6-14:ここにいること
エフィが撃った光を、ドミニクはいとも簡単に籠手で弾いてみせる。逆に彼が撃鉄を上げたのを見て、素早く身を翻した。放たれた鉛弾を、近くにあった柱を盾にやり過ごす。
(これで6発。普通はリロードが必要、だけど……)
エフィは思案した末、勢いよく柱から飛び出した。全速力で、ドミニクから死角になる機械の裏を目指す。彼が放った弾が左肩を掠め、エフィは表情を歪めた。それでも走るのはやめず、機械の裏へと転がり込む。
「やっぱり、銃は2丁持ってるんだ」
しゃがんだまま、エフィは思わず呟く。笑い声で返された。この男に、以前と同じ手は通用しない。
(どうすればいい……?)
攻撃手段は魔法銃だけ。それも彼が万全な状態では防がれてしまうし、銃を使いはじめて日が浅いエフィでは命中率も悪い。
考えている間に足音が近付いてきた。再び走って距離を取る。
出方に悩むこちらの思考を切り裂くように、エフィの背後、吹き抜けの2階部分にある扉が、ばんっと音を立てて開いた。新手かと身構えるが、飛び込んできたのはオズワルドだった。
「オズワルド!」
「悪い、何人か抑えきれなかった」
キャットウォークに立つオズワルドは、ドミニクに向かって銃を構えると同時に、引き金を引く。躊躇いなどひとつもなかった。弾丸がドミニクの頬を浅く裂き、背後の機械にめり込む。
「こっちはお嬢さんにしか用事がないんだがな?」
ドミニクがオズワルドに銃口を向ける。それが火を吹く前に、オズワルドは伏せて射線を外れていた。弾は金属製の床に弾かれる。
さすがに姿を晒し続けるのは不利だと判断したのか、ドミニクも機械の陰に入り込んだ。
「なあ、お嬢さん。あんたにひとつ聞きたいことがあるんだ」
戦闘の音、歯車の音を背景に、ドミニクが歩いてくる。足音が、騒がしい工場内にはっきりと反響する。
「なぜ、予言を変える?」
エフィにとってそれは、ひどく単純な問いだった。ルーカスとナターシャの顔が、ぱっと脳裏に浮かんで消える。
「愚問だな」
オズワルドの呟きが聞こえる。
次の攻撃に備えて魔力を集めながら、エフィは口を開いた。
「予言通りに誰かが死ぬことを、私が受け入れたくないから」
足音が、止まった。工場内は騒がしい音で満ちているのに、エフィの周囲だけは時が止まったように空気が凍りついている。
「死ぬことが、正しいとしても?」
ドミニクの声が、一段低くなった。
「あんたが行動することで、大勢の運命が変わる。もしかしたら、予言よりも早くに死ぬ奴が出るかもな? それについてはどうする?」
エフィは、未だ続く出入口付近の剣戟の音に耳を傾ける。アリステアが戦っている。
――僕は、予言の通りに死にたいと思っているんだ。
いつかの、彼の言葉が甦る。あんな悲しい言葉を、もう聞きたくなかった。ただその運命を『正しいから』と思考停止して受け入れるなんて、論外だった。
息をいっぱいに吸う。
「予言は、絶対じゃないよ」
声を張り上げた。工場内にエフィの澄んだ声がこだまする。その瞬間、誰もが動きをぴたりと止めた気がした。
「予言に記されない私がここにいることが、何よりもその証拠、でしょ?」
迷いなく告げる。
誰かが、エフィがここにいることを望んだから――だから、エフィは今、こうして立っている。
視界の先に、オズワルドがいた。いつも不機嫌そうな顔ばかりしている彼が、僅かに唇の端を上げているのが見えた。こちらも笑みを返す。
「だから俺は、異分子であるあんたを排除する。俺は予言に従って、正しく不穏分子を粛清してきた。そうしなければ秩序が保てないからだ、わかるか? 『お嬢さん』?」
かつんと靴音が鳴った。近い。隠れるのは限界だろう。
物影から飛び出しながら、魔法を放つ。幻が2体生成され、計3人のエフィがドミニクに向けて、全く同じタイミングで魔法銃を構えた。
ここは建物の中。足音は反響する。どれが本物か、判断できないはず――
そう思っていたエフィの慢心は、ドミニクが真っ直ぐに本物のエフィに銃口を向けてきたことで崩れ去る。迷ってすらいなかった。
「おい!」
オズワルドの声が飛ぶ。エフィは攻撃をやめ、柱の裏側に咄嗟に飛び込む。
床に強かに体を打ちつけ、一瞬息ができなくなった。直後に銃声。風に搔き消されるように、エフィの幻が光の粒子になって消滅する。
「それ、影がないだろ?」
こちらに一歩ずつ近付きながら、ドミニクが笑う。考えてみれば、当たり前のことだ。あくまでも幻なのだから。エフィは自分の見通しの甘さに唇を噛んだ。
痛みを堪え、起き上がろうと前を向く。ヤードのひとりと視線が合った。こちらに向けて銃を構えている。ひどく、長い時間が流れたように感じた。
前にはヤード。後ろにはドミニク。
――間に合わない。
「エフィ!」
ルーカスとオズワルドの声が、重なる。
続けて発砲音。オズワルドの弾が、正確にヤードの右手、握られた銃を吹き飛ばしていた。ルーカスがヤードを組み伏せ、制圧する。
オズワルドがこちらに視線を向けた。
エフィは起き上がり、前へと走る。
背後で、ドミニクが引き金を引いた。
「魔女を庇ったか」
ドミニクの声と銃声に、エフィは思わず振り向いてしまう。狙いは上――オズワルド。弾はドミニクから意識を逸らしていたオズワルドの右肩を正確に貫く。
ぱっと、血が舞った。




