世話になってる。魔女のおかげで拾った命だ、これからは精々真面目に生きていくさ」
「と言いつつ、女の子に声をかけるのは相変わらずなんだ」
エフィが言うと、情報屋はバツが悪そうに笑った。
「じゃあな。俺はいつもこの辺にいるから、何かあれば声をかけてくれ」
ひらひらと手を振って、情報屋は去っていった。
彼を見送っていたエフィはふと、ひとつの露店に目を留めた。銃のおもちゃのようなものが並んでいて、その銃口は奥の棚に置かれている様々な商品に向けられている。
「商品を銃で撃つの……??」
思わず疑問が口をつく。兄妹に絡まれていたオズワルドが、エフィの声を聞いて引き返してきた。
「そういう遊びだ。当てたものを貰える」
「へえ、面白そうだな!」
オズワルドにくっついて、ルーカスとミラまで戻ってきた。ふたりは目を輝かせて露店を見ている。
オズワルドは店主に貨幣を支払い、銃を手に取った。持ち手部分に魔石が埋まっている。
エフィの魔法銃とは違い、それそのものに魔力が宿っているようで、オズワルドは迷いなく引き金を引いた。
弱い魔力が放たれ、ゼンマイ仕掛けのウサギの人形に吸い込まれるように当たった。店員から受け取った人形を、オズワルドは興味なさげにミラに手渡す。
「わ、かわいい」
ウサギの頭を撫でて、ミラが笑顔を見せる。
「オズワルドは相変わらず、射撃上手だね」
エフィがそう言うと、オズワルドは得意げに鼻を鳴らした。
「俺もやってみるか」
ルーカスも店主に支払い、銃を構えた。彼が銃を使うところは初めて見る。エフィはドキドキしながら見守った。
呼吸ひとつ分だけ経ってから、ルーカスが銃を撃つ。真っ直ぐに飛んだ魔力が、イヤリングが飾られた土台を正確に撃ち抜いた。
「ほら」
ルーカスはイヤリングを、エフィの手にそっと握らせてくれた。手の上で、イヤリングの水色の魔石が光を反射している。イーリスを思わせる、ツタの装飾が印象的な一品だ。
エフィは目を瞬かせる。
「いいの?」
「俺がつけても仕方ないだろ」
ルーカスが明るく笑った。その表情に、最初からそのつもりでイヤリングを狙ったのだと気付いてしまう。
「ありがとう……!」
エフィは笑みを返した。なぜか、オズワルドが鋭い目線をこちらに向けてきた。
「おい、次だ」
オズワルドが再び構え、イヤリングよりも更に狙いにくいハンカチを落とす。
「今のは俺でもいけたぞ?」
ルーカスが軽口を叩き、次の標的を品定めに入る。いつの間にか商品を落とすことよりも、いかに難しい的に当てるかを競う方向になっている気がするのは、エフィの気のせいだろうか。
ナターシャが呆れたようにため息をついた。
「……全く、ふたりとも子供なのかしら」
「ある意味、気が合うんだろうね」
ルーカスとオズワルドが張り合っているのを見て、アリステアが呟く。彼は一切参加しようとせず、ただふたりの様子を遠目に見守っているだけだ。
「アリステアはやらないの?」
エフィが聞くと、アリステアはゆるゆると首を横に振った。
「……見ているだけでお腹いっぱいだから」
「あ、わかる」
エフィが答えると、アリステアは小さく微笑んだ。




